>>74
……褒めていただけるのは嬉しいです
(表情を殆ど変えることなく、静かに鈴の鳴るような声で素直に対応してみせる露葉)
(整った容貌も合わさり感情のない人形のように見えてしまうが、気持ちが無いわけではない)
(仕事のお相手に失礼のないよう表向きは押し殺してはいても、心の中では中年男性と二人きりの状況に対する警戒心が生まれていた)
この水着を……?
(グラビア写真の撮影ということは聞かされていたので不満はない)
(けれど手渡された水着を広げてみて、いや正確には一目見た時点でもうその布地の少なさに戸惑ってしまう)
(広げてからその構造を確かめていくにつれ、微かに目が見開かれて驚愕の色が露葉の顔に少しずつ広がる)
(傍目からではあまり変化しているようには見えなくても、確かに露葉の表情は揺れ動いていた)
……
(思わず言葉が出なくなってしまい、無言で掌の上の水着を見つめ続ける)
(この水着を身に纏った自身の姿が朧げに浮かび上がって、それを振り払うように瞼を閉じて軽く首を振る)
(気持ちを落ち着けてこの仕事を受け入れようとし、それでもまだ戸惑いのある露葉にカメラマンの次の言葉が届いた)
……はい、大丈夫です
(瞼を上げ腕を引いて水着を抱えながら頷いて見せる)
(視線はカメラマンの方には向けないで伏せたままでも、仕事からは逃げてはいけないと気持ちを固める)
(そして水着に向かおうと体の向きを変えかけてたもののすぐに元の姿勢に戻ってしまう)
(伏せていた露葉の瞳が上を向いてカメラマンと一瞬だけ目が合い、また逸らす)
……あの、どこで着替えればよろしいでしょうか?
(更衣室の場所を尋ねる露葉)
(さっき体の向きを変えかけた方向には着替え用と思われるスペースが見えていた)
(部屋の片隅に臨時用として作られたような小さな一角で、頼りないカーテンで遮られただけの空間)
(まさかそんな場所で着替えさせられるとは思いたくなくてカメラマンに問いかけた)