バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第8部
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関連スレ
企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
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常に【sage】進行でお願いします
※ルート分岐のお知らせ
前スレ>>238「生きてこそ」以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
経緯につきましては、新・総合検討会議スレの886以降をご参照ください。
【過去作品スレ】
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第6部
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バトル・ロワイアル【今度は本気】第5部
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バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第4部
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バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第3部
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バトル・ロワイアル。【今度は本気】 第2部
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リアル・バトル・ロワイアル。【今度は本気】
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過去関連スレ
【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議
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【リアル・バトル・ロワイアル。】 総合検討会議(消失)
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【バトル・ロワイアル。】 総合検討会議 #2(消失)
ttp://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=012551729
葱板バトルロワイアル 保管サイト第一避難所
ttp://d1s.skr.jp/ergr/
編集サイト(現在休止中?)
ttp://syokikan.tripod.com/
◆参加者1(○=生存 ×=死亡)
○ 01:ユリーシャ DARCROWS@アリスソフト
○ 02:ランス ランス1〜4.2、鬼畜王ランス@アリスソフト
× 03:伊頭遺作 遺作@エルフ
× 04:伊頭臭作 臭作@エルフ
× 05:伊頭鬼作 鬼作@エルフ
× 06:タイガージョー OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト
× 07:堂島薫 果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 08:高町恭也 とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
× 09:グレン Fifth@RUNE
× 10:貴神雷贈 大悪司@アリスソフト
× 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン ドイツ軍
○ 12:魔窟堂野武彦 ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト
× 13:海原琢磨呂 野々村病院の人々@エルフ
× 14:アズライト デアボリカ@アリスソフト
× 15:高原美奈子 THEガッツ!1〜3@オーサリングヘヴン
× 16:朽木双葉 グリーン・グリーン@GROOVER
× 17:神条真人 最後に奏でる狂想曲@たっちー
× 18:星川翼 夜が来る!@アリスソフト
× 19:松倉藍(獣覚醒Ver) 果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
× 20:勝沼紳一 悪夢、絶望@StudioMebius
◆参加者2(○=生存 ×=死亡)
× 21:柏木千鶴 痕@Leaf
× 22:紫堂神楽 神語@EuphonyProduction
× 23:アイン ファントム 〜Phantom of Inferno〜@nitro+
× 24:なみ ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
× 25:涼宮遙 君が望む永遠@age
× 26:グレン・コリンズ EDEN1〜3@フォレスター
× 27:常葉愛 ぶるまー2000@LiarSoft
○ 28:しおり はじめてのおるすばん@ZERO
× 29:さおり はじめてのおるすばん@ZERO
× 30:木ノ下泰男 Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
× 31:篠原秋穂 五月倶楽部@覇王
× 32:法条まりな EVE 〜burst error〜@シーズウェア
× 33:クレア・バートン 殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
× 34:アリスメンディ ローデビル!@ブラックライト
× 35:広田寛 家族計画@D.O.
○ 36:月夜御名紗霧 Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
× 37:猪乃健 Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
○ 38:広場まひる ねがぽじ@Active
× 39:シャロン WordsWorth@エルフ
○ 40:仁村知佳 とらいあんぐるハート2@ivory
◆運営側(○=生存 ×=死亡)
○ 主催者:ザドゥ 狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
× 刺客1:素敵医師 大悪司@アリスソフト
○ 刺客2:カモミール・芹沢 行殺!新選組@LiarSoft
○ 刺客3:椎名智機 將姫@シーズウェア
△ 刺客4:ケイブリス 鬼畜王ランス@アリスソフト(ルートC死亡)
○ 監察官:御陵透子 senseoff@otherwise
#6 >>380-390
(Aルート 二日目 PM6:28 F−4 楡の木広場跡地)
いつの間にか体の痛みは消えていた。
まわりは暗く、暑くも寒くもないところに私はあお向けで寝ていた。
手と足は動かせられなかった。
目だけと鼻だけが動かせた。
かちかちかちかち……
時計の針がうごく音がだけがきこえる。
何も見えないところにいるのに…………なんだかなつかしい感じがした。
わたしたちが住みなれたおうちのにおいが感じられた。
怖くて、すこし悲しいことがあったあの日の夜に似ていた。
……そう、そうだこれはわたし達が決心したあの日の夜。
わたしは横を向いた。
さおりちゃん?さおりちゃん?さおりちゃん?
