(宣言が解除されたといっても早急に日常が戻ってきたわけではない)
(今まで通りの生活が戻ってくるにはまだ時間がかかるだろうし、電車の中もそれは同じだった)
(以前ならもっと人が乗っていて、会話をする声も聞こえてきた車内だが、今はそれほどの乗客率ではない)
(乗っている全員がマスクを付けていて、会話をしようとする人の姿なんて無かった)
(そんな電車の中で、一人の男がドア横の位置をキープして立っていた)
(窓から外の景色を眺める顔は当然マスクをしていて、じっと見つめる瞳はどこか元気がない)
(特に目的がないのか、電車が次々と駅に停車しても表情は一切の変化を見せずにあと何駅で降りるという考えも無さそうだった)
(何処かに向かうためというよりは、何か考え事をするため、或いはただ時間つぶしのためという感じでの乗車だった)
(自粛するのに疲れて、宣言の解除に合わせて何となく出かけてみる──そんな一部の人間の一人)
(ドアが開いて、乗客の数名が降りて代わりに新たな乗客が数名乗ってくる)
(何回も目の前で見てきた光景を、繁華街に接したその駅でも、男は今までの駅の時と同じように眺めていた)
(誰かを探しているわけでもなければ、人間観察をするわけでもない、虚ろな眼差しで)
(だが、ホームに並んでいた列の最後尾にいたその女性が乗り込んできた──その瞬間)
(男の両目は、初めて感情が宿ったように見開かれた)
(美しい金色の髪が最初に目を惹いたのは間違いないが無論それだけが理由ではない)
(マスクで口元を覆い隠していても隠しきれない、鼻筋や瞳の美しさも勿論ある)
(だが一番の理由は、タイトな黒いワンピースによって強調された豊かなその肢体に対する反応だった)
(ワンピースから伸びる長い脚、細く美しさすら感じる腰のライン、そして大きくてワンピースから飛び出そうなほどの胸)
(目の前を通り過ぎただけでも一瞬で虜になってしまい、そのまま車内に向かう後ろ姿を視線が追ってしまっていた)
(女性が繁華街を歩いてきたなんてことは知らず、そこで何人もの男たちから視線を向けられていたかも知らないが)
(今男が向ける視線は、そんな彼らと何一つ変わらない欲求不満を抱え込んだ熱い視線だった)
(視線を向けるのはドア横の男一人だけではない)
(車内にいた乗客、特に男性客はすぐさま女性の存在に気づいて、視線を向けるようになっていた)
(あまり露骨に見てはいけないと思いつつ、スマホや本を隠れ蓑に控えめに覗き見るようにしているのが大半だ)
(そんな人々の中にあって、ドア横の男は今まで何もしていなかったこともあって、隠すこともせずに露骨に視線をぶつけていく)
(脚の先からお尻や腰周りを通り抜けて、胸から首筋、そして顔や髪に至るまで観察するように堂々と女性の体を見る)
(そこまではっきりと目に焼き付けるようにして見つめるのには、単純に魅力的だからという以外の理由が一応あった)
(男が自粛期間中に見た動画──その中に出てきた金髪の美少女の姿を思い出していたからだった)
(最初に見たのは、巨乳なのに敢えてサイズの合わないスク水を着て筋トレをする動画)
(はみ出たり食い込んだり、それだけでも十分にオカズにするには最適で、しかもアングルも際どいものばかり)
(動画が投稿される度に真っ先に再生し、一週間の間に十回以上は使用してその度に濃いものをたっぷりとティッシュに吐き出していた)
(しかし、その一週間で運営に見つかってしまったのかBANされてしまったらしく、慰めるのに夢中で保存していなかった男はもう見ることはできなくなった)
(幻なのではと思える程のその期間を忘れられず、男はそれ以来どうにも気分が乗らずに自分で慰めることもせずに今日まできた)
(その分溜まっていたからだろうか)
(或いは、あの動画の中で美少女が過激な露出をしながら見せていた恍惚の表情が、今視線の先にいる女性のマスクの向こうに重なってしまったからだろうか)
(ワンピースに包まれた体を見れば見るほど、あの動画のことが思い出されて、ここ最近は火の付くことのなかった体が熱くなっていくような感じがしていた)
【動画投稿ネタの方も拾わせていただきました】
【電車内で誘惑されて、次の駅で導かれるまま電車から降り…という流れでしてみたいです】