痴漢に出くわしても、ショックから声を上げられない女性は少なくない。そして里桜もまた、そうした女性の一人だった。
尻を撫で回してくる2本の手に驚き、次いでそれが複数の人物によるものだと気付いて更に混乱し。
やめて下さい、と言おうにも何故か口が上手く回らず、気付けば背後から下半身を思うがままにされているこの状況。
程よく肉の付いた尻や太腿の弾力が、痴漢たちの手を心地よい反発で楽しませているなんて、被害者である里桜には知る由もない。
快とも不快とも判別しがたい、妙なくすぐったさを伴う手の動きがストッキングの上を滑り始めた頃になってようやく――
(もしかして、この人たち……益坂さんが酷い目に遭わされたっていう……ッ)
――件の痴漢集団と同一人物かもしれないという可能性に思い至った。
自分でさえこんな気持ちになるのだから、まだ未成年だった教え子の感じた恐怖はどれほどのモノだっただろう。
そう思えば、絶対にこの集団を許してはいけない、好きにさせてはいけないという教師としての正義感が沸き起こってくる。
次の駅で駅員に突き出してやる、むしろ今からでも大声を出して、少し離れた席で眠りこけている乗客たちに助けを求めて捕まえてやる。
そう、決意を固めようとした、その時。
『いきなりだけど、この写真、あなただよね?』
3人目の男から掛けられた声と、そして見せつけられた画像とに、里桜の顔は一気に青ざめた。
見間違えるはずがない。忘れられるはずもない。
如何にも男好きのする表情で、仕草で、卑猥な小道具で飾られたその写真に写っていたのは、都内の大学に通っていた頃の彼女の顔だった。
学費と生活費とを捻出するため、アルバイトをしなければならなかったあの頃。
けれど、要領が悪くうっかりの多い彼女にとって、真っ当な仕事で学業との両立を図りつつ働くというのは、とても大変なこと。
そんな時に、ふと見かけたインターネット上の求人に、里桜は悩みぬいた末に縋りつくことにしてしまったのだ。
「……何ですか、貴方達は……知りません、こんなこと、すぐにやめて下さい」
拒絶の言葉にも力はない。口にできただけでも大したものだけれど、只でさえ白皙の美貌から血の気が引いた顔と、僅かに震える肩とを見れば、事の真偽は明らかだ。
風俗店に勤めていた頃よりも1サイズ、カップ数の増えたバストを揉んでくる手を、振り払うことすら里桜にはできない。
「今なら、まだ警察には言いません、だから、こんな痴漢なんて、やめ……っ」
言葉に詰まる。遠い日の過ちが、今になってこんなところで自分を追いかけてくるなんて、思いもしなかった。
画像の中で、反り返ったバナナを頬張っているのは、とろんとした目つきの里桜自身。
水着姿で、ヨーグルトのかかったバストを持ち上げて舌を伸ばし、白いソレを舐め取っているのも里桜自身。
豊満なバストの谷間に挟み込んだ、バナナの先端をとがらせた舌先でつついているのも、媚びるような笑みを浮かべたあの頃の里桜自身。
何が「特濃ミルク、搾りたてを頂きます♪」だ。あの頃から、あの店のキャッチコピーのセンスの無さは変わっていない。
「やめて、下さい。今ならまだ、誰にも言いませんから……お願い、します」
あの頃よりも、更に成熟した里桜の肢体。
松川と西山が触れる太ももに、グッと力が込められたのはショックで身を固くしたからか。
学生のころから男子の注目の的だった豊かな乳房が、社会人となってから一層増したボリューム感で山口の手を楽しませる。
恐怖と緊張から、じっとりと汗ばみ始めた白い肌に、薄手のブラウスが張り付いて紫のブラを透けさせ始めていた。