>>834
外部を遮る寝所の襖。その僅かに開いた隙間から中の様子を伺おうとやおら顔を近づける。
母の寝所を覗き見ようとする弥四郎の脳裏には、交わした約束など霧散し、もう跡形も無い。

・・・・・・・・・・・・?

隙間から伺う室内は思いのほか薄暗く、視える範囲の狭さもあって、人の姿を判別することすらできず。
時折何かがもそもそ蠢いているような気はするが、肝心の志乃が視留められぬ焦れったさに苛立ちを覚え始めた。

「はぁ・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・」
「・・・・・・ずっ・・・・・・・・・・・・ずずっ・・・・・・」

そんな焦れた弥四郎を煽るように、息を荒げた母の深い溜め息と、時折何かを啜るような物音だけが聞こえてくる。
それらが耳の穴から心の臓へ徐々に絡みつき、音のか弱さとは裏腹に握りつぶさんとする強さで締め上げていく。

母様・・・・・・母様は何処に・・・・・・。

あまりの息苦しさに耐え兼ね、母の姿を求めて襖の隙間を広げようと、ゆっくり引き手に指を掛ける。
その手に震えが走り始めるのを弥四郎は堪えられなかった。