>>241
(握り返してきた手は柔らかく、女性のそれだ)
(能力の代償で成長が止まったとはいえ、異形との戦いで鍛えられ、何度も傷ついた渡辺の手とは異なる)
(手放すことがないよう、しっかりと握りしめる)

(そして二人は弦場の掛け声と共に異形が待ち構える線路へと、一切の躊躇いなく飛び込んだ)
(蠢く異形は小石を投げたときと変わらず、目に止まらぬ速度でこちらへと突撃してくる)
(速度と質量の合わさった一撃は、人間の脆い身体を砕くには十分だ)

(強靭な身体を持つ渡辺でさえ、全身の骨を砕かれ、臓器が弾ける感覚には耐えきれない)
(だが手だけは離すことなく掴んだまま、まとめてレールの向こう側へと弾き飛ばされる)
(やかましく鳴り響くベルは止まり、静寂が辺りを包む)

(そこに、まもなく轢死体となるはずだった弦場の声が響く)
(その小さな声を聞いた瞬間、渡辺の身体が何の前兆も予兆もなく)
(まるで衝突がなかったかのように、飛び込む前と同じ身体に戻っていた)

―――なんとか……なったのか!
とんでもない能力だな、まさか時間を操るとは……

……ああ!あの化物が次に何をしてくるか分からん!
とっとと逃げ出すぞ!

(掴んだ手を離すことなく、歪みの少ない景色の向こう側へと二人で走っていく)
(もはやベルが鳴ることはなく、夕陽が二人を照らすのみ)
(走り続けてふと、気づいてみれば)

(聞き慣れたコンビニの入店音が、渡辺の耳に入る)
(渡辺の記憶によれば、このコンビニはあの踏切の向こうにあったはず……)

……無事、抜けられたみたいだな。
最初はどうなることかと思ったが……後は、連絡しておけば大丈夫だろう。

(既に日はほとんど沈みかけ、月が明るく輝き始めている)
(星が瞬き始め、夜と言っても過言ではない時間帯だ)

助かった……本当に助かったよ。
何か礼をしたいが、今日はもう遅い。
……これを。俺の携帯の番号だ。

(パーカーのポケットから取り出したメモ帳に、同じく取り出したボールペンで)
(さらさらと電話番号を書き込み、ちぎって紙片にして弦場に渡す)

何か、今のような事態が起きたり
化物が現れたら電話してほしい。
場所さえ教えてくれれば、今度は俺が助けてみせる。

(そう言うとパーカーのフードを被り直す)
(能力を持つ者、普通でない者は必ずこういった事態に巻き込まれる……)
(それこそ人生の終わりまで、昔に出会った、ある異能者はそう言っていた)

(ならば、可能な限り助け合いたい)
(渡辺はそう信じて、この紙片を渡したのだ)

【これは強い……使用間隔が気になるところです】