>>87
「あ〜あ。今回理絵ちゃんリボンとクラブにしか出ないのかよ」
「仕方ないだろ。もともとこの大会は普通の大会には出場出来ない進学校やお嬢様学校の選手が、高3の先輩を送る会を兼ねた日々の練習の成果を発表する場なんだからさ。
 全国区で名も知られる選手も出場している大会で入賞経験のある理絵ちゃんが、一種目だけでも出場してレオタード姿見せてくれるだけで感謝しなきゃ」
「理絵ちゃん、彼氏いるのかな? もし、そうなら羨ましすぎる。
 俺、理絵ちゃんの最初の相手になれるなら何でもするよ」
「はいはい。あまり大きな声で言うなよ。危ない人に思われるぞ」
(当日、会場の痴漢の近くの席には、チケットを譲ってくれた相手の後輩に当たる高校生が理絵のことを話題にしていた)
(一人は完全に理絵のファンであり演技の始まる前から興奮していて、よく観察すれば)
(ブレザータイプの制服の上着か覗く、チェック柄のズボンの股間が明らかに大きく盛り上がっており)
(もう一人は相手が興奮し過ぎているせいで冷めてはいたが、それでも理絵の出てくるのを固唾を飲んで待っていた)

「理絵ちゃんファイト―」
「理絵先輩、頑張ってくださ〜い」
(土曜日の個人総合と団体総合に出場せず応援に回っていた理絵が、昨日と同じ学校指定のトレーナーでアップを始めれば)
(理絵の通学時と同じセーラー服や、リボンの色だけが異なる中等部のセーラ服に身を包んだ生徒が陣取る観客席から黄色い歓声が湧き上がる)
(その中には理絵の接触担当の痴漢にも見覚えがあるはずの優花里の姿もあり)
(痴漢されていた時とは異なる生き生きとした表情で理絵を応援していた)
(理絵は競技用の化粧にシニヨンに髪を纏めた顔を観客席に向け、笑みを浮かべて応援に優雅に手を振る)
(痴漢が知る艶やかな表情とも異なり、今日の理絵の表情は自信に満ちていて、やや大人びた印象も相俟ってより魅力的に見せていた)
(1つ目はボール種目で伴奏の音楽に合わせて舞う理絵は、片足を高く上げてバランスを取りながらボールをドリブルして)
(高く跳ね上げて手で受けて身体を捻りながらターンしたり)
(ボールを高くトスして、俯せの格好で足でボールを受け脚に沿わせて股まで動かし)
(股を開き身体を持ち上げてお腹の方へとボールを導き、ボールの上で身体を滑らせながらバランスを取ったり)
(左手の指先から身体をくねらせて右手の指先へボールを送ったりして存分に身体の柔軟性を見せつける)
(その演技は正確なだけではなく、人を魅了する繊細さを表情を含む身体全体で表していた)
(それだけなく身体のラインが浮き上がったレオタードが見せる艶めかしい表情と動きは、観客の特に男性を惹き付けていった)
(昨日と本日を含めて理絵の演技は、この大会で明らかなレベルの差を見せていた理絵の通う新体操に力を入れているお嬢様学校の中でも更に際立っていて)
(同じ種目で今まで演技を終えた選手の演技を、完全に超越していた)
(決めポーズを完璧に取り演技を終えて立ち上がった理絵は、友人や先輩、後輩のいる客席だけでなく)
(全体に向けて応援に対する感謝を込めて手を振る)

「理絵ちゃ〜ん」
「理絵先輩、もう一つ!!」
(クラブとフープの個人種目別が終わり再び理絵が競技場に姿を見せると、先ほどと同じように応援の声が響く)
(軽く応援に手を挙げて応えてから真剣な表情でポーズをとると、伴奏のイントロが流れ始める)
(手首をしならせ長いリボンを器用に扱いまるで生き物のように扱っていく)
(両脚を前後に開脚させリボンを高く投げ上げ、自身の着地と同時に前転をしてから再び開脚をして落下してきたリボンを受け取り)
(身体を捻りリボンを回しながら立ち上がり、背中を反らし脚を上げバランスを取る)
(また開脚ジャンプのシークエンスを繰り返してピンク色のリボンを舞わしたり)
(ビールマンスピンの体勢でターンをしながら、螺旋を描くようにリボンを扱ったり他の選手とは異なるレベルの高い演技を見せる)
(それは、新体操をよく知らない観客にも理絵の持つポテンシャルの高さを見せつけて演技を終える)
(会場の大歓声に手を振り笑顔で応える理絵の動きが一瞬だけ止まる)
[あっ、あの人見に来ていたんだ……]
(観客の中に痴漢の姿を見つけると、僅かに羞恥に頬を染め何もなかったかのように再び歓声に応えてから)
(小走りでチームメイトの集まるベンチへと戻っていった)