>>402
更地になった我家跡で暁年と暁人は楽しげに昔話を語らう。
「なにも無くなると案外広いもんだな。」
「そうだね。キャッチボールしたのを覚えてる?」
「ああ、まだ暁人が小学生になる前だったな。」
「父さんにボール全く届かなくて。」
「段々と近づいて手渡しになった」
と二人で楽しげに笑い転げた。
私が離婚届を夫へ渡す。それで私が二人の中へ入る事は無くなる。

もう決めた事なのに愛しい彼と誰憚れる事無く歩んでいける。もう決めた事なに今更何を私は迷うの?
「父さんと駆けっこして転んで膝小僧を擦りむいて泣いて」
「母さんの痛いの痛いの飛んでいけ〜」

ああ、暁人!この子が疎ましくなった訳じゃ無い!愛してるのに!!

昨日、彼に愛して貰ってる時に二人の事なんて何も何も思い浮かばなかった満たされていた。
夫が私を見て微笑んでいた。
「君を愛していたのに守る事も出来なかったのは僕なのに。
徒に妻という立場に縛り付けて君を苦しめた。
君と出会えた事、暁人を授かってくれてありがとう。
とても幸せな日々でした。」

私は記入捺印した離婚届を夫へ渡し涙ぐんだ。

夫の「指輪を」という言葉を聞いた時に私は狼狽してしまい取られまいとした。
夫は優しく「母の形見なんだ」
その言葉で私は指から指輪を抜き取り夫へ渡した。

その後、夫と息子の背をただただ見つめていた。暁人はいつの間にか夫の背を追い越していた、そんな事にすら今まで気づかずにいた。
消える去る間際二人に近寄る女性を見た。
夫と息子の間へ入り視界から消えた。