>>29
(くたり、と安らかに力の抜けたナオを見て、下地作りがおおよそ済んだことを悟る。もう、彼女に天使の力を振るうとか、悪魔に逆らおう、という考えは封じられた)
(後はその痕跡まで漂白する事と、望む形を与えていくこと――)

『要らないものを、手放して……忘れて。思い出せない。気持ちいい、幸せ、それだけが今の君の全て……だけれど』
(ふっと、これまで気持ちよさを肯定してきたところで、突然否定的に言葉を翻す)

『今の君は……何者だい?色んなものが無くなったナオは、はたしてなんなんだい?なんだったんだい?』
(不安を煽るような問いかけ。同時に、ナオは自分の身体が、溶けていくか、あるいは泡になっていく、灰か砂になって崩れていく……そんな)
(自分のカタチを見失い、バラバラに消滅しそうなイメージが襲う)
(心地よい海の中、崩壊する自分――そこに、救いを差し伸べるように囁く、マッチポンプ)

『君は幸せだ。そうだった。ならば、最も幸せな何かであったはず。そうだろう?』
(幸せ、をキーワードに、望む形へと繋げていく)

『君は幸せの絶頂にあった。ならば、幸せの絶頂が君だ。人の幸せの絶頂は――素敵な人を得て、未来を得て、祝福を得る瞬間』
『そう、お嫁さんだ。君はお嫁さん……そうだよね?』
(縋るべきカタチ。ナオのあるべき姿。それが、お嫁さんだと)