「今年も、ここに来れて良かったわ」と、油の入ったカーボン土鍋を前に静かに笑う妻きつね。「テンシだぞー! テンシだぞー!」と、椅子の上で狂ったようにジャンプする幼いネリス。
「やれやれ、ネリスはテンシが大好きだな」とルカ。「一体何処で、テンシなんて覚えた?」
「あなたが買ってきたオナホじゃない」と、きつねは子を座らす。
「去年のクリスマスに買ったやつか」「ずっとお気に入りなのよ。それで先日、初めて、箱の絵に気付いたの」
「テンシー!」「静かになさいネリス、危ないわよ。…それに」その先は小声で言った「テンシなんて、いないのに」
「テンバツ! テンバツ!」ネリスは大人しくなったと思った矢先、ピッチングマシーンのように両手をぐるぐると回した。
「アヒーッ! ヤラレター!」ルカは娘の無邪気さに応じ、陰茎と乳首にオナホが刺さった真似をして、大げさに苦しんで見せた。
「あなた、やめてくださいよ、恥ずかしい」
「ザッケンナコラー!」不意に、遠くから水晶玉が割れる音が聞こえた。
「……あら、ヤクザかしら」とネリスの肩を無意識に抱くきつね。「店外だろう、大丈夫さ」とルカ。
店内を見渡すと、同じような境遇の家族連れや若いカップルや同僚アヒリストが、何事もなくテンプラに興じている。何も問題ない。

こういうのじゃないのか