(禁欲を続けて一週間、自ら貞操帯をつけてまで我慢していたのはこの日のためだった)
(2年以上焦がれた、欲しくて欲しくてたまらない、愛しのあの子がついに私の元へ来る)
(時折報告はさせて様子は窺っていたけれど、日に日に淫らに染まり、作り変えられ、歪んでいくあの子の話を聞くたびに、手近なメイドの尻に、浮かんだ劣情をぶつけてきた)
(それももう終わり。彼女自身にぶつけられるようになるのだから)
(2年前の醜聞、まして直接目にする機会も多くはなかった町の民にも、少し思い出せば、皇太子妃になろうとした罪人の話は思い至るほど知られて)
(馬車にまでヒソヒソと、勝手な噂や侮蔑の言葉、悲惨な末路を憐れみつつ同情しない声、そんなものが行く道の脇に溢れる)
(揺れの少ない、高級な馬車と熟達の御者のなせる快適な旅路はゆっくりでも、確実に、そこへミレイユを連れて行く)
(屋敷の城門を抜け、街から切り離された壮麗な庭園を抜け、辿り着いた屋敷は、かつてミレイユが住まった屋敷より大きく華やか)
(それは、もしかしたらミレイユが主になったかもしれない宮)
お待ちしておりますわ、ミレイユ。
(待ちきれず玄関まで降りて出迎えたのは、この宮の主、皇太子妃、アイビー。その脇には、宮で働く多くのメイド)
(本来ならば賓客への待遇であり、庶民より下層に落ちた奴隷一人にはありえない歓待だった)
(すらりと高い背にふわりとしたドレスを纏い、しなやかな手足にはロンググローブとストッキング、ヒールの高い靴も美しい艶で、アイビーは特別なときに身に着けるような装いだった)
(本来ならば皇太子妃が受けるような丁重なもてなしが、ミレイユへされていた)
多少なりとも顔を知る関係でしたもの。せめて知らぬ誰かに渡らぬよう、私が引き取らせていただきました。
ミレイユ……お聞かせくださいまし。あなたは、罪を犯そうとしたのですか?
(鍵をつまみ、馬車に上がり、ミレイユが入った檻を開けながら、身を案じたような言葉を述べる)
(じっと待つメイドの一人が、まるでミレイユの味わった過酷を嘆くように俯いた……)
(もっとも。実際は主の白々しい猿芝居に笑い出しそうなのを堪えていただけだったのだが)
【では、ええ、よろしくお願いいたします】
【最初、私はしらを切って、あなたが罪を犯したかどうか疑わしく思っているフリをすることにいたしますわね】