(大きく膨れ上がったズボンの正面だけではなく、腰が揺れていたことも気づかれていただろう)
(だが、女性はそれらを視線で認めておいて、具体的に何かをしてくることはない)
(流石に電車内、しかも他の乗客の視線を集めている最中では動きたくても動けなかった)
(誘惑的な眼差しとは裏腹に理性を持ち合わせていたことに、安堵したような──或いは物足りなさを感じるような)
(そんな気持ちを心の何処かに置きながら、男はただ目の前で女性の肢体を見下ろし、今はその姿を鑑賞する喜びを堪能していた)
(もしかしたら、何かしらのアクションがあるのかも知れない──そんな淡い期待を捨てきれずに抱いたまま)
(その期待に応えるように、女性は視線を上げた)
(マスクによって細かい表情は窺えなくても、男に向け微笑んだような気がする)
(それが何かの合図であると思ったの束の間、女性の視線はスマホへと降りていきそこからの進展はなかった)
(一瞬の出来事に、反射的に強張りが更に硬くなってズボンの膨らみが持ち上がったもののすぐ元に戻る)
(何もなかった──というだけではなく、まるで何事もないかのようにスマホを見つめる女性の姿)
(それを見ていると、こんな風に目の前に立って興奮を見せつけているのが何だか急にマズイ事のように思えてくる)
(実際、それは危ない行為であって、夢から醒めて現実に引き戻されたような感覚だった)
……
(どうしようか、元の位置に戻ろうか、男がそう考え始めたとき)
(思考を再び引き寄せるような声が聞こえる)
(可憐な声は間違いなく目の前の女性から発せられた音であり、それに釣られて視線を向けていると)
(女性の指がワンピースのジッパーをゆっくりと下ろしていき、それと同時に露わになる白い果実)
(吸い込まれそうな深い谷間まで見え、もっとじっくり見たいと思った気持ちを遮るようにジッパーが戻される)
(残念に思った次の瞬間にはまた下ろされて、見えて、それがまた見えなくなって……)
(男の気持ちを弄ぶように繰り返される女性の指の動き)
(からかわれているように感じながらも、関心はどんどんと高められていき、見たいという欲求に正直に足が前に動く)
(と言っても軽く、本当に軽く前に踏み出しただけだが、その動きは女性にも伝わっただろう)
(視線は胸へと一直線に注がれて、もっと見たいという素直な欲求をそのまま現す)
(離れた場所にいる他の乗客からは、女性の指の動きはわかっても肝心の胸の露出は殆ど見えておらず)
(見え隠れしているだけでも十分に恵まれた状況なのだが、それだけで満足できるはずがなかった)
(だからと言って、直接頼むのも躊躇われて、もっと見せてもらうために男の側ができることは何かと考えてみる)
(──例えば、この股間の膨らみをもっと近づけてみるのはどうか)
(間違いなく不審者の行いだが、この女性相手ならば、違う意味合いを持つ気がして)
(吊り革をしっかり握りながら男は腰を前に突き出してみる)
(サイズには自信があり、その巨大さはズボン越しでもはっきりと分かるほどに膨れ上がっている)
(バランスを崩さないように足に力を入れながら出来る限り前へ、女性の方へ近づけて、見せつけるようにしていく)
【大丈夫です】
【元よりその予定でしたので】