>>13-14
(この日は大型メディアショップでの握手会イベント)
(事務所の同期でありライバルでもある他のアイドルたちと一緒なので気が楽な反面、負けられない)
(衣装は自由に選ばせてもらえたけど、他の皆と同じくライブで身につけたこともある衣装を選んでいた)
(可愛いフリルが付いたノースリーブのワンピースタイプでスカートはミニ丈。白くスラっとした細い腕と足が惜しげもなく晒されている)
(当然ファンの視線がそこに集まるのは感じて、ちょっとゾワッとする感覚もゼロじゃない)
(でも見られるだけなら平気。それでファンが満足してくれてこれからも応援してくれるなら望むところだった)
(それにこれまでの握手会で自分のファンは皆ルールをしっかり守って問題を起こしたこともなかった)
(他のアイドルから聞かされたことのある、ファン同士の争いなんて起きたこともなければ、身の危険を感じたこともない)
(その影響で警備の人が他に回っていることも会場を見ればすぐにわかったけど、自分のファンが信頼されてるのは嬉しかった)

これからも応援してよねっ! よろしく♪
(CDを買ってくれたファンにちょっと強めの口調で応援をお願い。それから笑顔で握手)
(何度も足を運んでくれるファンとは会話も少し続いたり、初めて見る人にはちょっとサービスで強く握ってあげたり)
(流れ作業のようで一応個々で対応を変えつつ、列に並んだファンを次々と消化してイベントを無事にこなしていく)
(中には汗っかきの人がいたりして、握手した瞬間思わず眉をひそめたくなったりもするけど、悪気がないのはわかってるから笑顔のまま)
(プライドの高さに見合うだけのプロ意識で今日のイベントも何事もなく終わりそう……だったはずなのに)
よろしく……ねっ?
(列の最後尾。今日のイベントもこれで終わりだと思えば、疲れていた気持ちにも最後のやる気が沸いてきて、思わず握手する手にも力が篭る)
(他の人と同じような……いや、他のオタクよりもよりオタクっぽい最後の一人と握手したのと同時に、手のひらに奇妙な感覚が走る)
(カエルを手のひらで潰したことなんてないけど、もしやってみたらこうなるんじゃないかって連想するような、気持ち悪い感覚)
(スライムとか実際に触ったことはなくてもテレビで見た印象は近いのかも。でも、この生暖かさは違う気がする)
(とにかく、言葉では言い表しにくいような気持ち悪さ。それを感じながら、顔からスッと血の気が引く)
あ、ありがとうー♪
(シングルの発売を祝ってくれる言葉にお礼を言わなくちゃってプロ意識で口が動くけど、ぎこちない反応)
(何かはわからないけど、この男……何か変なのを手のひらに付けてきた、ってのははっきり分かっていた)
えっとー、ユリアを応援してくれるのは嬉しいけどー
ちゃーんと手洗ってこなかったら、ユリアにも嫌われちゃうよ♪
お兄ちゃん、手洗いできるよねっ? 今度からきちんとやって来てほしいなー♪
(警備員を呼ぶことも、周りにはいないからできなくて)
(他のファンに助けを呼ぶことも最後尾だからできない)
(だから、自分で注意をしておくことにした。こういう対応もプロの役目と思っていたし、自分のファンならきっと聞いてくれると信じて)
(きっと何かを触ってしまってそのまま来ただけ……悪気なんてなくて、ちょっと失敗しちゃっただけだと信じて)
(だから、寒気は走るし正直触っていたくなんかないけど、男の人の手をあえてギュッと握ってあげて、信じてるってことを伝えようとする)
(握った瞬間、指の隙間からにゅるっとした液体がにじみ出て、手のひらにも強く塗りこまれる感覚に思わず吐きそうになるほどの嫌悪感を抱きながら)
(男の人を見上げるちょっと釣り目気味のサファイアのような瞳に、ほんの少しの涙が滲んで、会場のライトを照らして煌く)

【トリップつけてくださりありがとうございます。毎回ボリュームたっぷりとはいきませんが、可能な限り細かくお返事していきますね】