>>38-39
翌日の朝、視線を巡らせて理絵の姿を探すと、専用車両が近い側の階段の脇にいるのが見えた。
専用車両に乗ろうとする狙いなのは深く考えずともわかる。
わざわざ痴漢に遭遇する他の車両に乗る必要は無いのだからそうするのは当然だ。
ただし、理絵一人なら可能なことも、友達がいれば難しくなるだろう。
理絵の姿を視界に納めながら、専用車両寄りの場所に自分の立ち位置を予め移動しておく。
あとは理絵の友達が来てから二人の動きを見て追いかければいい。
そして昨日よりは少し早く友達が姿を見せ、駆け出す様子が見て取れた。
だが、専用車両に着く前に友達の方が根を上げたらしく、理絵も合わせて立ち止まる。
目論見通りと言うほど計算していないが、適当に移動していた場所のすぐ近くで、さり気なく理絵の後ろに移動。
そこで気付いたが、理絵は友達の後ろに立って痴漢からしっかり守るつもりらしい。
意志が強く、友達想いのそんな理絵の姿を見ながら、昨夜SNSで見た画像を再び思い返す。
あの画像以上に余裕のない表情をさせてやりたいという思いが更に大きく胸の内に沸き起こるのを感じていた。

そんな想いを抱きながらも、男は理絵の後に付いていくだけ。
理絵が考え出した痴漢対策への対処法を実践するのは周りの男たちの方だった。
細かく連携を打ち合わせたわけではないのに、理絵と友達の横にいた人たちが別々の方向へ動く。
理絵の身体は左側へ、友達の身体は右側へと無理やり流されてしまうだろう。
そうなれば前後に固まることは出来なくなり、友達の方を担当する痴漢が遅れて乗り込んできて優花里の後ろに付く。
そして理絵の後ろには変わらず張り付くようにして位置する男がいた。
残る課題は後ろ手に回したスクールバッグだが、これに関しては周囲の助けは期待できない。
自力でどうにかするしかないわけだが、それに関してはまず電車が動き出すのを待つ。

車体が揺れ、混雑した車内で乗客の身動きが取りにくい状況のまま電車が発車する。
そしてそろそろバッグに対する対処法を行うわけだが、当然バッグを無視してスカートに触れることは難しい。
であれば、どうするか。男の考えは簡単で、触れない場所は無理に触らず、触れる場所に触る。
つまり、後ろ手にバッグを持ちガードする手自体を狙ったのだ。
お尻を最初に狙ったのは手始めに狙いやすいからであり、絶対にそこから始める必要は無い。
代わりに手を狙うのは目の前に差し出されたからで、こうしたガードが無意味なことを分かってもらう為。
加えて、昨日の接触で理絵が敏感なことを把握しているからでもあった。
もしも感度の良さを知らなければ、いきなり手に触れることは流石にしなかったかも知れない。
ともかく、男は理絵の手を狙って右手を前に出して指を伸ばした。
バッグを握った手の輪郭を軽く指先でなぞるようにして触れ、手首の周りを巡る。
手首の内側の辺りに辿り着くと指を二本細かく動かし、擽ぐる動作で刺激を与えていく。
それから手全体に軽く触れては離れまたすぐに触れるという感触を伝える。
ベタベタ触るわけではなく、しかし無視は出来ずにむず痒さばかりが募るような触り方。
昨日お尻にしたのと同じような攻め方で、理絵の反応をじっくり見ていく。

もしも理絵が男の手を取ろうとすれば、すかさず接触をやめて自分からも手を絡める。
そして握りしめて軽く引くことで男性としての力を実感させることになるだろう。
そうした反撃が来なければ、理絵が根負けしてバッグを落としたり手を前にするまで接触を続ける。

【それならペースはこのままで維持させてもらうね】