……なんでいないの?
どこへいったの?どこにいったの?
あなたがここにいなきゃ、明日わたしたちの大切なひとに告白できないのに。
わたしは悲しくなって、泣こうとした。
涙は流れない
声も出ない。
手足も動かない。
……かちかちかちかちと時計の音だけが聞こえる。
わたしは怖くなった。
さおりちゃんがいないが怖い。
……それと同じくらい、あの日の次の日……
ふたり揃って告白したあの日がなかったことにされるのが怖い……。
だってあの日がなかったらわたし達は……。
力を入れているのに手と足は動かなかった。
…………!
痛いけど、人さし指が動いた!
わたしは痛いのをガマンしながら、少しずつ指を動かそうとした。
まわりは暗く、だれもいない。
けれどさおりちゃんを探すため、大切な人を探すため。
わたしはがまんしながら指先に腕に力を入れ続けた。
□ ■ □ ■
#6 >>588-605
(Aルート 二日目 PM6:28 ????)
ルドラサウムが喜んでいる。
朽木双葉の絶望の断末魔を噛み締めるように。
過程こそ予想を上回ったが、その最期は我とルドラサウムの期待通りだった。
あの六人によるザドゥらの接触も火災の規模から当分はない。
後の問題は運営が火災にどう対処するかだが、椎名智機には相応の戦力を与えている。
朽木双葉の術の影響が無くなった今ならザドゥらも充分脱出は可能だろう。
…………。
長谷川均の魂はまだ来てないようだ。
奴がいた世界の構造と死因を考慮すれば、予想の範囲内といえば範囲内。
……あるいは確率の低い……我が望む結果が出たか。
楽しみだ。
……!
《……またか》
舞台は揺れなかったが、今度のはルドラサウムの方が揺れたな。
……ルドラサウムは気に留めていないようだ。
だが、ここに影響が出てしまったか。
……舞台の観察は支障なく行える。
《第三界にいた連中も動きは無く、魔のものも介入する気配はない。
…………》
……後の事もある、各空間を確認せねばな。
シークレットポイントでさえ、まともに機能しているかも定かではないのだ。
発見と調査をしやすいように、シークレットポイントには微量の魔力を放出させる設計にしておいた筈だった。
にも関わらず9のグレンはシークレットポイントの発見できてなかった。
ここまで放置されたままゲームが進行した現在、部屋としての機能しかなくとも大きな問題は無い。
むしろ御陵透子の世界の読み替えを制限した以上、機能すれば運営に対する決定打にもなり得る。
12魔窟堂野武彦が調査をしていたが、どれほど把握できていた?
……奴がいた世界にも魔法は確認されていた。
グレンよりも魔道に長けている可能性はある。
もし奴が把握できるなら、今後の舞台の構築の進歩になり得るが……。
《…………やはりか》
ここからだとシークレットポイント内部の確認ができない。
確認はしたいが、ここからの移動はルドラサウムの許可がいる。
《様子を見ておくしかないのか。しかし効果が大きく変動するとなれば……》
最悪シークレットポイントに秘められた力一つで、勝敗が決してしまいかねない。
それは回避すべき事態。
ゲームの破綻は絵空事ではない。
《ここの空間だけでも修正したいが……どうする?》
作業したとしても、終了まで時間が掛かる上に、完全に修正できるとも限らない。
幸い、例の運営者との面会予定時刻まで少々余裕はある。
運営陣には少々リスクを背負ってもらう事になるが、椎名智機の与力を利用するか……。
《……ほう》
あの小屋を目指すか……。
なら別の機体を利用するとしよう……。
《…………》
さて、ルドラサウムに申請をして来るか……。
□ ■ □ ■
(二日目 PM6:30 ???)
やっと、やっと腕が上がったよ。
どれだけ時間がかかったとか、これが夢かどうかは関係なかった。
指先がちょっとだけ温かい何かにふれたから。
なんだろう?なんだろう?
