バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第8部
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※ルート分岐のお知らせ
前スレ>>238「生きてこそ」以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
経緯につきましては、新・総合検討会議スレの886以降をご参照ください。
素直に託そうとしたならば、プレイヤーは拒絶するであろう。
理を語り言葉を尽くして交渉しても、事は同じであろう。
仮に受け取って貰えたとしても、猜疑心は拭えないであろう。
であれば。奪わせればよい。
野武彦とまひる。
この二名が相手であったことは、代行らにとって僥倖であった。
小屋組の中で単純、かつお人良しのツートップである彼らであればこそ、
レプリカ達の愚にも付かぬ三文芝居にまんまと騙され、
戦闘の手を抜かれたことにも気付かぬまま、
ほくほく顔で物資を略奪していったのであるから。
代行の手の平の上で、完璧に踊ってくれたのであるから。
(魔窟堂野武彦はスイッチを叩き壊す行為を見過ごさず、わざわざ奪い取った。
これはオリジナル殿に使用させないように、守ってくれることの証明だね。
Yes! もう、後顧の憂いは一切無くなった!)
代行の胸中に気付くことなく、幸せな二人は現場に背を向ける。
二人が手にしているのはカスタムジンジャー。
つい先刻までN−22とP−04が搭乗していた電動高速移動機である。
「わわっ、これ結構スピード出るね!」
「智機たちへの追撃はタイムロスとなるかと思うとったが、
ジンジャーの移動速度を考えれば、逆に時間短縮になりそうじゃな。
なんともありがたいプレゼントを遺してくれたもんじゃ」
「ホントホント!」
二人の声が、ジンジャーの軽快な疾走音と混ざり合い、遠ざかってゆく。
その音が完全に聞こえなくなった、代行の耳に。
じゅ、と。
熱した鉄板に水を差すが如き音を、代行の耳が捉えた。
自らの胸の孔の奥から、鮮明に聞こえた。
それは、マザーボードに漏れた冷媒が侵食し、回路短絡を起こした音であった。
機械としての死を告げる音であった。
(これにてファイナルミッション、無事にコンプリートだ)
こうして、椎名智機のレプリカ170機最後の一体が、沈黙する。
プレイヤー達が見事に主催者達を殲滅し、ゲームが円満終了する確信を抱いて。
↓
(ルートC)
【現在位置:E−6 病院前道路 → E−7 廃村】
【魔窟堂野武彦(元12)】
【スタンス:廃村で市販薬品をかき集める】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×4、簡易通信機・小、
軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【広場まひる(元38) with 体操服】
【スタンス:廃村で市販薬品をかき集める】
【所持品:せんべい袋(残 19/45)】
※レプリカ智機は全滅しました
※灯台跡に主催者たちが潜伏しているらしいと知りました
※以下の道具を、レプリカ達から入手しました。
※グロック17(残弾 16)×2、手錠×2、斧×3、鉈×1
※モバイルPC、USBメモリ、簡易通信機素材(インカム等)一式×3
※カスタムジンジャー×2、分機解放スイッチ
※USBメモリ、モバイルPCの中身は未確認です
(ルートC・3日目 AM11:00 J−5地点 地下シェルター)
椎名智機は憤慨した。
ザドゥたちは確かに自分の戦略を受け入れたのだ。
―――仮称「小屋組」を崩壊させること。
―――28・しおり他一名を残すこと。
―――この二名にて決戦させること。
にもかかわらず、今、自分は蚊帳の外で。
ザドゥとカモミール芹沢は勝手に戦術を練っている。
それは、愚かな戦術であった。
それは、勝ち目の少ない戦術であった。
故に智機は力説した。
バカな子供にでも分かるように、小学校の教師の如く
辛抱強く、平易な言葉で、繰り返し教え込んだ。
―――馬鹿げている。
―――根性論に過ぎる。
―――捨て鉢だ。
―――実効性が低い。
だのに、ザドゥは聞き流した。
だのに、芹沢はザドゥに倣った。
無論、智機のコメントは批判のみに留まらぬ。
建設的に、積極的に、代替の策も提示していた。
―――離間の計
―――ハニートラップ
―――透子の瞬間移動を用いた暗殺
―――仁村知佳人質作戦
それすら、ザドゥは聞き流した。
それすら、芹沢はザドゥに倣った。
故に智機の怒りは頂点に達した。
トランキライザが許容する限界の怒りが持続状態となり、
机に拳を、ザドゥに言葉を叩きつけた。
「だから、果し合いなどナンセンスだと言っている!」
そう。ザドゥと芹沢は。
小屋組に果たし状を叩き付け、策も陰謀も罠もなく、
全戦力を全戦力を真正面からぶつけ合って、
正々堂々と決着をつけようと、主張しているのである。
この主張、決して玉砕覚悟の特攻に非ず。
煩悶と懊悩を経て純化されたザドゥの、揺ぎ無い自負心の表れである。
小ざかしい策を弄すを排して、圧倒的な暴で捻じ伏せるのみ。
当然の如くそれが成ると確信している。
「首魁は俺だ。 従えぬなら出て行け」
芹沢は、そのザドゥの自信に同調している。
果し合いという、明快で正統な手段を好ましく思っている。
その上、芹沢には士道に根ざした潔さと、淋しがり由来の甘っちょろさが同居している。
智機の示す卑怯・陰険な策略は感情的に許容できぬ。
「だってだって、ともきんの策ってずっこいんだもん〜」
故に、智機の思いは、理は、決して二人に届かない。
小煩い蝿の耳障りな羽音にしか聞こえていない。
それでも智機は食い下がり、論理的に反駁する。
「No。 既に我々の管理者権限は失われているのだよ。
であれば私が貴君の命令を受ける謂れがないのは自明だと思うのだが?」
「そうか、では勝手にしろ。 俺たちは俺たちで勝手にする」
ザドゥは言い捨て、智機から目線を切った。
誰の目にも明らかな拒絶の態度に、人生経験の少ない智機は気付かない。
切り口を変えて態度は変えずに、しつこく説得を継続する。
「貴殿らは、ご自身の身体の状態を本当に理解しているのか?
