バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第8部
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0001名無しさん@初回限定2011/02/13(日) 19:46:44ID:+fqADOXd0
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関連スレ
企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
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常に【sage】進行でお願いします


※ルート分岐のお知らせ
前スレ>>238「生きてこそ」以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
経緯につきましては、新・総合検討会議スレの886以降をご参照ください。
0180透子嵐(26/30) ◆VnfocaQoW2 2011/02/20(日) 20:06:08.51ID:J0esMh8l0
 
「また邪魔しない限り」
「言うこと聞く限り」
 
今の透子は無表情でも無感情でもない。
その表情は智機には判らねど、声だけで十分恐ろしかった。
智機と離れていたこの六時間で、どんな変化がおきたのか。
今の透子は、時折感情を表に出すようになってきている。

「Yes…… なんなりと、ご命令を」
「ん、それじゃ」
「ザドゥと芹沢の」
「タオルを換えて」


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
 
0183解除のお知らせ(27/30) ◆VnfocaQoW2 2011/02/20(日) 20:10:21.32ID:J0esMh8l0
【タイトル:暴風雨警報、解除のお知らせ】
 
(ルートC・2日目 PM11:55 H−3地点 花園)


島の北々東に群生する色とりどりの花たちの中から、
けふけふと、湿った咳払いが聞こえていた。

仁村知佳である。
背中の翼で命からがら灯台跡から逃亡した彼女は、
力尽きるまで飛行し、落下するように降り立って、
今は、花々に囲まれて仰向けに横たわっていた。

銃創に刀傷。
共に骨や臓器への影響は無かったものの、そこからの出血量は夥しかった。
体力の消耗と疲弊感も激しかった。
自らの傷口へと念動を向けて押さえつけ、血液の流出を留めてはいるが、
それでも知佳は、冷えを増していく体温を止められずにいた。

(保つかな……)

知佳の翼・エンジェルブレスは、日光をエネルギーに変える
光合成デバイスとしての役目をも持っている。
故に、朝日さえ出てしまえば、体力は回復に向かうであろう。
しかし、来光までの六時間余り、命を繋ぐことができるのか?
それが、知佳には判らない。
病院跡や集落へと戻ることも、知佳は考えたが、
移動に掛かる疲労消耗と、潜伏による消耗回避とを秤にかけた末に、
じっと朝を待つことを選択していたのである。

そこに――― N−21が現れた。
0187解除のお知らせ(28/30) ◆VnfocaQoW2 2011/02/20(日) 20:14:29.96ID:J0esMh8l0
 
「おはなばたけ……?」

唐突に、前触れ無く。
透子のテレポートと同じく。
気の抜けた感想を漏らしながら。
後ろ手に何かを持った姿勢で。

それで、知佳の違和感が解消された。

「透子さん、なの?」
「にありーいこーる」

N−21は曖昧に肯定した。
曖昧ではあるが、正しい返答でもあった。

「借りを返しに来た」

N−21――― 透子は、そういいながら後ろに回していた手を、知佳に伸ばした。
知佳は目を閉じる。
ここで撃たれても斬られても、それは自業自得であるのだと。
知佳は、透子の報復を安堵と共に、受け入れた。

「……寝たの?」

数秒後に透子から発せられた見当違いな質問に、知佳は目を開ける。
透子が知佳に伸ばした手に、銃器は握られていなかった。
魔剣も握られていなかった。
握られていたのは、薬箱であった。

「あげる」
0190解除のお知らせ(29/30) ◆VnfocaQoW2 2011/02/20(日) 20:17:26.03ID:J0esMh8l0
 
それは、素敵医師の薬品小屋からかき集めたまっとうな医療品であった。
朝日まで保たぬかも知れぬ知佳の命をそれまで維持させるものであった。

「説明、面倒」
「読んで」

知佳は透子の申し出通り、透子を読心にかける。

【これは鎮痛剤これは解熱剤これは睡眠薬頓服薬だから必要に】
【応じて飲んででも睡眠薬はザドゥたちのと同じで十二時間目】
【醒めないからそのつもりであと包帯と消毒液も持ってきた傷】

透子の心中には、薬品の説明が流れていた。
そこに知佳への報復を示す一切の感情は感じられなかった。

「借りを返す、って……」

知佳は戸惑う。
その言葉は、裏切った事に対して、殺害した事に対して、
殺意を持って向けられていたのだと思っていた。
そうではなかった。
逆説的な慣用句としてではなく。
正しい意味での感謝を、透子は抱いていた。

「紳一を倒してくれて」
「ありがとう」
「自殺を止めてくれて」
「ありがとう」
「天使を読んでくれて」
「ありがとう」
0193解除のお知らせ(30/30) ◆VnfocaQoW2 2011/02/20(日) 20:19:10.44ID:J0esMh8l0
 
「私のほうがいっぱい」
「ありがとう」

そういう、借りであった。

「でも、殺されたし」
「お薬、あげたし」
「そろそろ潮時」
「…………ね?」

貸し借りはこれで清算であると、透子は言った。
プレイヤーと主催者という立場に戻りましょうと、透子は告げた。
言葉の裏を捉えれば―――
それは、二人には淡く儚い友情が結ばれていたことを
確かに証しているものであった。

「ばいばい、知佳」
「さよなら、透子さん」

今度は戦うと、今度は殺すと。
その直裁な言葉のやり取りを無しにして。
それでもそういった意味を理解して。
二人は静かに決別する。



【御陵透子(N−21):復活】

―――――――――主催者 あと 4 名

         ↓
0195ツイスター/台風/解除(情報 1/2)2011/02/20(日) 20:20:22.58ID:J0esMh8l0
 
(ルートC)

【グループ:ザドゥ・芹沢・透子・智機】
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】

【主催者:椎名智機】
【スタンス:@【自己保存】
      A【自己保存】の危機を脱するまで、透子には逆らわない
      B【自己保存】を確保した上での願望成就】
【所持品:スタンナックル、Dパーツ、改造セグウェイ、軽銃火器×3】

