>>515
噂を聞いた弥四郎は始めに我が耳を疑い、次に激怒した。

弥四郎は清忠の一粒胤で、兄弟姉妹はおらず、岡元の家で妻女といえば母、志乃しかいない。
鷺浜とは縁も所縁もない母上が、なにゆえ御伽女役などしなければならぬのか!


御伽女役とは、出産経験のある婦人がまだ年若い武家の当主や子息に対して自ら子作りの指南を行う御役目である。

家名の存続をなによりも重んずる武家にとって健常な世継ぎを確保することは常に重要な課題。
世継ぎがおらねば家名が消える。そんな危機感から、跡取りを得るために子作りの指南役が求められるのは必然の流れであった。

とはいえ御伽女役は通常、指南を受ける男子の母親や姉、従姉など近しい親族の女性から選ばれるのが通例である。
まして鷺浜は当主重興がいまだ壮健であり、御歳十一になったばかりの亀千代に、早急に御伽女役が必要とは思われなかった。