(ひろしと呼ばれた子供のために誰かがなにかをしてくれた、ということが彼女にとって重要なのだろうか)
(だから、そして何より緋彩自身そう言ってもらえれば締め付けるような胸の痛みも和らぐから)
……ありがとう、ございます
(ふと胸を交い抱く腕にから力が抜け、その言葉を受け入れて、控えめに口許をつり上げることができた)

(語られる身の上話。)
(人形の様に儚い姿からは噛み合わない荒々しい言葉、自身を兄と呼ぶ言葉――それらに引っ掛かりを感じて色素の薄い肌や眼などを)
(見つめて珍しい容姿であるそれが女性のものであることを確認する。)
(もっとも彼女くらいの年齢の子ならばまだ性の違いは容姿に出ないこともあるので断言するには足りないが、それよりも、だ。)
…………
(緋彩にはこの少年のような言葉を重ねる少女の気持ちをわかることはできない。)
(頑張れとも、泣くなとも言えないし、推し量って弟分の亡骸を送ってやれなんて促すこともできない)
(誰かの死に直面したとき緋彩は自身を襲う死から逃れるのに精一杯だったから気持ちを汲んでやることはできない、だから)
(禍々しき力をもってして上がる炎を上げる血のにじむ手をとることしかできない)
……すみません、その嫌なら放してくれていいですから
(初対面の自分でよければ吐き出したいことも聞くし、と言う言葉は聞き取れないほどにか細いものになって緋彩の口から紡がれ)
(彼女の様子を伺うように前髪の間から視線を投げて)