>>30
(何日か前、ここ最近元気がないなと心配していた幼馴染で一番の親友の優花里から痴漢されていることを聞いた)
(女の子の平均的な身長で胸も自分よりは大きく、クリっとした円らな瞳が小動物を思わせて可愛い親友が)
(痴漢されていると聞いては黙ってはおれず、少し早く起きて女性専用車両に乗ることも勧めてみたが)
(自分でも知っているけれど、優花里は低血圧で早起きを頑張っているけれどそれが難しく)
(周りの乗客に、何らかの方法で助けを求めるようにアドバイスをしてみたが)
(大人しく控えめな優花里は、恥ずかしくて怖くて出来ないと言われて)
(近々に迫った新体操の大会がなく、朝練もないので一緒に登校することにして)
(痴漢から親友を守ることを決めたのは数日の前のこと)


もう、優花里ったら仕方ないんだから……。
(親友からの駅に着くのが、約束の時間ギリギリになりそうとのLINEのメッセージを受け取り)
(他の誰にも聞こえない程の小さなため息を吐き、リプして別のアプリを立ち上げる)
(幼稚舎に入る前からの親友で、優花里が低血圧で朝に弱いことはよく知っていても)
(もう少しだけ頑張って早く起きれないのかな、そうすれば女性専用車両に乗れて痴漢なんかに逢わなくて済むのにと思っていた)

慣れないな。前の子、小っちゃくて良かったのに……。
(気に入っていたローズゴールドのiPhone SEのバッテリーの持ちが悪くなり、父が買ってくれたのは新型のiPhone Xsで)
(性能が上がったりしたのはどうでも良く、大きくなったのが何となく気に入らなくてひとりごちる)
(男子高校生や大学生、若いリーマンが最新のiPhoneを弄る姿を羨望や欲望の眼差しで見ていることには気づいていたが)
(新体操の大会で人に見られることには慣れていて気にも留めず、自分の世界だけに没頭して)

宮本さん、へぇ、本気でオリンピックを目指すんだ。やっぱり凄いな、私には無理だけど。
(何度も大会で一緒になり、優勝する姿を間近で見た二つ上の他校の選手が)
(オリンピックを目指す意気込みを語っている記事を見つけ、他人事のように素直に感心して)
(ただ、宮本さんがなぜか自分に関心を持ち、何度も今みたいなぬるま湯の学校から)
(本気で新体操に力を入れている学校へ移ることを勧められ、一緒にオリンピックを目指そうと誘われたこともあり)
(記事を読みながら凄いと思う反面、あの時誘いを受けてればと少しだけ想像してみるが)
(結局、母も二人の祖母も曾祖母も通った、今は流行りスタイルではないとはいえ憧れだった学校のセーラタイプの制服と)
(友達とコンサートやショッピングに行ったり、ディズニーランドに行ったり出来る普通の生活全てを捨て)
(新体操だけに打ち込むだけの生活には何か違う気がして、断りの返事をした時に)
(「やっぱり貴方もただのお嬢様な訳だ」と言われたことを少しほろ苦く思いながらも後悔はしておらず)
(優花里が来るまでお気に入りの音楽を聴きながら、再びスマホを弄りに没頭していく)

(自分が痴漢が集うSNSで次のターゲットにされ、一般車両へ誘き出すために親友が痴漢被害に遭ったことを知らず)
(髪を染めることが今時校則で禁止されいるにも関わらず、自分の髪が濃いブラウンでクォーターであることなどの)
(個人情報が痴漢たちにより徐々に暴かれていることにも、魔の手が背後まで伸びてきていて)
(この先の人生が大きく狂わされていき兼ねないことにも全く気づいてはいなかった)

遅っ〜いよ。間に合わないんじゃないかって、心配したんだからね。
もう、専用車両に乗るのは無理だからここで仕方ないよね。
(乗る予定の電車が近づいたアナウンスが流れるのと同時に、親友の優花里が現れると)
(頬を膨らませて怒った表情を見せるが本気で怒ってなくて、すぐに笑みを浮かべてイヤホンを外して)
(電車がホームに入ってくるのを確認すると、女性専用車両の位置まで移動するのを諦めて手を繋いで最寄りのドアへと乗り込んでいく)

【長くなったので分割します】