>>177
控えめに、遠慮がちに、重い扉の僅かな隙間から覗き見るような視線ばかり。
もっと大胆に見て下さっても宜しいんですのに……という呟きが、思わず唇から漏れ出そうになる。
電車内という公共の場であり、平時の混雑具合からは程遠いと言ってもそれなりに人影のある空間では、仕方のないことだとエリカも理解していた。
それでも、この逃げ場のない空間で、獣臭い熱を帯びた無数の目に囲まれることを思い描いていた彼女は……。

(物足りませんわッ)

と、草食動物の群れのような乗客たちの反応に、身勝手な怒りすら覚えていた。
普段の彼女なら、この程度でイラつくこともない。寧ろ、そんな初心な理性の衣を一枚ずつ剥いでいくことに楽しみを見出せていただろう。
けれど、今の彼女は2か月近いオアズケからようやく解放された身だ。
もっと過激で刺激的な時間を求めて、ご奉仕好きで露出狂な痴女としての本性がエリカの豊かな胸を内側から熱く焦がし続けていた。
車両の端で空いている席に腰を下ろすと、少しばかり大げさな動きで脚を組む。
果たして何人の男が、ミニ丈のワンピースから伸びた白い太腿の間に、幸運にも仄かな金色の陰りを垣間見られたか。

「……」

バッグから取り出したスマホを眺めながら尻の位置をずらし、長い脚を組み直す。
座り心地の悪さを直そうとしたようにも見えるその動きは、もちろん男たちを誘う為の次なる一手だ。
摩擦でずれたワンピースの裾からは、太腿の肌色が先ほどよりも多く見えている。
思わず撫でてみたくなるようなヒップの丸みが、真横に回ればきっと丸見えになっているだろう。
尤も、常識的に考えればそこには下着に類する何かがある筈で。
無粋な車両の壁と、彼女が横に置いたバッグとで巧妙に遮られて死角となったその光景を、男たちは想像の中で思い描くしかなかった。

(ホントは、何も履いてないんですけれど♪)

思惑通りに自分へと集まってきた視線の束で、痴女なりの自尊心を多少は満たされながら、内心で呟くエリカ。
次いで胸の下で腕を組み、ごく自然にメートル越えのバストを強調する姿勢へと移る。

(それどころか……ブラジャーだって♪)

こういうときでも浮いてしまわない自分の陥没乳首に感謝と、少しばかりの羞恥を覚えながら腕に力を籠める。
その様は、まるで布に押し込めた二つのメロンを抱えているかのようだ。
何だかんだ言っても、世の男たちの多くは大きなオッパイが大好きなのだと、改めてエリカは感じていた。

(あら……あらあら?)

エリカは、自身の身体へと向けられた一番強い欲望の主へと、探るように眼だけを向けた。
遠慮がちな目線ばかりの中にあって、一際熱を帯びた眼差しを隠し切れないでいる――あるいは隠す気が無いような、露骨すぎるもの。
その主を見出した彼女は、まず彼の股間へと一瞥をくれて――その強張りをしっかりと確認してから――ゆっくりと顔を上げ、蒼い瞳で彼の双眸を捉えると、薄い微笑みを浮かべて見せた。
まるで「近くに来ませんか?」とでも誘っているような、そんな笑みを浮かべて……。