>>516
弥四郎が激怒し、噂の内容に得心が行かぬ理由はそれだけではない。
よくよく聞けば、志乃の御伽女役は亀千代から強く求められてのことだという。

亀千代はいまだ髪結いも済ませておらぬ童だが、鷺浜家中での評判は甚だ芳しくなかった。
天下にあまねくその名を知られた鷺浜の跡取りであるにも係わらず、弓馬や学問に興味を示し励むことなく、ふらふらと遊び惚けてばかりいると聞く。
近頃は、こともあろうに『女遊び』を覚えたようで、家臣や商家の屋敷に忍び込んでは、その家の妻女や女中にちょっかいを出すなどという醜聞を耳にしたこともある。

年を追うごとに目立ってきた亀千代の素行の悪さ。
鷺浜の重鎮である盛近が苦渋の念を抱き、鷺浜の行く末を案じる様を弥四郎は幾度となく見てきたのである。