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灯光の薄明りに照らされた閨室。
その中央に敷かれた褥の上に、寝間着用の薄物の襦袢を纏った女と男がいた。

女は肘を立て、上体を僅かに起こした格好で仰向けに寝そべり、裾をめくり上げ剥き出しになった両脚を、さながらお産を控えた産婦ように大きく開いている。
男はあられもなく開かれた女の両脚の間に肥えた体躯を俯せ、むっちりとした太ももを鷲掴みで押さえつけて、産婦の股ぐらを貪る態で頭を差し入れ動かしていた。

「・・・・・・ちゅっ・・・・・・じゅじゅっ・・・・・・じゅっ」
「はぁ・・・・・・あっ・・・・・・あ、あぁっ・・・・・・」

汁物を下品に嘗め啜り、吸い立てるような物音が立つ度に、嫋々とむせび泣く喘ぎが漏れる。
時折堪えかねたように微かに身を捩り震わせている女は、力無くぐったりと首を後ろに垂らし天井を仰ぎ見ており、その表情は弥四郎が覗き見る位置からは伺えない。


・・・・・・・・・・・・。

この者達は、このような場所で一体何をしているのか。

女を知らぬ弥四郎は、生まれて初めて目の当たりにする閨事の姿に戸惑い、俄かに前後を忘れた。
それでも闇に映える白くしなやかな脚が、前戯に身を任せよがり泣く嬌声が、弥四郎の男を捕らえ、どうしようもなくそそり滾らせる。

心を掻き乱す煽情の声色がふとよく知った人物の顔を連想させると、やにわに声の主が頭をもたげた。

「・・・・・・亀千代様、早く・・・・・・。あぁ・・・・・・早く妾にお情けをくださいませ・・・・・・」

己を責め苛む男に情けを乞う女の顔、それは弥四郎の母、志乃のものであった。