はっ……はっ……はぁ……。
[今日はなんかと間に合った。女性専用車両なら大丈夫だよね]
(前夜の女子会が盛り上がり、いつもよりお酒が進んで帰宅が遅くなったこともあって]
(翌日も寝坊で駅まで小走りに急いでようやく間に合うほどで、ただ少し前日より駅に着くのが僅かに早かった分)
(男性のいる一般車両ではなく、女性専用車両へ駆け込むことに成功して痴漢に遭う事も無く安心して会社まで到着した)
あれっ?
(昨日帰る時と僅かに机の上の自分で撮影した猫の写真や猫やパンダを模した小物、ペン立てが僅かずつ動いていて首を傾げて)
(周りを見回すものの、誰も声を掛ける同僚はおらず、移動されていたものを元の位置に戻して一つ小さな嘆息をする)
(事務部門は余程の事ない限りほぼ皆が定時に上がるのが常で、その後に研究員などが提出し忘れた書類を持って来て所定の箱に入れたり)
(事務部門の部屋にある複合機でコピーを取ったり、ファックスを送りに来たりすることも日常茶飯事で)
(たまに原稿に何かを書こうとして勝手にペンを借りる者もいて、物の位置が微妙にずれていることもあった)
(しかし、それにしては動いている物が多く訝しがるが)
[ペンでも借りようとして何か引っ掛けて色々ぶちまけたのかな……]
(まさか自分に劣情を抱いた研究員が触ったとも思っておらず、あまり気にしないことにして仕事を始めた)
「久永さん、おはよう。今日は大丈夫みたいだね。昨日は元気なかったみたいだから」
あっ、おはようございます。心配ありがとうございます。昨日は少し体調が良くなくて……。
(いつもの通り郵便物を胸に抱き廊下を歩いていた紗也華に石川と同じ研究室の紗也華の同期の研究員が心配して声を掛ければ)
(紗也華はニコッと他の人に見せるよりは柔らかで人懐っこい笑みを浮かべ、郵便物を持ったまま小さく左手を振り)
(少しだけ嘘をついて、今日は元気な事をアピールする)
えっ? でも、同期と言ってもドクター持ちで年上だからタメ口なんて駄目です。
(もっと砕けた態度で良いと言う研究員に、紗也華は笑いながら一応筋を通してツンとした表情を見せて)
あまり戻りが遅くなると上司が良い顔しないから行きますね。
……おはようございます。
(同期との会話を上手く話を切り上げると、廊下を郵便物の配布に再度歩きだした紗也華の前に)
(たまたま用事で廊下に出て来た石川と鉢合わせすれば、まさかこれから自分をストーキングしようとしている相手とは夢にも思わず)
(同期のような気を許した笑みではなく、会釈に微笑みを混ぜたいつもの紗也華の挨拶をして通り過ぎる)
(通り過ぎた後には、紗也華の若い女性の健康的な体臭と微かな香水が混じった香りが石川の鼻腔へと届く)
(もし石川が振り返れば、制服のタイトスカートとローヒールでお尻を振るように歩く紗也華の後姿を拝むことが出来たはずで)
(外見は真面目そうに見えて実は性欲の強い石川を全く無意識に挑発してしまっていた)
(その日はそつなく仕事を終えるといつもの様に定時で帰途へと着いた)
【レスを置いておきます。石川の同僚で紗也華の同期の男性研究員は、紗也華から見れば息が詰まるような研究開発部の中で気さくに話すことが出来る相手ではあるが】
【なにかを相談したり頼ったりするまでの仲には進展していません】