>>15
(男の大きな手と、ユリアの小さく薄い手のひらが重なり合って、互いに力が込められた瞬間)
(『ぐじゅるっ』と音がして、白濁色の粘液が彼女の手のひら全体に、一気に伸びてへばりつく)
(男は、その瞬間のユリアの表情にあらわれた動揺を見逃さなかった)
(ほんのわずかな硬直。「何かおかしなものを触らされた」と気付いた少女の、嫌悪と恐れに近い感情)
(それを、まるで声に出して言われたかのように、はっきりと感じ取れた)
(だからこそ……彼はにやり、と、陰湿な笑みを浮かべる)
(握った手を揉むように動かして、ザーメンをユリアのすべすべな手全体に、さらにすり込んでやる)
(指の谷間。爪の隙間。手の甲から、手首近くまで)
(その動きは、まるでオイルを使ったハンドマッサージをしているかのようだ)
ぶっ、ぶふふっ……♪ 今日もユリアちゃんは可愛いねぇ。手も小っちゃくて、おじさんの半分もなさそうだねぇ。
そ、その衣装、前のライブで着てたやつだよね?
とっても似合ってるよぉー。白いすらっとした脚が露わで……外国の湖畔に棲む妖精さんみたいだぁ♪
(少女の未成熟なカラダを、頭から足先まで、舐めるようにじろじろ眺めながら)
(無駄話をして、少しでも長くこの時間を楽しもうと試みる)
(一秒でも長く、ユリアの手の柔らかさと暖かさを感じていたかった)
(一秒でも長く、ユリアの手の皮膚に、ザーメンを塗り込み続けていたかった)
(そして、とうとうユリア自身から、手についた粘つくもののことを遠回しに注意されると)
(彼はむしろ、よく言ってくれました、とばかりに、不気味な笑みを深めた)
ぐひっ、うひひっ、ユリアちゃん、誤解だよぉ。
大好きなアイドルの握手会に、手を洗わずに来るわけないじゃないかー。
ちゃんと会場の外の手洗い場で、手を洗ったし……。
俺のがさついた手で握手したら、ユリアちゃんの肌を傷めるかも知れないと思って、皮膚を柔らかくする乳液を手につけてきたんだー♪
濃い乳液をたっぷりつけたから、ちょーっと湿った感じがあるかも知れないけど、その分もちもちな肌になってるでしょ?
ほらほら、ユリアちゃんからも、にぎにぎして確かめてみてよー♪
(口から出任せの噓を、自信満々に言い連ねる)
(「ユリアちゃんも感触を確かめてみて!」とばかりに、彼女の手全体を包み込むように握ってみたりもする)
(……彼女がこの噓に、どれくらい騙されてくれるかはわからないが)
(警備員は少し離れたところにいるし、会場に来ている他の客たちも帰り始めていて、ユリアが助けを求められる大人はいそうにない)
(……それは、突き詰めれば、会話次第では、もうしばらくこのまま、ユリアの手を握り続けていられるかも知れない、ということでもあった)

……あ、そういえばー。
こないだ、ウチの姪っ子が、ユリアちゃんに手作りのジャムを送ったって言ってたなぁ。
大好きなユリアちゃんから、ファンレターのお返事をもらえただけじゃなく、ジャムも食べてもらえたって、ものすごく喜んでたよぉー♪
まあ、今日はあの子、ちょっと体調崩しちゃって来れなかったんだけど……。
俺が握手会に行くって言うと、自分の分も応援の言葉を伝えてきて、って頼んできてさぁ。
いやぁ、ほんと呆れるぐらいのユリアちゃん大好きっ子で……ユリアちゃん、心当たりある?
(もう、たっぷり3分以上、男はユリアの手を握り続けている)
(周りには、彼と彼女に注意を向けている人間はいない。ユリアが強いて手を振り払わなければ、まだ少しの間は、このまま会話ができるだろう)