母様に対しあまりにも無礼な物言いであったと後悔した弥四郎は、一呼吸置いて気持ちを落ち着ける。
「松島屋敷にて、鷺浜の亀千代様がお側に御伽女役をもうけられる、と人づてに伺いました」
「・・・・・・」
「聞けばその御伽女役は、紛れもない吾が母君であるとのこと。・・・・・・これは真の話でございましょうや?」
ぴんと背筋を伸ばした佇まいで、弥四郎の言にじっと耳を傾けていた志乃は簡潔に答えた。
「ええ、その通りですよ、弥四郎殿。母は亀千代様にお仕えすることになりました」
まるで手習いでも始めたかのような調子であっさりそう宣う。
「明々後日、わざわざこちらの屋敷まで亀千代様に御足労いただいて、しばらく当家に御滞在なされるそうです」
「!・・・・・・明々後日とは、それは随分に急な・・・・・・」
「明日は急いで、亀千代様をお迎えするための備えをしなくてはなりませんね」
主君のお世継ぎ様をお構いするとなれば、当然ながらそれなりの支度が必要となる。
降って湧いたような大仕事に、志乃は嫌な顔一つするそぶりも見せない。