(続き)そして、その日の夕方…。夜勤の時間になっても出勤してこないと連絡を受けた寮母さんが、合鍵で百合子の部屋を開けると、そこには一番のお気に入りだった水色のワンピースを着た百合子が倒れていた。床一面を血に染めて…。かたわらには鋭利な剃刀が落ちている。
「小川さん!小川さん!…百合子ちゃん!起きて!しっかりして!」
百合子の小さな体を仰のかせて揺さぶるが、もともと雪のような色白の娘さんの顔は、透き通るように血の気を失い、その体はすでに氷のように冷たい。
慌てて病院に電話をし、百合子の体は勤務先の外来処置室に運び込まれる。
「だめだ…。もう死んでる」
医師による死亡宣告。状況から自殺であることは間違いない。昨日の夜勤の申し送り時にはあんなに生き生きとしていたのに…。同僚ナースたちが泣きながら百合子
の遺体を清めようとして、異変に気づく。陰毛が剃られている…!
そういえば朝の申し送りのときは、ずいぶんやつれた感じだった。
瞼が泣きはらしたみたいに腫れていたけど、「ちょっと疲れちゃいました」なんて言って微笑んでいたから気にとめなかった…。
夜勤中になにか不穏なことが彼女の身に起こったのでは?
警察に通報、司法解剖、処女膜や膣粘膜に認められる新鮮な傷…。法医学者は精液の
残滓を探したが、本人が洗浄したのか認められなかった。
昨日まで生き生きと働いていた若く希望にあふれた1年目ナースの自殺と処女膜の破損と陰毛の喪失…。答えは1つしかない。婦女暴行…。犯人は入院患者か当直医。
これをきっかけにせめて小森と山形が捕まってくれるといいんだけどね。病院管理部は一丸となって小森をかばうから無理だろうな…。