そのぬくもりが何かはわからない。
でも、ふれるだけで心がちょっとだけ安らぐような気がする。
うれしかった。
わたしは何度か深呼吸をして、息をととのえようとする。
今度は声をあげようと思った。何かを、誰かを知るために。
わたしは息を大きく吸って――
□ ■ □ ■
《…………》
これは驚いた。
18星川翼や6タイガージョーなら、別に不思議ではなかったが。
一回目にして実験が成功とは……。
そして我の方も……。
《……ありがとうございます我が主よ》
□ ■ □ ■
(Aルート 二日目 PM6:28 F−4 楡の木広場跡地)
〜しおり3〜
腕は上がらなかった。
指一本動かす気もおきなかった。
「どうしてぇ……」
あたりは音とオレンジ色。
わたしは上げた……と思っている方の手に残るぬくもりを思い出そうとした。
けれど……。
「……」
ぬくもりはたった一回の揺れのあと、ふっと消えてしまった。
目が覚めたのはそのとき。
もう、あのぬくもりを思い出せない。
あの揺れが実感として残ってしまっていた。
わたしのまぶたがだんだん重くなっていく、まわりが白くかすんでいく。
わたしはまた眠ってしまう前に大切なひとの名前を呼ぼうとした。
「……」
だれの名前を呼んでいいかわからず、わたしは息をはいて目をとじた。
↓
(Aルート)
【現在位置:F−4 楡の木広場跡地】
【しおり(28)】
【スタンス:大切な人に会いたい】
【所持品:なし】
【能力:凶化、発火能力使用(含む紅涙)、炎無効、
大幅に低下したが回復能力あり、肉体の重要部位の回復も可能】
【備考:首輪を装着中、全身に多大なダメージを受け瀕死の重傷、
精神的疲労(小)
歩行可能になるには150分前後の安静が必要
戦闘可能までには更に3時間前後の安静が必要】 >>12の(Aルート 二日目 PM6:28 F−4 楡の木広場跡地)を
↓
(Aルート 二日目 PM6:55 F−4 楡の木広場跡地)
に修正します。
この度、最新299話までのまとめをUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1346968.zip.html
パスは negibato です。
【タイトル:ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜】
(ルートC・2日目 23:15 I−7地点・海岸線・岩場)
灯台南部の磯は静寂の中に在った。
引く潮は穏やかに細波も立てず、北東の風は火災の禍を運ばず。
つい先ほどまで喜びの歓声を上げていた二人の乙女も、
今は、泣き疲れてか、笑い疲れてか。
腰を下ろし肩を寄せ合って、沈黙と共に、水面を眺めている。
(この二人、百合ん百合んか? 勿体無いのぅ……)
下品な魔剣も一応は空気を読むらしい。
下卑た思念波を発することなく心中で呟くに留めていた。
―――主催者は誰一人として地位を失っていない
―――ゲームを満了させれば願いは叶えられる
仁村知佳は先刻、エンジェルナイトから読み取った一通りの情報を
御陵透子に語って聞かせていた。
今、沈黙の中で透子は、それらの情報を咀嚼している。
殊に透子の意識を占めているのは、以下の一節であった。
―――蒼鯨神を楽しませる限り資格は失われない
実は透子は、この島に来てからの記憶/記録の検索の中で、
図らずもルドラサウムの記憶/記録にも幾度か触れていた。
つぶさに思い返してみれば、鯨神の記録は実にシンプルであった。
大別すれば二種類にしか分類できなかった。
楽しい。
つまらない。
その傾向も、実にシンプルであった。
動きがあれば、楽しい。
動きがなければ、つまらない。
ここでいう動きとは、心の動きではない。
悩んだり迷ったり勇気を振り絞ったりを指さない。
あくまでも体の動き、アクションである。
撃ったり刺したり燃やしたりである。
と、いうより。
