>>81
(たとえどんなに辛い時でも、苦しい時でも、花鳥風月を愛でる心の余裕だけは)
(持っておけと教えてくれたのは父だった。それと、好みのタイプの異性がいたら)
(とりあえず口説け。ニカッと笑う父を氷の微笑を浮かべて抓る母)
(故郷にいる父と母は、多分今もこんな感じで元気でやっている事だろう)

(その日、八雲琥珀はとある山に登っていた。あまり舗装されてはいないが)
(歩き辛さは感じない。何故こんな場所に、しかもこんな時間にいるのか)
(それには多少の説明を要する。平たく言えば、アルバイトなのだが……)

……ん、祝詞?
(春の訪れを祝う歌声だと、最初は思った。よく耳を澄ますと、花咲か爺さんだった)
(祝詞にも聞こえるし、ただ歓喜の歌にも聞こえる)
(母は言った。本質的にそれらに差異はありませんよ、と)

(わたしは一本の桜の樹であるは、一本はわたしの桜の樹である、等価なのだとも)

へ、蛇?ちょちょちょ。
うわ、こんなにいるのか。どこかの動物園から逃げてきたの?
えーっと、どうしよ……?
(歩を進めると、桜の樹が咲いていた。そう、あの都市伝説通りに)
(その桜の樹の下で舞い踊る巫女さんと、多種多様な蛇たち)
(一見して普通ではない。場所も、集っているものたちも、何もかもが尋常ではない)

す、すみませーん、お邪魔して申し訳ないのですがっ!
少々お尋ねしてもいいですか。
(一度深呼吸して、腹から声を出す。初対面の怪しい人物だとは言え、いやもしかしたら)
(人間ではないのかもしれないけれど、ここはひとつ礼節を持って接し、事情を尋ねる)
(ことにする。殺気を出すのは殺す直前だけがいいと父は言う)
(滅すると決めたなら非情に徹しなさいと母は教えてくれた)

【はい、それではお願いします】
【その辺は突き詰めなくとも、楽しめるかと】
【雰囲気だけでも楽しいものですよ】