【監察官:御陵透子(N−21)】
【スタンス: @願望成就
       Aルドラサウムを楽しませる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
     魔剣カオス】
【能力:記録/記憶を読む、
    世界の読み替え:自身の転移、自身を【透子】だと認識させる(弱)】

 ※ザドゥと芹沢はあと六時間は目覚めません。
0198ツイスター/台風/解除(情報 2/2)2011/02/20(日) 20:22:23.08ID:J0esMh8l0
 
【現在位置:H−3 花園】

【仁村知佳(40)】
【スタンス:@潜伏。朝日を浴びて「エンジェルブレス」にて傷を回復させる
      A手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
      B恭也たちと合流】
【所持品:テレポストーン(2/5)、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(中)、出血(大)、脇腹銃創、右胸部裂傷】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
    手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

 ※強力な睡眠薬を服用したため、12時間は目覚めません
 ※傷は念動と医療器具で止血、縫合済みです
 ※薬品類は使いきりました
0199挑戦状・諾(情報 2/2) ◆VnfocaQoW2 2011/02/21(月) 00:03:05.97ID:J0esMh8l0
 
【グループ所持品】
  簡易通信機・小、簡易通信機・大、白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、
  謎のペン×7、レーザーガン、工具、救急セット、竹篭、スコップ(大)、
  メス×1、小麦粉、謎のペン×8、薬品・簡易医療器具、解除装置、
  生活用品、香辛料、メイド服、干し肉、文房具、白チョーク1箱、
  小太刀、鋼糸、アイスピック、保存食、分機解放スイッチ、プリンタ、
  カスタムジンジャー×2、グロック17、手錠×2、斧×3、鉈×1、
  モバイルPC、USBメモリ、簡易通信機素材(インカム等)一式×5、


【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → ?】

【監察官:御陵透子(N−21)】
【スタンス: 願望成就の為、ルドラサウムを楽しませる
       @果たし合いの円満開催の為、参加者にルールを守らせる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
     グロック17(残 17/17)】
【能力:記録/記憶を読む、
    世界の読み替え:自身の転移、自身を【透子】だと認識させる(弱)】

. 
0201天覧席の風景(1/9) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:09:45.59ID:oSvQ9z8j0

(ルートC・3日目 AM05:45 場所不明)


「なんでぷちぷち、じっとしてるのかなぁ……」

ルドラサウムの嘆息は、島内の戦局が段落したが為である。
【ぷちぷち】――― 人間どもの動きが止まった為である。
何しろ、島に居る殆どのぷちぷち達が、眠りについている。
動きを求めることのほうが無理であった。

ルドラサウムが最後に笑ったイベントは、三時間以上も遡ることになる。
広場まひるに夜這いをかけたランスが、
レギンスを微妙に盛り上げているアレに気付いて、
嘆きつつも大暴れして、
高町恭也はがたすら絶句して、
魔窟堂野武彦はなぜか感動に打ち震えて、
ユリーシャがオロオロして、
月夜御名紗霧がバットでガツンした。
それを最後に、鯨神の興味を引くぱっとしたイベントは無い。

ルドラサウムは唯一動きを見せている集団に、視線を移す。
鎮火活動を行っているレプリカ智機たちである。
彼女たちが次々と破損し、爆発し、損傷してゆく様は、
ある種の感動のドラマとして、この鯨を愉しませた。
しかしそれも、二時間ほど前までのことである。

今や鎮火活動も、ほぼ完了していた。
Dシリーズ全機破損。
Nシリーズ32機破損。
そこから、被害は増えなかった。
今は残務処理に過ぎず、見所はもう無いと言って良い。
0203天覧席の風景(2/9) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:11:13.81ID:oSvQ9z8j0
 
「あーあ、退屈だなぁ。物足りないなぁ」

ルドラサウムはバタンバタンと尻尾を縦に振っている。
縦の動きは苛立ちを表現するものである。

「ルドラサウム様、例の物、集まりまして御座います」

いやらしい含み笑いと共に現れたのは、鯨神に負けず劣らずの、異形の者である。
まず、全身が金色に発光していた。
体は、卵の如き楕円形をしていた。
そこから銀鱗に覆われた太い首が伸びており、
顔は亀に酷似する爬虫類のそれであった。
腕とも脚とも付かぬ極太の六本が伸び、指は存在していない。

これこそが、プランナーである。

この悪意に満ちたゲームの企画立案者であり、
ディレクターであり、スポンサーであり、黒幕である。
その点、厳密に言えば、ルドラサウムは黒幕ではない。
一部、キャストの勧誘にも指を伸ばしはしたものの、
基本的にはこの筋書きの無いドラマの、観客である。

この観客ただ一人の為に、
その退屈を解消する為に、
ゲームは企画されていた。

「もう待ちくたびれちゃったよ、プランナー。
 持ってきてくれたんだよね、例の物?」
「こちらに」
0206天覧席の風景(3/9) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:13:23.84ID:oSvQ9z8j0
 
プランナーの腕の一本に抱かれているのは、籐の如き素材の編み壺である。
連絡員・エンジェルナイトが腰に提げていたものである。
情報と称して、会場内の死者の魂を詰め込んだものである。

それは、献上品であった。

ゲームの終盤で盤面が膠着することを見越したプランナーが、
同じく、主の飽きっぽさと我侭さを見越し、
盤面が再び動き―――恐らくは最終決戦―――を見せるまでの間、
主の無聊を慰めるために用意した、玩具箱であった。

「ねえねえプランナー。【あの子】たちの分もあるのかな?」

死後、その魂が島内から離脱しようとしたために、
プランナーが張り巡らせた結界に捕らまえられ、
雲散霧消させられた、神秘に連なる人間と、人ならざる獣がいた。
【あの子】たちとは、その二人と一匹を指している。

