「うーんそう来たか……この年で名付け親になるなんてね」
(来栖の言うことは普通の人間ならば受け入れづらいことだ)
(だが、藍は既に普通ではない領域に住み、学生の裏で普通ではない仕事を生業としている)
(こういったことには慣れていた)
「――なるよ、名付け親。それじゃあ名前を言うから、
この子に聞こえないようちょっとお耳を拝借……」
(来栖の耳に囁くように名前をつぶやき、そっと元の位置に戻る)
(人形は一旦木箱に戻しておいたので、名前として認識されることはなかったはずだ)
『マリアって……名前にして。
特に理由はないんだけど、それが一番いいって思った』
(さて、と藍は両肩を一回ぐるんと回して気合を入れる)
「正式に、ってことは何かの儀式をするのかな?
専門家に分からないことが私にできるとは思わないけど、護衛ならお任せあれ!
こう見えても私、用心棒をしたことがあるのです!」
(ドンとあまりない胸を張って立ち上がる藍だが、その藍色の瞳はまっすぐだ)