ルドラサウムは、心を読んだりはしないらしい。
あくまでも表層の表れにのみ着目している。
耳目によってのみ、ゲームを鑑賞している。
例えば、椎名智機が学校にて鬼作らを制裁した折。
例えば、椎名智機が病院を急襲した折。
ルドラサウムは、笑い転げていた。
ゲームのルール云々などは一切関係なく、
主催者/参加者の枠を意識することなく、
ドンパチや自爆や建物の崩壊を楽しんでいた。
そんな記録が、空間には残っていた。
故に、透子は決意した。
願いの成就の為、己が為すべきを改めた。
(私も、戦う―――)
であればと、透子は考えを進める。
今後の具体的な身の振り方を検討する。
自分のテレポートは有用ではあるものの、戦闘力に措いては非常に乏しい。
肉体的な能力が著しく低いためである。
それは、先刻の亡霊・勝沼紳一追跡の折に、身を以って知った。
そんな自分が単独で、海千山千のプレイヤーたちを向こうに回せるとは思えない。
力が、必要である。
ザドゥとカモミール芹沢。
この、戦闘に特化した能力を持つ同胞の力無しでは、勝ち抜けぬ。
その為には。
シェルターへ戻り、朝まで目覚めぬ二人を守らねばならぬ。
「ありがとう、透子さん」
唐突に、知佳が礼を述べた。
知佳はゆっくりと立ち上がり、姿勢を正し、深く頭を下げた。
その動きは、畏まったものであった。
その声色は、固いものであった。
その両方に、知佳らしからぬ硬質な冷たさが含まれていた。
「……なにを?」
透子は知佳の辞儀の意味を図りかね、問い返す。
「魔獣から逃げることができたのは、透子さんのお陰だよ。
あの時、私はあなたに命を救われたの」
地下通路で、知佳に襲い掛からんとするケイブリスを諌めた。
そんなこともあったなと、透子は思い返す。
「ううん」
「お礼を言うのは私のほう」
透子は姿勢を正し、深々と頭を下げて。
受け止めた知佳の感謝を、より大きな感謝で以って返礼した。
「紳一を倒してくれて」
「ありがとう」
「自殺を止めてくれて」
「ありがとう」
「天使を読んでくれて」
「ありがとう」
「私のほうがいっぱい」
「ありがとう」
透子がこれほどの言葉を連ねるのは、何百年ぶりかのことであった。
その全てが、衷心からの言葉であった。
しかし、知佳の顔に笑みは戻らない。
硬質さはより一層増し、悲痛とさえ言える顔つきで透子から目を反らした。
そして、呟く。
「じゃあ…… もう、借りは返したってことで、いいね?」
何故、今更貸し借りなどと口にしたのか。
透子にその意図は分からない。
「ごめんね、とは言わないよ」
続けて紡がれたのは謝意を否定する形にての謝罪の言葉。
透子にその意味は分からない。
軽く混乱する透子が反応を返すのを待たず、
知佳はその表情のまま背を向け駆け出した。
北々東へと。
ちらりと見えた知佳の横顔には、確かに涙が一しずく浮かんでいた。
その涙の理由もまた、透子には分からない。
「逃げなくてもいいのに」
透子はしばし、呆然と知佳の背を見送り。
知佳が置いていった魔剣カオスの柄を握って。
地下シェルターへと戻ろうと意識して。
そこで、ようやく勘付いた。
自分のテレポート先と、知佳の走行方向が同じであることに。
【 朝まで目覚めぬ ザドゥと芹沢を 守らねばならぬ 】
読まれていたのである。
肩を寄せ合っていたのは読心能力を持つ相手だと分かっていたのに。
透子は、安心感ゆえの無防備で、その思念を漏らしてしまったのである。
主催者の内情を、危機を、秘中の秘を。
ごめんねとは言わないよ―――
この「ごめんね」とは、逃げる事に対する「ごめんね」ではない。
透子が折角取り戻した希望の芽を摘むことに対する「ごめんね」であった。
無防備なザドゥと芹沢の命を奪うことへの「ごめんね」であった。
知佳は、故に、走った。
逃げたのではない。向かっている!
「―――!!」
走り去る知佳の背はすでに小さく、遠く、迷い無い。
透子は念じた。
(知佳に――― 追いつく!)