そして仮称【小屋組】の実力を正当に評価できているのか?」
「黙れ椎名」
「Noだ。 誰の目から見ても明らかにNoなのだよ。
その戦力差を覆す為には、入念な下準備と策が必要不可欠となる」
「俺は黙れと言ったぞ」
「その為の策を用意できていると―――」
「そろそろさぁ、ともきん。お口チャックしとこっか〜」
見かねたカモミールが智機を止めに入った。
芹沢は敵との戦闘を好む性質ではあるが、味方同士の争いを嫌う性質でもある。
つまりは。
芹沢にとっては、智機とて、未だに輪の内側なのである。
守るべき対象であり、出来れば仲良くしたい相手なのである。
お友達は大切にするのである。
仮に、芹沢に。
智機のことを好きなのかと問えば、即座に『嫌い〜!』と答えるであろうが、
それでも智機が敵なのかと問えば、即座に『味方だよ』と答えるであろう。
カモミール芹沢とは、そういう気性の女なのである。
現存するただ一人の智機の味方なのである。
だというのに。
智機は、芹沢を拒絶する。
「濡れ落ち葉の君は黙っていてくれ給え。
私はザドゥ殿とのディベートで忙しいのだよ」
智機には判らない。
芹沢の言動は智機への邪魔立てなどではないことが。
智機とザドゥの溝を決定的にさせぬが為の配慮であることが。
智機には判らない。
芹沢がいかに他者への愛に満ち、偏見を抱かぬ人格を持っているのか。
愛されたいという宿願に近づく鍵となりうる人物であるのか。
「ああ〜っ、もぅ! そう思ってるのはともきんだけなのにぃ!
ね、ザッちゃん、ちょっと待って。
あたしがともきんに言って聞かせるから」
芹沢は気付いている。
人一倍人の顔色を伺うに敏感な彼女は、気付いている。
ザドゥの纏った空気が剣呑なものになってきていることを。
いつの間にか拳が握りこまれていることを。
そもそも彼が、智機を仲間などと思ってはいないことを。
「もういい芹沢。 埒が明かん」
ザドゥは意を決した。智機を物理的に黙らせると。
芹沢は悟った。これ以上の仲裁は無駄な足掻きにしかならぬのだと。
智機は勘違いした。ザドゥが話を聞く姿勢を見せたのだと。
その、破壊行為を伴なう断絶が表面化しようとした刹那。
絶妙のタイミングで。
もう一名の元主催者が、音も無く帰還した。
「ただいま」
レプリカ智機・N−21に共生した、御陵透子である。
芹沢は魔剣を担いだ救世主の思わぬ登場に笑顔で応え、手を振った。
「トーコちん、おっかえりー」
「ん」
今の透子は、御陵透子なる人間の肉体を失っている。
亜麻色の柔らかな髪も焦点の合わぬ大きな瞳もない。
変わりに得たのは椎名智機のレプリカボディである。
銀色の硬質な擬似毛髪とルビーの質感の三白眼しかない。
それでも。
透子にあって智機に無い、不可思議な透明感がある。
透子にあって智機に無い、茫とした佇まいがある。
透子にあって智機に無い、間延びしたアンニュイ感がある。
透子にあって智機に無い、ひび割れたロケットがある。
それら透子をあらわす記号と、脳の認識能力に直接作用する何かの影響で。
ザドゥも芹沢も、N−21=透子の図式を当たり前に受け入れていた。
そういうものなのだから仕方ないのだと、否応なしに納得させられていた。
「カオっさんもおつかれさーん」
《はいっ、そこでセクシーポーズ!》
「うっふ〜〜ん♪」
芹沢と駄剣の間の抜けたやり取りに、緊張感は失われる。
ザドゥは毒気を抜かれ、深く溜息をつき。
智機も肩を竦め、大げさに首を振る。
芹沢はさらに二人の意識を逸らすべく、透子に問いかけた。
「ねねねトーコちん、皆の様子はどうだったぁ?」
その言葉と同時に、ザドゥと智機が透子に向き直る。
透子の言葉を待つ姿勢に移行する。
参加者どもの動向を探って来い―――
ザドゥは透子に命じていたのである。
これに応じた透子は、島内の情報収集に出向いていたのである。
「ん」
透子は最短の返答と共に、白衣の内ポケットから無造作に紙束を差し出した。
おそらくは口頭にて報告するのが面倒だったのであろう。
どこかの民家のプリンタを用いて印刷した紙束には、
透子の【空間の記憶/記憶】検索能力によって集められたここ数時間の情報が、
箇条書きに羅列されていた。
重要箇所を抜粋すれば、以下の通りである。
―――プレイヤーは無傷でケイブリスに勝利
―――高町恭也、意識不明の重態。薬品切れか
―――東の森、完全鎮火
―――レプリカ智機、全滅
―――魔窟堂野武彦、分機解放スイッチ他を入手
―――仁村知佳、起床間近
―――しおり、さおりの遺骸を求めて放浪中
「この短時間で、これほどの情報量とは……」
ザドゥが嘆息する。
なにしろ透子が情報収集に出発して10分程度である。
にも関わらず、レポートには全生存者の近況が網羅されている。
(これが…… 人の頭脳を脱した透子様の処理能力か……)
智機の読みは正しい。
人の身であった頃の透子の空間検索といえば、
情報一つの意味・発信者・時制を理解するのに、数秒の時間を要していた。
しかも、目を通さねば、その情報が必要なものか否かも、
既に目を通した記録か否かすらも、判別できぬものであった。
脳という記憶装置もまた、容量、記憶力共に低スペックである。
覚え違い、物忘れのリスクも常に付きまとう。
対して、今は。
機械の体を得ることで、情報処理能力が劇的に向上していた。
漂う記録を片っ端からクラス化し、パラメータを付けてリストに挿入する。
その処理にコンマゼロ一秒も掛からない。
しかも、それを自由にマージ・ソートし、アウトプットできる上に、
記録の重複判定も、クラスに登録したインデックスにて高速で行える。
機械としての長所を、徹底して生かしている。
ザドゥら三名が情報の一通りを吟味し終えたのは、
透子が収集に掛けた時間の倍にあたる20分後となった。
「高町が倒れたか……
であれば、実質戦力は、ランス、魔窟堂、広場の三人でしかない。
俺一人でも殲滅できよう」
「あーん、独り占めは駄目だよぅ、ザッちゃん」
ザドゥと芹沢、二人の口許から不敵な笑いが同時に漏れる。
一度ならず死線を潜り抜けた身ならではの覚悟が、そこにある。
共に苦難の道を歩んだ連帯感が、そこにある。
「ふん」
「えへへー」
二人は目線を交わし、拳と拳をごつりと打ち合わせる。
それは、計画に変更が無いことを確認する儀式であった。
果し合いの場への参加表明の合図であった。
そこに。
拳がもう一つ、へにょりと重ねられた。
「おー」
気合の抜けた声で唱和したのは御陵透子。
その意外な乱入者に、ザドゥは息を呑み、智機は絶句した。
「トーコちんも戦うのぉ!?」
「ん」
「まったく、どういった風の吹き回しだ?」
ザドゥの無防備な問いに、透子は答える。
己の言葉で。
焦点の合った瞳で、ザドゥと芹沢の顔をまっすぐに見つめて。
「もう」
「傍観者でいる意味は喪われた」
「勝たないと願いが叶わないなら」
「戦う」
「それだけ」
二人を包むのはさらなる驚愕であった。
透子が、これほど長く話すとは。
透子が、これほど熱く語るとは。
しかしその驚愕は二人にとって決して不快なものではなかった。
むしろ好感を持って迎え入れるべきものであった。
「そっか、そだね♪ トーコちん、一緒に頑張ろうね!」
「いえす」
「ま、良かろう」
一方。
先ほどまであれほど果し合いの却下に食い下がっていた智機であったが、
今は不気味なほどに沈黙を貫いて、傍観者に徹していた。
透子には逆らわない―――
智機の【自己保存】の本能がそう結論を下している故に。
透子が果し合いに参加するのであれば、最早智機に嘴は差し挟めぬのである。
悔しげに下唇をかみ締めつつ、三白眼でザドゥらを見つめるのみである。
「じゃあさあじゃあさあ、場所と時間、決めよっか」
「場所は学校の校庭でよかろう。 時間は……」
「明日の晩」
ザドゥの言葉に間髪入れず飛びついたのは透子であった。
透子にとってこの【明日の晩】という時間は切実に重要であった。
その時間からの開始が願望の成就に最適であると結論付けていた。
根拠となるデータと論理演算がある。
透子はザドゥに命じられた参加者動向とは別に、個人的な記録収集を行っている。
それは、撒き餌の如く散らされた、最愛のパートナーの記録ではない。
ルドラサウムとプランナーの記録/記憶を追跡・記録・分析しているのである。
そのデータから透子が判ずるに。
今、ルドラサウムは一人で楽しんでいる。
この島から回収した魂の記憶を反芻し、取り込んでは吐き出し。
おもちゃにして。
死者の魂を味わっている。
それに強く関連付けられているのが、プランナーの、この記録である。
【これであと二日――― いや、一日半程度は保ちますね】
あまり検索に引っかからないプランナーのこの思念だけは、
なぜか明瞭な形を伴って、透子の検索網に掛かっていた。
それを透子は、自分へのメッセージと読み取った。
すなわち。
(鯨神が魂いじりに飽きた頃に)
(最高の娯楽を提供する……!)
それが、『主を楽しませなさい』という金卵神の神託を全うする、
最良の選択枝であると、結論を下したのである。
「ほう、明晩か……」
ザドゥにしても、一日半の猶予とは一考に価する提案であった。
ザドゥの【正の気】による治療は、それなりに効果があった。
最低限の体力や免疫力は確保できた。
いくつかの箇所の今後来る破損を、未然に防ぐことができた。
しかし全身を覆う火傷や傷、発熱を完治させるには至っていない。
それが治せるまでの時間が一日半であるのか?
否、である。
発熱を引かせるのすらそれだけの時間では足りぬし、
そもそも火傷や傷の多くは一生治らぬ類の深度であった。
では、ザドゥは何ゆえ一日半の時間を欲するのか?
それは、馴染む為の時間であった。
急激な肉体の変化に、それまで体を動かしていた記憶というものは
即時には対応/変更しきれぬものなのである。
例えば、身長が急激に伸びた為に制球力を失う高校球児がいる。
例えば、体重が急激に減った為に打撃力を失うボクサーがいる。
それと同じである。
全く健常であった頃の過去の運動能力と、
引き攣りや炎症の上にある今の運動能力。
過去のイメージで体を動かせば、今の体は付いてこない。
ギャップに惑えば、感覚が狂う。
ザドゥは、過去と現在の肉体記憶の最低限の摺り合わせに、
少なくとも一昼夜は必要であると判じたのである。
故に、ザドゥの返答は。
「いいだろう」
こうして、果し合いの全てが、決定した。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(ルートC・三日目 AM11:15)
「ふんふーん、らんらーん、しゅぱしゅぱ〜♪」
カモミールの能天気な鼻歌が、シェルターに響いている。
彼女が腕を振るう毎に、墨汁の雫が周囲に飛び散る。
果たし状をしたためているのである。
「ほう…… 意外と達筆なのだな」
「えへへ〜♪ これでもカモちゃんさんはモノノフの端くれだも〜ん♪」
ザドゥと芹沢との間に連帯感があることは、智機も以前から判っていた。
しかし、今やそれだけではない。
《実は儂も筆使いは上手なんですよ? 女体に対しては》
「駄剣は無駄にエロい」
その輪の中に、魔剣・カオスと御陵透子までが含まれているのである。
無生物の分際で。
智機と同じ外装の癖に。
人間の輪に入って、笑顔で軽口を叩き合っているのである。
それは、団欒であった。
それは、和気であった。
一人、離れた位置から眺める智機には、眩しすぎる光景であった。
妬ましすぎて切なすぎる光景であった。
「血判いっちゃう?」
「ふん、好きにしろ」
「困った、血が無い」
《トーコちんはオイルでええじゃろ》
智機がこれまでに幾度と無く感じてきた隔絶感。
それがこれまでより切実に智機の胸を締め付ける。
(遠い…… 彼らと自分とは、かくも遠い)
智機は人を蔑む。
時に強すぎる感情に思考を支配され、期待値を下回る行動をとる存在故に。
智機は人を羨む。
時に強すぎる意志で本能を凌駕して、期待値を上回る行動をとる存在故に。
内部処理キューの履歴を辿れば。
彼女が何度、感情的な発言や行動を取ろうとしたか判るだろう。
何度論理演算回路に否決されたか判るだろう。
(わたしなんか…… 見向きもされない)
眩しくて愚かしい矛盾する存在を見つめ、
憧れの想いを侮蔑の意思で覆い隠し、
高まる情動波形をトランキライザで相殺して。
智機は、智機であるを望まぬまま保ち続ける。
↓
(ルートC)
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【刺客:椎名智機】
【所持品:スタンナックル、改造セグウェイ、グロック17(残17)×2、Dパーツ】
【スタンス:@【自己保存】
A【自己保存】の危機を脱するまで、透子には逆らわない
B【自己保存】を確保した上での願望成就可能性を探る】
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子】
【スタンス:待機潜伏、回復専念
@プレイヤーとの果たし合いに臨む】
【主催者:ザドゥ】
【スタンス:ステルス対黒幕
@プレイヤーを叩き伏せ、優勝者をでっちあげる
A芹沢の願いを叶えさせる
B願望の授与式にてルドラサウムを殴る】
【所持品:なし】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:体力消耗(大)、全身火傷(中)】
【刺客:カモミール・芹沢】
【スタンス:@ザドゥに従う(ステルス対黒幕とは知らない)】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)
魔剣カオス(←透子)】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)】
【備考:体力消耗(大)、腹部損傷、左足首骨折、全身火傷(中)】
【刺客:御陵透子(N−21)】
【スタンス: 願望成就の為、ルドラサウムを楽しませる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
グロック17(残17)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』(現状:自身の転移のみ)】
※ザドゥと芹沢は素敵医師のまっとうな薬品、及び、ザドゥの気による治療継続中
果たし状
明晩、月光冴える折
始まりの場所にて待つ
ザドゥ
カモミール芹沢
御陵透子
↓
(ルートC:3日目 AM12:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
気付いた時には、そこにあった。
嘘偽りも誇張もなく、本当に、誰もが気付かぬ間に。
玄関の扉に画鋲で以って、無造作に掲示されていた。
果たし状、である。
シンプル極まる文面で、墨汁によって記されたそれには、
ザドゥ、カモミール芹沢、御陵透子の連名と血判が為されていた。
「言っとくが俺様はちゃんと見張ってたからな」
紗霧のケツバットを恐れてか、ランスが主張する。
野武彦とまひるが薬品調達に出発してから今に至るまで、
彼は小屋の外で、周囲の警戒にあたっていた。
玄関周辺で。
時に暇すぎてあくびをしたり、ユリーシャの尻を撫でたりもしたが、
彼には研ぎ澄まされた野性の嗅覚がある。
接近する人間を見過ごす程、耄碌はしておらぬ。
「て、ゆーことは、ですよ?」
まひるが何かに心当たったのか、言葉を紡いだ。
彼のみでは無かった。
誰もが、この怪異を為すことのできる人物を思い浮かべていた。
その名を、書面に認めていた。
御陵透子。
音も無く忍び寄り、明確な気配を感じさせず、
告げたいことだけを告げ質問を受け付けぬ女。
しかし、今の彼女から、神秘の仮面は引き剥がされている。
為せる超常がテレポートだけだと、ネタが割れている。
レプリカ智機から奪ったUSBメモリ。
そこに、主催者の近況がメモ書きで記されていたのである。
―――素敵医師とケイブリス、死亡
―――ザドゥとカモミール芹沢、重度の火傷
―――御陵透子、能力制限でテレポートしか使えず
―――オリジナル椎名智機は、臆病者
―――四人全員が、灯台地下のシェルターにいる
―――レプリカ智機、残り六機(野武彦とまひるが壊したので、全滅)
これまで、虚実入り混ざった情報戦を繰り広げてきた相手である。
紗霧は、記されている内容を鵜呑みにはしなかったが、
実際にこのデータを奪ってきた野武彦にとっては、そうでもないらしい。
顎に蓄えている髭を撫でて、思慮深げに呟いた。
「果たし状に素敵医師と椎名智機の名が無い。
ということは、この情報は信用に足るんではないのかのぅ?」
「可能性は高まりましたね。鵜呑みにはできませんが」
紗霧は野武彦に一定の理解を示しつつも、一方で短慮を諌めた。
実に虚を混ぜ込むことこそ、騙しの極意。
九割の実に一割の虚。
その、密やかに差し込まれた虚を見破ることが肝要と紗霧は考えている。
それは、深読みである。
なぜならば。紗霧は知らぬことなれど。
レプリカ達は、プレイヤー側のサポーターであった故に。
主催者を鏖殺させてのゲーム終了を目論んでいた故に。
記された情報は、100%の真実である。
強いて情報の虚を上げるのならば。
透子の能力から【N−21の体に疑問を持たせない】ことが漏れているが、
それはレプリカにとって与り知らぬことであり。
また、紗霧ら小屋組にとっても些事である。
情報の価値を何ら損ずるところは無い。
「まあ、データが本当かどうかは置いといてさ。
この三人をやっつければ、ゲームって終わるのかな?」
この果し合いにおける最も重要な点をまひるが指摘した。
紗霧と野武彦が頷き合い、資料の真贋問題を棚に上げる。
その直後であった。
―――かしゃん。
背後から。食卓から。
突如、聞きなれぬ音がしたのである。
「あれ? あんな戦利品あったか?」
「いいや、わしは知らん。紗霧殿が出したのでなければ……」
音とは、トレイに差し込んであった用紙がプリンタに供給された音であった。
インクジェット式の、家庭用プリンタであった。
既に電源が入っており、ウォームアップも終わっていた。
先ほどまで紗霧らが覗き込んでいたノートPCに繋いであった。
つい数秒前まで、この小屋には存在しなかったプリンタであった。
「御陵透子というのは、案外おちゃめなんですかね?」
否。茶目っ気に非ず。透子は不精なだけである。
口頭で質疑応答を受け付け、沢山喋るのが面倒臭い故の手抜きとして、
印刷で済ませているだけなのである。
じゃわじゃわと、A4のコピー用紙はプリンタに飲み込まれてゆく。
しゅんしゅんと、紙面にインクが吹き付けられていく。
印刷されたのは、今、皆が口々に発していた疑問への回答であった。
『−回答−』
『貴方達が智機の分機から奪った情報は、信用してもいい。
素敵医師は、死んだ。ケイブリスは、貴方達に殺された。
だから残存主催者は、私たち三名に椎名智機の、計四名』
『この果たし合いは主催者と参加者との最終決戦などではない。
ゲームの運営とは関係ない。
警告を無視して団結し、本拠地に侵入し、あまつさえケイブリスすら倒して
私たちの管理をしっちゃかめっちゃかにした貴方達が気に入らない。
そう感じた私たち三人が、貴方達に対して叩きつけた私的な書状に過ぎない。
貴方達以外の参加者には届けていない。
参加者の一グループ、対、主催者の有志という構図』
『その有志に、椎名智機は入らなかった。戦うのが怖いと引きこもった。
だから、貴方達も全員揃わなくてもいい。
有無を言わさずにこんなゲームに引っ張り込んだ私たちが許せない人、
主催の全滅でのゲームクリアへの近道だと考える人、
単に戦いたい人だけが、果し合いに参加すればいい。
誰が来てもいい。 何人来てもいい。
来た全員を私たち三人で相手する。
これは、そういう戦い』
『だから、万一、貴方達が完全勝利したとしても、
残る椎名智機を破壊しなくては、ゲーム自体はクリアにならない』
印刷されたものは回答のみでは無かった。
無駄を極限まで削ぎ落とした果たし状に対する補足説明も、
そこには追記されていた。
『−補足−』
『果し合いを受ける気概があるならば、以下四条を遵守してもらう』
『ルール1――― ルール適用の期間は、果し合いの終了時点までとする』
『ルール2――― ルールは、果し合いに参加しないメンバーにも適用される』
『ルール3――― 期間中、互いに敵対的行動を取らないこととする』
『ルール4――― 現場への仕込みは不可とする』
まずは紗霧が。
次いでランスと野武彦とまひるが競い合うように。
最後にユリーシャが印刷物に目を通した。
通し終えた。
その、頃合を見計らって。
御陵透子は、姿を現した。
「受ける?」
「つっぱねる?」
誰もが彼女を意識し、誰もがいずれ現れるであろうと予感していた。
故に衝撃は走れども混乱は発生しなかった。
透子の姿が、智機の姿に変わってしまったこともまた、彼らを心乱さなかった。
その違いを認識しながらも、その違いは当たり前のこととして受け入れられた。
「参加メンバーは今この場で伝えなくてよいのですよね?」
「いえす」
「いいでしょう。受けて立ちましょう」
月夜御名紗霧は首肯した。透子を一瞥するなり決定した。
仲間たちの意見を伺うことなく、即座に勝手に返答した。
「でぇええ!?」
「即断とな……」
野武彦とまひるの驚愕に含まれる、若干の非難の色が、紗霧に対して訴えていた。
考える時間が、相談する時間が、落ち着く時間が、必要なのだと。
それを、ランスがばっさりと却下した。
「いい機会じゃないか?
ここらですぱっと決着をつけるのは、アリだぞ」
戦いを日常とする、血に飢えた戦士にとって、
決闘・果し合いなどは茶飯事でしかないのか。
それとも単にくそ度胸の持ち主なのか。
ランスは広場まひると魔窟堂野武彦の如く驚愕することも惑うこともなく、
紗霧の決定をあっさりと肯定した。
紗霧はすかさずユリーシャに確認を取る。
「と、ランスも言ってますが、ユリーシャさんはどう思います?」
「ランス様が、そうおっしゃるなら」
そう問えば、そう答える。紗霧は判っていて言質を取った。
言質を取って数的有利を確保した。
否。
確保の上で、誰も言い出していない多数決に帰結させたのである。
「はい、三対二。多数決でおっけーです」
紗霧の暴挙は、勝算あってのことではない。
一日半。
この、不戦が約された時間の確保こそを重要視した故にである。
「でも恭也さんは……」
「おばかさんたちは黙って私の言うことを聞きなさい」
紗霧はまひるの心配を遮って、ぴしゃりと諌めた。
片頬に浮かんでいるのは、まひるを馬鹿にするかの如き、冷ややかな笑み。
「……りょーかい」
まひるはそれ以上食い下がらずに同意する。
野武彦も黙して頷いた。
紗霧のその笑みの裏に、何らかの思惑があるのだと勘付いた故に。
それだけで二人は納得して了承した。
ケイブリス狩りでの鮮やかな勝利の記憶が、
彼らの胸中での軍師の地位を不動のものとしていた故に。
「全員合意」
「果し合いの受諾を確認」
「じゃ」
透子は消えた。音も無く、名残も無く。
契約を交わして、果たし状とプリンタを残して。
沈黙、暫し。
最初に口を開いたのは、月夜御名紗霧。
やはりこの女であった。
この女の言葉を、四者は待っていた。
「さて、一日半の猶予が得られた訳ですが……
この期間内で、私たちがすべきこと決めましょう」
紗霧はまず、仲間たちに意見を求めた。
仲間たちが少しは使える頭を持っているのか、
底意地悪く見定めようとしているのである。
紗霧は女教師の如くまひるを指差し、返答を促す。
「えとー、そのー、寝不足はお肌の敵だし、体休めとく…… とか?」
指差されたことにあたふたしつつ、自信なさげに答えるまひる。
紗霧はうんともすんとも言わずに、指さす先を野武彦に移した。
「ここは知佳殿やアイン殿を探すの一手じゃな。
プリントに書いてあるじゃろ?
貴方たち以外の参加者に果たし状は届けていない、と。
それは即ち、まだ生きておる者がおるということ。
その保護に全力を尽くすんじゃ!」
野武彦の鼻息荒き主張が終わるや否や。
紗霧の指差しを待つことなく、心底あきれた口調で、
ランスが己の考えを吐き捨てた。
「バカかお前ら」
確かにランスは切った張ったも好むが。
面倒ごとは大嫌いでもあった。
ズボラなのである。
裏技ですぱっとカタが付くならそれに越したことはないと思っている。
楽をして美味しいとこ取りしたいと、常に考えている。
「そんなもん、主催者どもの隠れ家に乗り込んで、
ズバッとぶった切って終わりじゃないか」
故にランスは、果し合いのルール3を破っての奇襲を主張するのである。
紗霧はユリーシャを一瞥し、頷く彼女を確認した。
それは、ランスに倣うと、着いて行くと、常の彼女の解答であった。
「ランス、正解」
出揃った解答に、紗霧は合格者を発表した。
まひると野武彦はすかさず異議を唱えた。
「や、でも約束したでしょ?」
「それは道を外れることになりゃせんか?」
それは人としての信義の問題であった。
心根や育ちの問題であった。
それを、紗霧は嫌悪感を隠さずに、唾棄して捨てた。
「約束だの人の道だのなんだの……
あなたたちは少年漫画の読みすぎで脳がスポンジ化でもしてるんですか?
だから日本は外交下手なんて国際評価がなされるんです。
約束なんて破るためにあるんです。
守っていい約束なんてこっちに利のある約束だけです。
そもそも、破らせたくない約束なら破れない拘束力を掛けておくべきなのです。
それをしなかったのは奴等の落ち度で、そこ突くのは闘争の大原則でしょう?
勝たなきゃならない戦いは、どんな手を使っても勝つ。
そんなことも言わなきゃ判らないんですか、どうですか?」
そう、底意地の悪い濃い影の笑みを浮かべたのと同時であった。
紗霧の側頭部に冷たい筒先が押し当てられたのは。
「ばん」
無表情に発砲音を口真似る御陵透子が右手に握るはグロック17。
紗霧は笑んだまま硬直。
こめかみに細波の如き痙攣が走る。
「拘束力」
透子は銃を握る反対の手で自分を指差し、そう言った。
それはつまり、宣告であった。
ルール違反のペナルティは命であると、伝えたのである。
今の透子は、ただの監察官ではない。
警告を発するだけで立ち去るメッセンジャーではない。
首輪を渡すだけで帰ってゆく宅配人ではない。
死刑執行人でもあるのだと、行動で示していた。
紗霧の全身は粟立っている。
全ての毛穴から汗が吹き出ている。
枯れた口腔に唾液は分泌されず、
唇はチアノーゼを起こしている。
そんな軍師の絶対死地を眼前に、誰も動かない。
否。動けない。
グロックの銃口もまた紗霧のこめかみを捕らえて離さない故に。
ワンアクション、即、紗霧の死。
全ては透子の胸ひとつ。
状況は、一呼吸の間に、そこまで切羽詰っていた。
「勝負は」
「せいせいどうどうと」
そうして、十秒ほど。
紗霧が過呼吸に陥る一歩手前で、透子は消えた。
今回の行動は、デモンストレーションであった。
こうなる、の具体例を示した、警告であった。
ルールを守らせるための強制力は存在していた。
(どうやって今の会話を聞きつけたのですか?
