ボロボロになったあたしを見て、彼はとても悲しそうな顔をした。
その表情から読み取れるのは後悔――あたしを一人で行かせた、自分への怒り。
そんな顔しないで。キミのせいなんかじゃない。そう言いたくても体が動かない。
そしてその怒りを彼は自分だけでなく目の前の敵にも向ける。
あたしたちを囲むようににじり寄ってきた格下の戦闘員たち。
新たに現れた彼を敵対勢力と認め一斉に飛び掛かってきたそいつらを、彼は怒りの焔で焼き尽くす。
まばゆい閃光にも似た灼熱の一撃は邪悪な雑兵たちを即座に無力化させてしまった。
「すげ……」
思わず呟いてしまったのは、彼の炎があまりにも熱く――そして綺麗だったから。
彼の力を目の当たりにして不利と悟ったのか、離れた場所から見ていた幹部と思しき人物は忌々しげな表情で姿を隠す。
さっきまでの戦闘が嘘だったように、辺りには静寂が訪れたのだった。
振り向いた彼の顔に怒りはもうなく、本当に安心したように笑って見せた。
「……あは、助けられちった。カッコわりーとこ見せちゃってごめんねぇ」
釣られてあたしも笑って見せる。
なんとか立ち上がってみせようとするが――体に痛みが走り、崩れ落ちそうになる。
そんなあたしを彼の腕が抱き留めてくれた。
避難した人たちの無事を彼の口から聞く。
「ん――そっか。よかった……」
安心したらどっと体が重くなった気がする。やべーこれ帰れっかな?
「……え、ちょ……!おねーさんさすがにコレはハズいぞっ…」
見兼ねた彼にそのまま体を抱き上げられる。俗にいうお姫様抱っことゆーヤツだ。
この場合お姫様とはこのあたしのことを指す。
彼はあたしを抱きかかえたまま軽々と跳躍しその場を離れる。
こんな場所誰かに見られたら恰好のいじられ案件である。
「……ん、ありがとう助けに来てくれて。嬉しかった」
頼もしい戦士の姿をしながら中身はいつもの実直な少年と変わらない、彼の想いにあたしは応える。
「ダメだね、あたしももっと強くなんなきゃ。キミのお父さんみたいに――それまでちょくちょく頼ってもいーかい?」
目の前にはまだあどけない、それでいて真っすぐな彼の瞳。
あたしをしばらく見つめると――
「……っ!」
彼の唇があたしの唇にそっと重ねられた。
不器用な、それでいて彼らしい遠慮がちなキス。
自分の顔が真っ赤に染まっていくのがわかった。
「……ん……」
彼の身体を抱くようにして、あたしもその口づけを受け入れる。
目を閉じて彼の優しいキスに身を委ねた。
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