>>831
夜気に晒され冷たさが沁みる廊下の床板を踏みしめ離れの厠へ行くと、無性に浮つく心を鎮めるように深く息を吐き、用を足す。
傍らに予め汲み置かれた水で手を清めると、用を済ませ幾分落ち着いた心地の弥四郎は、自室へ戻ろうと歩みを進めた。


「・・・・・・っ・・・・・・」

・・・・・・!
消え入るようなか細さではあったが、確かに女の声が聞こえた。
このような夜更けに一体何事か。声の元を探らんと歩みの速度を緩めつつじっくり辺りを伺う。


ん・・・・・・あれは、明かり?

屋敷の主清忠と彼の妻志乃の寝所。
その室内と廊下を隔てる襖がほんの僅か開いており、隙間から室内の灯光が漏れ出ていることに気づく。