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痴漢たちのアイコンタクトなんて、今の里桜に気付ける筈もない。
自分は拒んでいるんだという意思を示す為だけの、ささやかな抵抗を続けることで精一杯だったからだ。
身を捩っても山口の手は乳房をこね回すことを止めず、腰をくねらせても西山と松川の指はスカートの中に潜り込んだまま。
窓ガラス越しに抗議の目で睨み付けても、悔し涙で潤んだ瞳に男たちはイヤらしい笑みを返すだけだ。
それでも、心だけは屈してはならないとの思いから、里桜はそれらの行為を続けることに必死だったのだ。
故に、痴漢たちの見せた早業と、そこからの新たな辱めに至る一連の動きにも、ろくに反応できず。
背後から引っ張られた生地が張り付いて浮かび上がらせる、双丘の豊かな丸みと先端の桃色の突起とを、咄嗟に手で隠すことも出来ない。
2つの膨らみのうちの片方は、西山の手によって結果的に覆い隠されることになったのだけれど、それで屈辱が晴れるわけでは無かった。
左の乳房を服の内に入り込んだ手で、右の乳首を服の上から指や手のひらで、それぞれ別の男にオモチャにされる姿が、窓ガラスに映っている。

「そんなわけ、ありません……ッ」

気持ち良くなってきたんじゃないかという、山口の言葉を即座に否定しつつも、里桜は怖くて仕方のない気持ちでいた。
自分を取り囲む3人の男たちの手つきは、どれもが女の弱いところを責めることへの慣れを感じさせるもので。

「やめ、やァ…・・ッ耳、舐めない、でっ」

現に、こうして音を立てながら荒い鼻息と共に耳を舐められ続ける内に、言いようのない痺れがうなじから全身へと肌の表面を薄く粟立ててくる。
悲鳴を上げればますます喜ばせるだけだと、辛うじてそれだけは堪えながらも、耳をナメクジに侵されるような感触にうまく力が入らないでいた。
そうこうしているうちに今度は尻を弄っていた手が動きを変え、ストッキングが音を立てて引き裂かれてしまう。
犯される――大切な場所を守る薄い布が1枚、その役目を果たせなくされたという事実を前に、里桜は貞操の危機を感じずにはいられない。
だが、太ももを閉じようにも山口の巧みな舌の責めで耳孔をくすぐられ、力を籠めるタイミングを逸してしまった。
自らの意思によるものでないとは言えど、松川の思い通りに脚を開いてショーツを触らせる羽目になり。
探るような動きを見せる彼の指先が、紫のシルク越しに敏感な場所をあっという間に探し当てる間も、里桜はされるがままでいるしかなかった。

「貴方達は、ひきょう、もの、です……!」

好きでもない男たちに囲まれ、性器を責められたとてAVのようにすぐに気持ち良くなることはあり得ない。
けれど、性感帯とは何れも外部からの刺激に対して敏感な感受性を持つ部位であり。
女の身体を玩具にすることに慣れた男たちの、巧みな連携を前にしては――

「寄ってたかって、女を、脅して、はずかし、め……ぇ……ぁンッ!?」

――ごく自然な生理現象としての反応を、示してしまうことは里桜の理性を以てしても止められなかった。
思わぬ刺激に上ずる声。聞きようによっては、そこに薄っすらと甘い響きを見いだせないこともないと思うのは、里桜からすれば男の身勝手な妄想だったが。
僅かに上昇する体温と、より柔らかさを増して指や手のひらを受け止める乳房の肉感、更に弾力を増してくる先端の乳首。
そして、クロッチの湿り気という形で控えめな自己主張を始めてしまった、最も恥ずかしい場所。
これらの反応は、否定しようのない事実である。
白い肌に浮かぶ汗を吸った布地は身にまとう主を裏切り、本来隠すべき肌へと張り付いてその形を露わにし、或いはその色を透けて浮かび上がらせる装飾品となり果ててしまっていた。
薄手のブラウスに薄いシルクの下着という、ちょっとしたオシャレのつもりで選んだ衣服。
そして、寒がりな教え子の為に選んだ弱冷房車という環境。
それらが完全に裏目に出てしまったことを、窓に映る淫靡で屈辱的な己の姿から、里桜は理解せざるを得なかった。
里桜にできたのはただ一つ。己を映す窓ガラスから目を背け、足元に落ちたジャケットへと悔し涙の雫を一つ、落とすことだけ……。