『百貨店の神』大宮能売神の神人(カムト)、22・紫堂神楽。
第三界の存在に憑依されし猫少女、19・松倉藍。
そして、藍に憑依する墓守の獣、Yzz=HwTrrra。

「断片は全て回収させました。
 しかしこれを意味ある形に戻せるのはルドラサウム様だけに御座います」
「いいよ〜、それぇ〜、粘土こねこね〜♪」

プランナーが取り出した三つの魂の断片。
ルドラサウムはそれを器用に選別すると、己の体表を軽く擦って光る粉を出し、
それを残留思念の断片にまぶした上で、こね回した。
すると、どうであろうか。
0209天覧席の風景(4/9) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:15:29.08ID:oSvQ9z8j0
 
《話し合い》《よかった…》《よかった…》

《わたしの体なのに》《安曇村》《安曇村》

《堂島》《堂島》《還るょ》《ヤマノカミ》

島の上空を覆う結界に触れて霧消した筈の魂たちが、
残留思念として明確な形を取り戻したではないか。

「流石のお手並みにございますな」

プランナーのお追従に、鯨神はしっぽを左右にぺちぺちした。

「ん〜、そお? そ〜でもないけどな〜?」

命とは、鯨神の微小な破片や欠片に過ぎぬ。
全ての命はここより生まれ、全ての命はここへと帰ってくる。
魂の集合体であり、魂のふるさとである。
紛うことなき創造神にして、世界そのものに同一。
ルドラサウムとは、そうした存在なのである。

「これで全部そろったね♪ じゃあ、どの子から味見しよっかな?」
「は、今蘇らせました紫堂神楽など如何でしょう?
 その死に際の記憶を神条真人などと共に味わわれれば、
 無念や無情が極上のハーモニーを奏でること、請け合いでございましょう」
「……ホント、きみはそーいうの大好きだねぇ。わかった、一度試してみるよ」

ルドラサウムは臣下の進言を容れ、神条真人の思念を壺より引き抜いた。

《虎の仮面》《虎の仮面》《なんという……》
0211天覧席の風景(5/9) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:18:20.18ID:oSvQ9z8j0
 
そして、真人と神楽の思念を、その赤く大きな口に、放り込んだ。
鯨神は目を閉じ、舌の感覚に集中する。
噛み砕きも、嚥下もしない。
魂の消化も初期化もしない。
ただ舌で転がし、記録/記憶を追体験するのである。
愉しむのである。
嬲るのである。

死ぬ間際にこう見えたであるとか。
殺すときにこう動いたであるとか。

そういった人間ドラマとアクションを、キャスト目線で愉しむのである。
マルチサイトで、殺す側と殺される側とを見比べるのである。

「神楽ちゃん、後ろ!後ろ!」

新しく与えられた楽しいおもちゃに、鯨神はすぐに没頭した。
既にプランナーの存在など眼中に無い。
その主の上機嫌ぶりを見て、金卵神はほくそ笑む。

(これであと二日――― いや、一日半程度は保ちますね)


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


プランナーの私室の如き空間には、天使たちが整列していた。
その数は100体を下るまい。
後ろ手に腕を組み、背筋を伸ばし、直立不動。
プランナー直属の精鋭たちである。
0214天覧席の風景(6/9) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:19:36.80ID:oSvQ9z8j0
 
そこに、創造神への貢物を終えた主が、戻ってきた。

天使たちは一糸乱さず、深々と頭を下げる。
プランナーは軽く手を上げて返礼しする。

「情報の収集、ご苦労。ルドラサウム様もことのほかお喜びでしたよ」
「恐れ入ります」
「次に死者が出るまで、ここで待機していなさい」
「了解いたしました」

受け答えたのは、連絡員であった。
主の労いに感動し打ち震えることも無く、淡々と返礼した。
エンジェルナイトとは、そうした存在故に。

「そういえば、悪魔フェリスはどうなっていましたか?」

プランナーはまた別の天使を指し、そう質問する。

「詳細は悪魔界に入らないとわかりませんが―――
 強制解呪にて、ランスとフェリスとの契約が絶たれていました」
「まあ、会場はルドラサウム様のお膝元ですからね……
 彼らもこちらと事を構えたくない以上、
 不干渉に徹することにした、のでしょうね」

創造神ルドラサウムに対抗する勢力として、悪魔なる存在がある。
ルドラサウムの目を逃れて、魂を掠め取り、
ほんの少しずつ、ルドラサウムの弱体化を進めている集団である。
ほんの少しずつ、自陣営の強化を進めている集団である。
渦中のフェリスも、この末端に位置する存在であった。
0217天覧席の風景(7/9) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:24:14.36ID:oSvQ9z8j0
 
例えるならば、絶対権力を有するルドラサウム政権に対する、
弱小にして人口に膾炙せぬ反政府地下ゲリラの如きものである。
象に対する蟻である。

「であるならば、放置ですね」

ランスとフェリスの強制契約解除とは、
【島】への侵入が悪魔サイドの意図せぬものであったことを金卵神に示し、
今後の不干渉を宣言するに等しい行為であった。
お目こぼしを乞う姿勢であった。

創造主サイドにしても、悪魔たちには不介入を原則としている。
それでも時折介入せざるを得ない状況というのは発生するのだが、
今回は面倒な諸問題を発生させてまで手出しすることはないと、
プランナーは考えている。

今やっていることは、ただの遊びである故に。
思いつきの余興であり、主の無聊を慰める暇つぶしである故に。
藪を突付いて蛇を出すような真似はしたくない。

故にプランナーは悪魔侵入の事実を無かったことにして、場を収めたのである。

「まあ、ランスには気の毒なことですが」

プランナーは、紗霧に請われたランスが召還を失敗した事を知っている。
失敗し、ほら吹き呼ばわりされた事を知っている。
その後も人目を避けて何度か試した事を知っている。
その徒労が今後も繰り返されると思うと…… 
プランナーは、愉しくて仕方なかった。
0218天覧席の風景(8/9) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:36:22.29ID:oSvQ9z8j0
 