首輪が無いのに盗聴……?
それ以外のなんらかの監視手段を講じている?
元々小屋に監視カメラでも仕込まれていた?
それともジジイの拾ってきたノーパソに仕込みが?)
卓上からかしゃりと音がした。
音の発生源は透子が置いていったプリンタであった。
プリンタは3枚目の印刷物を吐き出してゆく。
それは、紗霧の問いに関する回答であった。
紗霧が口に出していない。
ただ、心に抱いただけの。
誰も知らないはずの疑問に対する回答であった。
『−回答−』
『なぜ、私が監察官という職に就いていると思う?
それは、私に力があるから。
あなたたちの過去を、現在を、未来を。
あなたたちの行動を、考えを、思いを。
全てを。どこにいても。
見通す力があるから、就いている』
底冷えのする沈黙が、紗霧たちを包んだ。
瞬間移動。
それだけであると、誰もが思っていた。
レプリカの遺した情報に嘘は無い。
透子のそれは、能力ではなく生態である故に。
『世界の読み替え』によるものではなき故に。
「……アレと戦えと?」
震える膝を柔い頬に押し付けて、体育座りのまひるがぼそりと呟いた。
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、果し合いに臨む】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【ユリ―シャ(元01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨数本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【魔窟堂野武彦(元12)】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×4、簡易通信機・小、
軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【月夜御名紗霧(元36)with ナース服】
【スタンス:状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、対人レーダー、ナース服(装備中)】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】
【広場まひる(元38) with 体操服】
【所持品:せんべい袋(残 17/45)】
【小屋の保管品】
[武器]
指輪型爆弾×2、レーザーガン、アイスピック、小太刀、鋼糸、斧×3、鉈
グロック17(残弾16)×2
[機械]
解除装置、簡易通信機・大、分機解放スイッチ、プリンタ
モバイルPC、USBメモリ、簡易通信機素材(インカム等)一式×3
カスタムジンジャー×2
[道具]
工具、竹篭、スコップ、シャベル、メス、白チョーク1箱、文房具、
謎のペン×15、メイド服、生活用品、薬品・簡易医療器具、手錠×2
[食品]
小麦粉、香辛料、干し肉、保存食、備蓄食料
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → ?】
【監察官:御陵透子(N−21)】
【スタンス: 願望成就の為、ルドラサウムを楽しませる
@果たし合いの円満開催の為、参加者にルールを守らせる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
グロック17(残 17)】
【能力:記録/記憶を読む、
世界の読み替え:自身の転移、自身を【透子】だと認識させる(弱)】
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(いかんなー、いかん。 紗霧ちゃんもジジイたちも怯え過ぎだぞ)
ひとり小屋を出たランスが、井戸水を汲んでいた。
乾いた喉を潤しに、小屋から出たことになっていた。
しかし、真意は違った。
恐怖に凝り固まってしまった仲間たちの空気が、己に伝染せぬよう
一旦場を離れて冷静になろうと、考えたのである。
(テレポートと読心。それだけじゃないか。
体は智機ちゃんのものみたいだし、武器も銃だけ。
固体としてはよわよわだぞ、アレは)
頭を冷やしたランスの読みは正しい。
小屋組の面々は知らぬことではあれど、昨晩の仁村千佳との戦いで、
透子の弱点は露呈しているし、本人とてそれを自覚している。
(例えば…… まひるかジジイを犠牲にして、
『処刑執行』しようとした瞬間に斬りかかれば―――)
犠牲といっても、確実に殺されるとは限らない。
ランスが思い浮かべる二人は、それぞれ超野性と超速度を備えている。
透子の出現に気を張っていれば、銃撃の回避すら可能かも知れぬ。
(よし、灯台に行こう! まひるとジジイを引きずって)
井戸桶より柄杓を一掬い。
縁に口を寄せ、ごくりと一口。
喉が鳴るのと同時に。
「おいしい?」
「毒入りの水」
再びの、透子であった。
衝撃的な言葉に、ランスはぶうっと吐き出し、がはげへと咽る。
「これは、じょーく」
「でも」
「次がじょーくとは」
「限らない」
冗句などではない、明確な警告を残して。
透子は今度こそ掻き消えた。
(警告じゃなけりゃ、死んでたな……)
背筋を駆け上る悪寒と共に、ランスは理解した。
処刑の手段は、銃殺だけではないことに。
いくら集団で行動していたとしても、
一人になる瞬間は、どこかで発生するということに。
ふと物思いに沈んだり、気を抜いたりする瞬間が、
誰にでもあるということに。
それは今のランス、そのものであったことに。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています