「母上!亀千代様の御伽女役を母上が仰せつかったというのは真でございますか!?」
弥四郎は手際よく夕餉の支度をする母、志乃の前でいきり立った。


伍州鷺浜。
御浜湾に面した温暖な丘陵地帯に古くから根を下ろす土豪、岡元家の跡取り息子として弥四郎は生を受けた。

岡元一族は伍洲一帯を治める鷺浜家に臣従し仕えていたが、現当主にして弥四郎の父、新三郎清忠は生来病弱で長らく床に臥せがち。
かつて地元の名士であった岡元の家名は急速に衰えていった。
そんな不肖の当主と評される父の汚名を少しでも濯ごうと、齢十四になった弥四郎は半年ほど前から岡元の遠縁である鷺浜家家老、松島盛近に仕官し、小姓として仕えていたのである。

「岡元の妻女が鷺浜の継嗣である亀千代様の御伽女役を務めることになったらしい」
そんな噂を弥四郎が耳にしたのは、松島の屋敷で日々の仕事に励んでいた折のことだった。