(市内の端に位置するとある山の中腹には、もう何十年も花が咲いていない、古くて大きな八重桜の樹がある)
(地元の大学の調査でも既に枯れていると診断されていたが、ここ数年、一夜だけ咲くことがあるという都市伝説が噂されていた)

枯れ木に〜、花を〜、咲かせましょう〜♪

(市街地では既に開花宣言がされているものの、山中では櫻が咲くのにはまだ早い時節の夜中のこと)
(この古き八重桜の下で舞を踊る少女の姿があった)
(純白の白衣に明るい朱色の緋袴、その上に薄く透ける千早をまとった巫女の装束)
(左手には大きな瓢箪の徳利、右手には少女の頭くらいもあるある赤い大盃)

枯れ木に〜、花を〜、咲かせましょう〜♪

(少女が左手の徳利から右手の大盃にお酒を注ぎ、くいっと一口で呑み干し、花咲の翁のように謡う)
(すると、少女の小さな口から白いもやが漏れ出し、宙を漂って枯れた八重桜の枝にまとわりつく)
(白いもやは枝の上に積み重なっては溶け、重なっては溶け、綿菓子のようにふくれていって、)
(やがてそれは淡く色付き始めて何かの形を成す――八重桜の花に)

枯れ木に〜、花を〜、咲かせましょう〜♪

(少女は、舞い、呑み、謡う。何度も、何度も)
(少女の舞いにあわせて、八重桜の枝や足下の草が一緒に舞い踊る)
(枝に絡んだ蛇らが、草むらを這う蛇らが、ゆるやかに、少女の舞いにあわせてうごめく)
(アオダイショウやシマヘビ、ヤマカガシ、そしてマムシ)
(よくよく見れば、少女の身体にも数匹の蛇が飾りのように絡みついている)
(八重桜の根元には、ひときわ大きなニシキヘビがとぐろを巻いていた)

枯れ木に〜、花を〜、咲かせましょう〜♪

(少女の名はミズチ。遠い昔に日本へ渡来した蛇神の巫女)
(この地へ居を移した時に見つけたこの古き八重桜の元で、毎年、一夜かぎりの宴を開く)
(『満開』の名を持つ御神酒で八重桜を蘇らせ、冬眠から目覚めた眷属達の健康と幸運を祈願する)

枯れ木に〜、花を〜、咲かせましょう〜♪

(少女は楽しそうに、舞い、呑み、謡う)
(少女を見守る蛇たちも、爬虫類ゆえに見た目の表情はわからないが、なんとなく楽しそうな雰囲気を醸し出していた)

【こんな感じで、初見で普通じゃないとわかるような宴ね】
【あと、ミズチの神楽も祝詞もオリジナルなの。八雲さん本人やご両親の職業的に、作法としてはいい加減なものとわかってもおかしくないかな】
【気持ちがこもっているから何かしらの効果があるけれど、正しい作法ならもっと効果がある、とかもかな】
【ではでは、よろしくお願いしますネ】