足掻き、もがき、悩み、苦しむ。
その上で、報われない。
この悪趣味な一柱は、そういった悲劇をこよなく愛するのである。
苦悩と怨嗟が大好物なのである。

その嫌らしい性質故に、このゲームは生まれたのである。
確かに、主・ルドラサウムを楽しませるためのものではある。
しかし隠し切れぬ彼の陰湿なサディズムが、この企図には滲んでいる。

「さて――― 八時までには、まだ間がありますね」

頭を切り替えて、プランナーが時間を確認する。
八時とは、ザドゥたちが目覚める時を指す。
その時間までに、プランナーは一つ、決めねばならぬことがあった。

シークレットポイントを使用したことによるペナルティ。

プランナーは、その具体的な内容を決めていなかった。
手落ちではない。
即興性を重視していた。

どうすれば、主の歓心を買えるのか。
どうすれば、己の濁った悦びを満たせるのか。
どうすれば、転落した主催者たちをもっと惨めに堕とせるのか。

プランナーの頭脳は回転する。
名の示す通り、番組をプランニングしていく。
より悲劇的に、より悪趣味に。
0220天覧席の風景(9/9)(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:48:05.37ID:oSvQ9z8j0
 

AM6:00―――
絶望の孤島に、また、朝日が昇る。


           ↓


(ルートC)

【現在位置:?】

【連絡員:エンジェルナイト】
【スタンス:@死者が出るまで待機
      A死者の魂の回収
      B参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】

 ※ここまでの全ての死者の魂は、ルドラサウムの手に渡りました
 ※紗霧パーティーが全員、まひるの性別(♂)を知りました
 ※フェリスの召還が不可能であると判りました
 ※東の森の火災は鎮火されました
0222狂拳伝説CN(1/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:51:13.59ID:oSvQ9z8j0
【タイトル:狂拳伝説クレイジーナックル】

(ルートC・3日目 AM07:45 場所不明)


いつからこの薄暗い砂漠にいるのか。
そもそもここはどこなのか。
霞がかかった頭では思い出せない。

「あ、こっちにもありましたよ、ザドゥ様」

チャームが向こうで俺に手を振っている。
手にした何かの破片を、誇らしげに掲げている。
ああ、そうだ。
俺とチャームは、あれを集めていたのだ。
この薄暗い砂漠に散らばったあの破片を、
一つ残らず回収せねばならぬのだった。

だが…… あれとは…… 何だった?

「さぁ…… 私はあまり難しいことは判りませんので。
 でも大事なものだって言ってましたよ、ザドゥ様は」

砕けたそれが、散らばったそれが。
俺にとって大切な物であった事は判る。
しかし、こうして破片を集める意味とは、何だ?
失ってしまったものを集めて、一体何になるというのだ?

「そんな悲しいことを言わないで下さい、ザドゥ様ぁ……」

駆け寄って来たチャームがじゃれ付く。
豊満な胸をタンクトップ越しに擦り付け、俺の頬をペロペロと舐め上げてくる。
0225狂拳伝説CN(2/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:53:48.53ID:oSvQ9z8j0
 
チャーム―――
東欧の人身売買オークションで手に入れた、人体改造のモルモット。
野獣のような素早さと攻撃力を身に付けた、俺の四天王の一角。
夜はペット。可愛いやつだ。

「ほら、また見つけましたよ、ザドゥ様。
 この輝きを見てください。この力強さを感じてください。
 これは、ザドゥ様に絶対必要なものなんです」

チャームが、破片を俺に握らせる。
握った瞬間、蘇った。
俺が、組織への侵入者を殴り倒している情景が。
俺の心のどこかに、少しだけ活力が戻った。
俺の頭のどこかが、少しだけ明瞭になった。

「ね?」

チャームが微笑む。にこやかに。
なるほど、これは俺の力の源か。
この破片を全て集め、合わせることで、
きっと俺は俺を取り戻すのだろうな。

―――取り戻す?

自然と胸に浮かんだその単語に、違和感を覚えた。
取り戻すということは、失ったということ。
では、それはいつのことだ?

「いいんです、そんなこと、今考えなくても。
 全部集めたらきっと思い出しますよ!」
0228狂拳伝説CN(3/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:55:14.04ID:oSvQ9z8j0
 
そういう物かも知れんが、俺は既に『気になった』のだ。
探すのはお前に任せるから、もう少し俺に考えさせろ。

「はぁい……」

チャームは何故か淋しげに背中を向けた。
その様子が少し気にかかるが、まあ、後回しだ。
今は手にした破片が砕けた理由を思い出すことが最優先だからな。
後で尻の一つも撫でてやれば、チャームの機嫌は直るだろう。

「あっ……」

ん、どうしたチャーム?

「な、なんでもありません。
 ちょっと勘違いして、別のものを拾ってしまっただけです。
 ポイしましょうね、ポイ!」

チャームが手にしたそれは、汚い破片だ。
目を背けたくなるような気色悪い破片だ。
それなのに。
俺はその破片が、気になってしかたなかった。
チャーム、捨てるな。それを寄越せ。

「ザドゥ様がそうおっしゃられるのなら……」

チャームは不承不承といった体で、俺に破片を渡す。
手にした瞬間。
何かが、溢れた。
0230狂拳伝説CN(4/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:57:30.25ID:oSvQ9z8j0
 

  ―――『お友達を』助けることなんだぁ♪


っっ!!?
なんだ、この能天気でカラっとした女の声は?
なぜ、俺の胸はこれほど痛むのだ?
なぜ、俺はこの声がこれほど恐ろしいのだ?

「だっ、大丈夫ですかザドゥ様ぁ?
 だから言ったんですよ、ポイしましょうって」

いや、問題ない。心配には及ばん。
だが、痛くて恐ろしいはずのこの破片から、目を逸らすことが出来ない。
先程の力湧く破片よりも大切な何かだと、そんな直感が働く。
―――これだ。
他の破片は後回しでいい。先ずはこの薄ら汚れた破片を探すべきだ。
そうすれば、いずれこれらが砕けた理由にたどり着くはずだ。
その確信が、俺にはある。

「ザドゥ様ぁ。それはザドゥ様のためにならないゴミですよ?」

何でも言うことを聞く。服従する。
チャームとは、そういう利口なペットだ。
俺に尽くす方法を弁えている。なのに。
なぜか、従わなかった。
どこか、悲壮感が漂っていた。
であれば、これは本当に為にならぬものなのか?

……いや、流されるな、ザドゥ。
0233狂拳伝説CN(5/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 19:58:42.25ID:oSvQ9z8j0
 
俺は既に判断を下し、命じたのだ。
それを他者の顔色で撤回するなど、あってはならん。継続だ。
俺が俺を信じることが出来ずに、何がザドゥか!

「そんなのより、こっち! この綺麗な破片を探しましょうよ」

チャーム、つべこべいうな。汚いほうだ。
俺が探せと言っている。

「……はぁい」

不承不承のチャームを尻目に、俺も探した。必死に。
這いつくばって、地面を舐めるように。
そして見つけた。三つの破片を。

  ―――大将も自己満でカモミールを殺さないよーに

  ―――アリが人に何を求めるの?

  ―――己の主はただ己のみ!!

……そうだったな。
俺は、負けたのだ。
あの島で、何度も何度も負けていたのだ。

「そんなことないですよ、ザドゥ様。
 だってその三人は皆死んでるんですよ? ザドゥ様は生きてるんですよ?
 どう考えたってザドゥ様の勝ちじゃないですか」

確かに、勝負には勝ったかも知れん。
生き残りには勝ったかも知れん。
0236狂拳伝説CN(6/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:01:01.47ID:oSvQ9z8j0
 
だがな、チャームよ。
俺は、俺を貫けなかった。俺自身で、歪に曲げていた。
奴らは最後まで己を貫いた。己の意志を曲げなかった。

タイガージョーは命を賭してゲームを否定した。
ファントムは地獄の底まで仇を追っていった。
芹沢の『友達を助ける』思いは願望の成就を振りきり、
長谷川ですら醜く汚らわしい道化を貫いた。

俺は、その覚悟の差に、膝を屈したのだ。

「そんな…… あんまり自分を追い詰めないでくださいよ。
 早く欠片を全部集めて、あのカッコよくて自信たっぷりなザドゥ様を
 取り戻しましょうよ!」

チャーム、慰めなどいらん。少し黙れ。
俺はそろそろ思い出せそうなのだ。
先刻、俺はさらりと重要なことに触れなかったか?
それは、キーワードではないのか?

   ―――俺は、俺を貫けなかった。
   ―――俺自身で、歪に曲げていた。

そうだ。これだ。
タイガージョーと言葉と拳を交わした時には、
既に宿っていた暗澹たる敗北感。
それは、誰に? 何に? いつ? どこで?
探さねば。見つけねば。
俺の真の敗北を。
最初の敗北を。
0239狂拳伝説CN(7/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:03:57.81ID:oSvQ9z8j0
 
「それって、シャドウの裏切りなんじゃないですか」

成る程な。
確かに俺はシャドウに敗れて、多くのものを失った。

組織。
部下。
名声。
権力。
女。
金。

だがなチャーム。
そんなもの、戦利品でしかなく。
俺という存在に追従した余禄に過ぎず。
俺そのものでは決してなく。
つまりは…… たかが贅肉よ。

「たかが…… 贅肉……」

俺が見つけねばならんのはな、チャーム。
そんなちんけな敗北では無いのだ。断じて。
贅肉を削ぐような敗北ではなく、拳を砕くような敗北なのだ。
それを見出さねば。
それを受け入れねば。
お前がいくら破片を集めきったとて、決して元の俺には戻るまい。
歪な俺の、不恰好なプライドが形成されるだけだろう。

―――カチ。
0242狂拳伝説CN(8/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:06:49.40ID:oSvQ9z8j0
 
がむしゃらに探す俺の指先に、触れた。
大きな欠片が。
どす汚れ、泥土に塗れ、思わず目をそらしたくなるような欠片が。

   ―――わか・・・・・った。その話・・・飲もう
   ―――キャハハハハ!

……見つけた。
これだ。
俺の真の敗北の記憶。

タイガージョーへの敗北感も、
ファントムへの敗北感も、
長谷川への敗北感も、
芹沢への敗北感も、
全て、結局。
この一敗から目を反らしていたから生まれたのだ。
自分を曲げた事を恥じるが故に、自分を貫く奴らが眩しかったのだ。

「ザドゥ様は、これが敗北だと、言うのですか……」

ああ、そうだ。
俺は、俺の主であることを捨てて、神の走狗に成り下がったのだ。
涎を垂らし、尻尾を振って。
ヤツがぶら下げた餌に飛びついたのだ。

今こそ、ザドゥは、認めよう。
俺の最大の敗北は、その選択をしたことだ。
俺は、俺を、裏切ったのだ!

「その餌は、必要ないものなんですか……?」
0245狂拳伝説CN(9/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:09:15.85ID:oSvQ9z8j0
 
チャームの悲げな声が耳を衝く。
振り返ったチャームは氷柱に閉じ込められていた。
丸い目に涙を溜めて、俺を見つめていた。

そうだ…… 俺は、何を忘れていたのだ。
チャームは死んでいたではないか。
その復活こそが、俺が釣り上げられた餌であったのではないか。

「私は、必要ないんですか?」

チャームが涙を溜めて、氷柱を内側から叩いている。
俺を求めてくる。

この涙に。この献身に。この愛情に。
この死に、俺は変えられた。
俺は、俺を、見失っていた。
無論、チャームを責める気などは無い。
全ては俺の弱さだ。
一人の女に肩入れしすぎたツケが回ってきたに過ぎぬ。

「ザドゥ様ぁ…… どうして自分ばっかりご覧になってるんですか?
 もっとこっちを見てください…… もっと私を見てください……」

人の死の中になにかを見出した気になり、哀れみを覚え、共感を欲する?
ハッ! とんだ善人気取りだな、ザドゥ。
隠居したジジイでもあるまいに、それが牙を持つ人間の思想か?
そんなザドゥが、どこに居る?
断じる! そんなものはザドゥではない!

「ペットは捨てないって、言ってくれたじゃないですかぁ……」
0248狂拳伝説CN(10/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:12:30.75ID:oSvQ9z8j0
 
ああ、確かに言ったな。
不安がるお前を強く抱きしめながら、何度でも言ったな。
覚えているぞ。
忘れられるはずもなかろう。
無論、全てを思い出した今。
飼い主としての責任は、果たしてやる。

「ザドゥ様ぁ! やっと私を見てくれた!」

なあ、チャーム……
俺は、今やっと、敗北を受け入れることが出来たのだ。
恐れていたそれは、恐れていたほどではなく、逆に清々しさすら感じたぞ。
だがな。
敗北を受け入れることと、負け犬のままでいることは、違う。
敗北は結果として受け入れよう。
だが、俺は、負け犬のままでいるつもりはないのだ。

だからな、チャーム……

「はいっ! なんでしょうザドゥ様っ♪」



俺の為にもう一度、死ね。



「なんっ……!?」
 
0250狂拳伝説CN(11/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:15:22.97ID:oSvQ9z8j0
 
砕けろ、氷柱。
砕けろ、愛猫。
砕けろ、想い。
砕けろ、願い。

その痛みを以って、受け入れろ、ザドゥ。
愛する者を殺し直して、蘇らぬを自覚しろ。

―――狂 昇 拳 !

「酷い、おかた……」

ああ、なんと酷い男なのだろうな、ザドゥという男は。
だがチャームよ、お前は知っていた筈だ。
これが俺なのだと。
お前の復活などを望むザドゥこそ、本来のザドゥでは無かったのだと。

俺は飽くまでも俺本位で。
行動を妨げようとする者は必ず叩き伏せ。
意志を曲げようとする者は必ず返り撃ち。
いかなる犠牲も恐れず、
いかなる敵にも怖じぬ。
お前の飼い主とは、そういう男であったろう?

「さよならです……」

狂昇拳は氷柱を穿ち、そこに捕らわれるチャームの心臓をも貫いていた。
次の瞬間、霧消した。
その姿が消えると共に、左手首に巻いていた鈴の紐が切れた。

りん……
0253狂拳伝説CN(12/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:17:04.27ID:oSvQ9z8j0
 
一度だけ悲しげに鳴った鈴は、砂漠の砂に同化して沈んでいった。
これで俺を縛るものは、無くなった。

一人だ。
独りだ。
俺は、ひとり、ザドゥだ。
俺は、ただの、ザドゥだ。
裸一貫。
鍛えぬいた狂拳。

それで十分。

散らばった破片も、もう要らぬ。
あれもまた一つの贅肉だ。
今の、単純化されたザドゥの動きを鈍らせる重荷だ。

それで完結。

そう、チャームも言っていたではないか。
生きているから、負けではない、と。
リベンジの機会が、まだあるうちは。
それを諦めないうちは。
俺は、まだ、俺でいられる。

確か、鯨は言っていたな。次に会うときはゲームの終了時だと。
成る程な。チャンスはその一回のみということか。
であれば、必ずゲームは成功させてやる。
成功させて、芹沢の願いを叶えてやる。
それから。いざ、俺の願いが叶えられようとした瞬間に。

―――殴る。
0256狂拳伝説CN(13/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:18:57.29ID:oSvQ9z8j0
 
俺の全てを一撃に込めて、いけ好かん鯨野郎をぶん殴る。
そして言ってやる。
お前などに叶えさせてやるような望みなど無いのだと。
その後のことなど、知ったことか。

圧倒的な力量差があろうと。俺はお前の飼い犬ではなく。
伸ばした手が届かぬのだとしても。俺の主は俺だけで。
たったそれだけのシンプルな事実を、物分りの悪い蒼鯨に理解させてやる。
この拳でな。


『ねえねえ、今度こそザッちゃん起きたかなぁ?』
『違う、また寝言』
《寝言なのかうわごとなのか、ビミョーですよ?》
『瞼に小刻みな痙攣を感知。首魁殿はそろそろ目覚められるようだよ』


鼓膜に…… 聞き覚えのある声を感じる。
両瞼に…… 淡い光を感じる。
四肢に…… 筋肉の疼きを感じる。

ああ、俺はもうすぐ目覚めるのだな。
ああ、これまでの全ては夢だったのだな。

だとすれば、きっとこの夢も目覚めと共に忘れてしまうのだろう。
それはそれでいい。
だが、ただひとつ。
目覚めの世界に、これだけはもって行け。
これだけは、忘れるな。
0259狂拳伝説CN(14/14) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:20:37.18ID:oSvQ9z8j0
 





          ―――敵は、鯨だ。





 
              ↓
 
0262狂拳伝説CN(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2 2011/02/27(日) 20:22:09.38ID:oSvQ9z8j0
 
(ルートC)

【主催者:ザドゥ】
【スタンス:ステルス対黒幕
      @プレイヤーを叩き伏せ、優勝者をでっちあげる
      A芹沢の願いを叶えさせる
      B願望の授与式にてルドラサウムを殴る】
【所持品:なし】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:重態、全身火傷(中)、睡眠中】

 
0263譲れぬ想い 挫けぬ心(1/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:04:42.53ID:zB/hiIzv0

(Cルート・3日目 AM09:00 D−6 西の森外れ・小屋3)

「メイド服っ!」
「メイド服っ!」

朝日差す西の森の小屋に、男の魂の叫びが二つ、響き渡った。
魔窟堂野武彦と、ランスである。
この、およそ接点を見ない縁遠い二人が、意気投合していた。
大いなる野望の達成の為に、心を一つにして事にあたっていた。
その魂の叫びは、食卓に座す月夜御名紗霧へと向けられていた。

「着ません」

うんざりした顔で溜息をつく紗霧ではあったが、
意外にも、その表情に険は見られない。

「朝食の準備…… 今この時に装着せんでなんとする!」
「そうだそうだー!」
「ランス様も、こう仰っていますし……」
「着ません」
「着てあげてもよくない? 紗霧サン?」
「よし! 今まひるが良いコト言った!」
「着ません」
「あと一押しじゃ! 言ってやれい、恭也殿!」
「俺ですか? ……これといって、別に」
「……なんでですか!」
「紗霧サン、どしてそこでつっかかる?」
「メイド服なんて着ませんが、興味なさそうな態度も気に入りません」
0264譲れぬ想い 挫けぬ心(2/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:08:26.30ID:zB/hiIzv0
 
ふざけても、怒っても、呆れても。
それでも、皆の声は弾んでいた。
それもそうであろう。
何しろ、昨晩、大勝利を飾ったのである。
巨凶、ケイブリス相手に。

朝食準備の席に、誰一人として欠けることなく揃っている。
このような状況、誰が想像したであろうか?
作戦立案者である紗霧とて、まさか怪我人すら出さずに勝利するとは
想像だにしていなかったのである。
浮き足立つのも、当然と言えた。

巨凶ケイブリスとの戦いを終えた六戦士は、深夜一時過ぎに、
彼らのホームである小屋へと、帰投していた。
そこで、たっぷりと休養を取った。
ランスの夜這いに関するアクシデントこそあったものの、
交替で見張りを立てて、それぞれが六時間の睡眠を得たのである。

で、皆が目覚めて。
顔を揃えて。
いざ、食事を作ろうという段で、深刻な問題が発生した。

「じゃあまひるさん、お願いします」
「いやいやここはユリーシャさんが」
「食事の準備はメイドの仕事でした」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
0267譲れぬ想い 挫けぬ心(3/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:10:55.59ID:zB/hiIzv0
 
女性陣の誰一人として、まともな自炊経験がなかったのである。
問題は、それだけに止まらなかった。

「世の中にはコンビニという便利な場所があっての」
「そんなもん、シィルにやらせていたからなぁ……」

野武彦とランスもまた、厨房に立つ能力を持ち合わせなかった。
と、なれば。
あとは一人しかいなかった。

「男の大雑把な料理でよければ」

こうして高町恭也がひとり、厨房に立つことになった。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


「……どうしても紗霧ちゃんのメイド姿が見たい」
「……異議なしじゃ」

小屋の裏手でP−3の残骸を処理しながら、ランスと野武彦は小声で密談する。

「恭也は朝ごはんを作っている。念のためユリーシャを見張りに立たせた。
 今がチャンスなんだ。ジジイ、策は無いか?」
「では、こんなのはどうじゃ?」

キランと丸眼鏡が光り。落雷の書き割りが表れて。
野武彦の目線が、井戸へと向けられた。
0269譲れぬ想い 挫けぬ心(4/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:18:45.18ID:zB/hiIzv0
 
   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


小屋には長逗留を想定してか、米や味噌の備蓄がそれなりにあった。
肉類こそ無かったものの、日持ちする野菜も発見された。
故に朝食は、一汁一菜。
ご飯と、赤だしと、煮物と、香の物。
誠に日本人らしいメニューと相成った。


   ―――コトコトと、鍋が鳴っている。
   ―――刻まれたネギの強い香気が漂っている。


「なんてゆーかこの…… 厨房に立つ男子ってゆーのは、
 一種独特の色気がありますなぁ」

広場まひるは、エプロンをつけて沢庵をトントンしている恭也の背を見つめ、
ワイドショーを眺める中年主婦の如き感想を述べた。

「ま、否定はしません」

済ました顔で興味なさげに相槌を打つ紗霧ではあるが、
しかしまひると並んで食卓から恭也を眺めていた。
ユリーシャも同席はしているものの、窓の向こうのランスを気に掛けるばかりで、
二人の会話にも、恭也の後姿にも、意識は向けられていない。


   ―――コトコトと、鍋が鳴っている。
   ―――炊飯器の湯気に混じる白米の甘い香りが漂っている。
 
0272譲れぬ想い 挫けぬ心(5/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:23:36.93ID:zB/hiIzv0
 
「おう、終わったぞ」
「ついでに井戸水も汲んできたわい。食後の皿洗いに必要かと思っての」
「お疲れ様です、ランス様」

P−3の残骸の処理を終えたランスとユリーシャが帰ってきた。
忠実な愛玩犬の如く笑顔で駆け寄るユリーシャを抱きとめて、
ランスはその耳元に、何事かを囁いた。
ユリーシャは複雑な表情で頷くと奥の部屋へと引っ込んで行く。

「いやあ、しかし水桶は重いのぅ……
 この老骨のヤワい足腰には格別に堪えるわい」

野武彦は厨房に向かって、不確かな足取りで歩いてゆく。
そんな様子に哀れ心を誘われたまひるが、
手を差し伸べようと腰を上げた時であった。
あまりにも意外な第三者が、先んじて救いの手を伸ばしたのは。

「情けないなあ、ジジイ。しょうがない、俺様が代わってやろう。
 ホレ、桶をよこせ」

まひると紗霧は己の耳目を疑った。
あのランスが。
男にはとことん厳しいランスが。
ジジイは早くくたばれだのの暴言を吐くランスが。
男に、年寄りに、親切心を発揮したのである。

「よよよよ、人の情けが身に染みるのじゃあ!」
「わはは、大げさなジジイだな!
 そんな書き割りを出す暇があるなら、さっさと桶を……
 ををっ!?」
0273譲れぬ想い 挫けぬ心(6/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:31:11.78ID:zB/hiIzv0
 
ランスが詰め寄り、野武彦が立ち止まり。
交錯の瞬間、二人はニヤリと笑いあった。
その瞬間、水桶が、宙に浮いた。

「なんと!
 ランス殿の親切に涙を浮かべた野武彦は、
 手渡す水桶の目測を誤ってしまったのだった!
 まったく意図せずに!」
「さらに!
 ジジイが手放した水桶を掴もうとした俺様だが、
 無茶な体勢が祟って、桶をひっくり返してしまったのだ!
 紗霧ちゃんに向かって!」

野武彦とランスは慌てる素振りも見せず、一息に言った。
明らかな猿芝居であった。
しかしその素早い連携に、まひると紗霧は反応できなかった。

「きゃあ!」
「がははは! 紗霧ちゃん水浸し!」
「やったのう、ランス殿!」

頭からしたたかに水を被り、全身ずぶ濡れになった紗霧が、
その黒髪をワカメの如く額に張り付かせ、
ハイタッチを決める老人と青年に、恨めしげな上目遣いを向ける。


   ―――コトコトと、鍋が鳴っている。
   ―――溶かされた味噌の匂いが居間まで漂っている。
 
0274譲れぬ想い 挫けぬ心(7/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:37:43.68ID:zB/hiIzv0
 
奥の部屋に引っ込んでいたユリーシャが居間へと戻ってきた。
戻ってきたかと思いきや、そのまま小屋を出て行った。
その手に二つの大きな紙袋を握って。

「濡れた着衣に下着のラインを透かせては目の毒じゃ。
 ささ、奥の部屋で着替えるとよい」
「俺様たちの大事な軍師が風邪をひいたら大変だからな。
 早く奥の部屋で着替えるのだ!」

野武彦とランスはにこやかに紗霧を奥の部屋へと誘導する。
その様子に、紗霧は不信感を抱き。
数秒前に出て行ったユリーシャが抱えていた紙袋へと思い至る。

「まさかっ……!」

奥の部屋に飛び込んだ紗霧が目にしたものは。
男物女物、あらゆる衣類が持ち出されて空っぽになった、
部屋に備え付けの収納ボックスであった。
そして、その部屋の真ん中に。
まひるが病院で発見し、ユリーシャが保管を任されていた
衣服セットの入った袋だけが、ぽつんと、置かれていた。

「そこまでですか…… どうしてもメイド服なんですか」

紗霧を着替ぬ訳にはいかぬ状態へ追い込んだ上で、
替えの衣装の選択肢を限定させる。
それこそが、野武彦の策であった。

「それだけは譲れないのじゃよ」
「俺様は決して挫けないのだ!」
0275譲れぬ想い 挫けぬ心(8/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:46:25.82ID:zB/hiIzv0
 
恥じることなく胸を張り主張する男二人の曇りなく輝ける瞳に、
ついに紗霧は溜息を以って、屈した。

「はあ…… しょうがないですね。
 確かにここで風邪でもひいては困ります。
 まひるさん、見張りを頼みます」


   ―――グツグツと、鍋が煮えている。
   ―――煮詰まった味噌汁の匂いが胃袋を刺激する。


紗霧の警戒に反して、野武彦とランスは全く大人しかった。
お利口に正座をして待っていた。
既に戻って来ているユリーシャは最初、暗い眼差しをしていたものの、
ランスに撫で撫でされたので、すっかり機嫌を治していた。

からり、と、引き戸が開かれて。
ごくり、と、男たちが息を呑む。

「いよいよだな!」
「なんと長い道のりであったことか……」

肩を叩き合い、互いの健闘を称えあう二人の前に、
ついに着替えを終えた紗霧が姿を表した。
その新装束の衝撃に、まひるやユリーシャまでもが息を呑む。

「な、な、な……?」
「そっちを選びよるとは!」
0276譲れぬ想い 挫けぬ心(9/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 19:50:37.01ID:zB/hiIzv0
 
紗霧は、全身、清潔な薄いピンク色に包まれていた。
膝上までのタイトなスカートの下には白いタイツが履かれており、
頭上には三角巾の如きキャップが載せられていた。
胸ポケットには体温計が刺さり、首には聴診器が掛けられていた。

そう。
置かれた袋の中にある、もう一つの装束―――
紗霧は、ナース服に着替えたのであった。

メイド服とナース服。
どちらも同じく恥ずかしい衣装であり、
どの道コスプレの羞恥は拭えない。
ならばと、紗霧は考えた。
せめてと、紗霧は企んだ。
野武彦とランスの下らぬ策略に嵌っただけでも屈辱であるのに、
これ以上喜ばせるなど以ての外である。
ナース服とは苦渋の選択であり、意趣返しであった。

「この月夜御名紗霧にも、意地があります」

驚きを隠せぬ野武彦とランスは呆けた表情を見せ。
紗霧はそれを満足げに眺めながら笑った。
恐ろしく影の濃い、不吉な笑みであった。

「さて、お二方。治療のお時間です」
「何故に治療でバットなんじゃ?」
「しかもそれ…… 釘が打ち込まれてないか!?」
「昔の人は言いました。馬鹿は死ななきゃ治らない(ニッコリ)。」
0278譲れぬ想い 挫けぬ心(10/10) ◆VnfocaQoW2 2011/03/06(日) 20:04:38.37ID:zB/hiIzv0
 
紗霧が凶悪に改造されたバットを振り上げ、
野武彦が身を竦め、
ランスが野武彦を犠牲に逃げる素振りを見せ、
ユリーシャがランスに駆け寄り、
まひるが苦笑した、

その時。

ドシリと、厨房から、重い音が聞こえてきた。


   ―――カラカラと、鍋が焦げている。
   ―――焦げた煮物が目に染みる黒煙を発している。


全員が同時に、その異様に気付いた。
最も厨房に近かったまひるが、そちらに目線をやり、叫んだ。

「―――恭也さんが倒れてる!!」


              ↓
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