>>760
岡元屋敷に逗留する間、亀千代は屋敷の主である清忠の寝所で宿泊することになった。

「お世継ぎ様をここより粗末な部屋で寝泊まりさせるわけにもいくまい」
亀千代を迎える支度の際、清忠がそう配慮して、臥せる我が身をわざわざ離れの別室に移したのだ。

もしかすると、そこにはお役目を務める妻への心馳せもあったのかもしれない。
御伽女を務める運びとなった以上、清忠の妻、志乃は亀千代と閨を共にせねばならぬ。

病床の父様を追い出して、母様の寝床へ潜り込りこまんとする亀千代。

二人の息子である弥四郎には、そのような情況としか捉えられず、憤懣遣る方無かった。
さりとて今さら聞かん坊のように駄々を捏ねても、もはやこの情況を動かす術は無い・・・・・・。

亀千代が案内された寝所へ籠ると、それからしばらく、弥四郎の前に姿を見せることはなかった。


その夜、弥四郎はいつもより早めに床についた。
志乃の件が脳裏から離れず、何事も手につかなかったのだ。

目を瞑れば昼間、何かと忙しそうに動き回っていた母の快活な姿が浮かぶ。
落ち着いてじっくり話を交わす暇もなかったが、あれこれ煩悶する自分とは裏腹に、母の様子に普段と異なるところは見られなかった。

・・・・・・亀千代様へのお務めは母上が決められた事。これ以上自分が思い煩っても詮無いことだ。

そう己に言い聞かせ、母に対する煮え切らぬ想いごと体を夜着で包み寝床に押し込め、無理矢理にでも眠気を得ようと奮闘する。
そんな他愛ない努力の甲斐もあり、やがてまどろみを得た弥四郎は、忘我の海へ意識を沈めていった。