ここに、知佳と透子の逃走/追跡劇が、幕を開けた。
―――灯台跡まで、あと1000m。
自分が撒いた種で、芽吹いたばかりの希望を、
その自分が、次の瞬間、引き千切り踏み躙る。
知佳がしようとしていることは、そういう行為である。
掌返しの裏切りである。
しかし知佳が心がけてきた、読心による情報収集とは、
まさにこうした情報を欲していた故であり。
その情報を遠方の恭也たちの為に最も活かせる行動が、
無抵抗の主催二名の暗殺であるのだから。
いかに友を傷つけようとも。
いかに友を裏切ろうとも。
この得難き機を見過ごすわけには、ゆかぬのである。
故に知佳は、ごめんねとは言わなかった。
本当は謝りたい気持ちで一杯であった。
それでも言えなかった。
言ってはならなかった。
ここでする謝罪とは自分の心を軽くする為の偽善でしかないのだと、
知佳には、分かっていた故に。
知佳が透子の呆然とした姿を頭に思い浮かべるのと時を同じくして。
その幻像が目の前に、実体として現れた。
透子に残存する唯一の【世界の読み替え】――― 瞬間移動である。
「すとっぷ」
知佳はその突然の出現に驚かなかった。
むしろ登場が遅いとさえ思っていた。
自分が今、為さんとしていることに思い当たれば、
或いは、その記憶/記録を読めば、
透子が自分を止めに来ることは、必然のなりゆき故に。
「気付いたんだ…… 気付いちゃうよね、どうしても」
「ん」
「透子さんを殺そうとは思ってないよ。どいて?」
「どかない」
知佳の頬には、涙の跡がある。
透子の頬にも、涙の跡がある。
しかし、それはあくまでも、跡である。
過去の名残なのである。
確かに咲いた友情の花は、無情の仇花でしかないのである。
「あなたがわたしを」
「殺せなくても」
「わたしはあなたを」
「―――殺せる」
その言葉に、知佳は衝撃を受けた。
そしてすぐに、傷ついた自分を恥じた。
透子を先に裏切ったのは自分である。
だのに、裏切られると悲しいなどとは、なんという身勝手さか。
《敵か? 知佳ちゃんは敵なんですか!?》
カオスが発した戸惑いの思念波で、知佳は我に帰る。
透子の言葉に嘘偽りはなく、既に、カオスは振り上げられていた。
「テレキ……」
テレキネシス、と。
反射的に知佳は反撃しようとして、逡巡した。
対する透子に躊躇は無い。
カオスは既に振り下ろしの体勢に入っており、
力弱いながらも、知佳の額をかち割らんとしていた。
「―――サイコバリア!」
透子が振り下ろしたカオスは知佳の額に到達しなかった。
知佳の前面に展開された、念動の障壁に受け止められた。
「ぁう!」
障壁は、不可視ではない。
その背のフィンに同じく、目視可能な透明である。
シャボンの膜の如き、オーロラの如き。
透明で有りつつも複雑に絡み合う色がうねりを見せる、力場である。
透子にダメージは無かった。
サイコバリアの強度が、緩く柔く、制御されていた為に。
透子の足をふらつかせ、カオスを手放させるに留まった。
殺そうとは思ってないよ―――
知佳のその言葉は、本気の発言であった。
それは、知佳が通すべき筋であり、
己に科した制約であり、
重い罪悪感への軽減措置であり、
また、透子に対する友情への未練でもあった。
「テレキネシス!」
知佳は透子の落としたカオスを念動にて吹き飛ばした。
透子は無言でカオスの飛ばされた先へテレポートし、回収をはかる。
知佳はその僅かなタイムラグの間に少しでも距離を稼ぐべく、疾走を再開する。
―――灯台跡まで、あと900m。
シェルター付近で待ち伏せする。
透子はそれをしなかった。
思いつかなかったわけではない。
できなかったのである。
《この追いかけっこ、どっちが勝つかな? どっちが勝つかな?》
透子は、掴んだのである。
厚き雲の上、星々の宿り、天空の遥か彼方。
そこから発せられるルドラサウムの記録を。
巨大な尻尾をぺちぺちと振り、童の如くはしゃぐその情景を。
(注目されてる―――)
透子は自分の判断に間違いが無かったことに高揚する。
そして緊張する。
ルドラサウムを――― 観客を、失望させてはならないと。
リクエストに答えねばならないと。
この追跡と戦いを半端に終らせてはならないと。
しかし、唯一の手持ち武器・カオスでは、
知佳の足を止めることが出来ぬは、既に実証されている。
サイコバリアに阻まれて、切り裂けぬを知っている。
(……武器が要る)
透子は、その思いで、心当たりの場所へと跳んだ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています