バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第8部
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常に【sage】進行でお願いします
※ルート分岐のお知らせ
前スレ>>238「生きてこそ」以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
経緯につきましては、新・総合検討会議スレの886以降をご参照ください。
【タイトル:SPI-03:『木星のブルマー』〜初めにブルマーありき〜】
(ルートC:3日目 PM02:30 D−6 西の森外れ・小屋3)
この世に、有り得ないは有り得ない。
―――初めにブルマーありき
神がブルマーを元に天地創造した。
そんなけったいな世界が、確かにあった。
亡き常葉愛の出身世界の話である。
―――ブルマーは神と共にありき
―――ブルマーは神であった
月夜御名紗霧がUSBから発掘したアイテム管理ファイル。
その「木星のブルマー」の項は、天地創造の壮大な一節から始まっていた。
紗霧は目をこすり、再び読みかえす。
―――初めにブルマーありき
―――ブルマーは神と共にありき
―――ブルマーは神であった
「ええ、と……」
何度読み返しても、文面に変化は無かった。
「ユリーシャさん。ちょっとここの文章、音読していただけます?」
「初めにブルマー……」
「了解です。おっけーです。飲み込みましょう」
そこまでして、紗霧はようやく己の目に狂いが無かったことを認めた。
―――地球にブルマーをもたらしたブルマー星人
―――地球を包むブルマニウム粒子
「ユリーシャさん。ちょっとここの文章、音読していただけます?」
「地球にブルマー……」
「了解です。おっけーです。次行きましょう」
―――地球全土のブルマー化を目論む悪の集団「BB団 ビッグブルマー団」。
―――世界のブルマーバランスを監視する国際機構「MIB ブルマーの男たち」。
―――この影の二大組織が血眼で奪い合う「神のブルマー」。
「ユリーシャさん。ちょっとここの……」
「紗霧殿、戦うのじゃ、現実と」
―――「神のブルマー」とは古代の超兵器である。
―――存在が確認されているのは二着のみ。
―――「常葉愛」が装着する「月のブルマー」。
―――BB団のブルロイド「B」が装着する「木星のブルマー」。
「諦めがついたら、なんだか楽しくすらなって来ましたね」
「いい按配に頭が茹だった、なんとも胸躍る設定じゃな!」
「そうですか……? 恥を知らない世界だと思います」
それから10キロバイト少々。
木星のブルマーに関する、無駄に壮大な一通りの資料を読み終えた紗霧は、
目眩めく偏執的なくだらなさに心底辟易し、深い溜息をついた。
しかし、半信半疑ながらも、その秘めたる強大な力は、理解できた。
木星のブルマー。
それは、世界を滅ぼす破壊の力にもなり。
それは、世界を慈愛で満たす力にもなり。
神の隣に座る資格すら得ることができる。
この記載にもまた、偽りが無い。
古代に栄えた二大大陸文明を滅ぼしたブルマー裾入れ派と裾出し派の戦い―――
エンシェント・ブルマゲドン。
その始まりを担ったのが神のブルマーならば、
その終わりを担ったのも神のブルマーであった故に。
無論、参加者・常葉愛が装着していた「月のブルマー」の如く、
或いはアズライトやイズ・ホゥトリャの如く、
このアイテムもまた、金卵神によって何らかの制限は課されているであろう。
それでも、チートといえば、この上なきチートアイテムである。
と、そこまでは良かった。
問題は、テキストの最後に記されていた「適格者」の項目であった。
「……」
「……」
黙して瞳を交わす、紗霧とユリーシャに、
わざとらしい咳払いをしつつ、狼狽を隠せぬ野武彦。
「ううむ…… おほん、ごっほん」
全く残念なことながら。
神代より伝わる超兵器の神秘に触れる資格を、紗霧は有していなかった。
隣に座るユリーシャにしても、同様である。
だが、この居心地の悪い空気は、落胆による物では無い。
羞恥によるものであった。
―――純潔であること。
そうして、生存者を俯瞰してみれば。
仁村知佳とて、思いを寄せる異性と望まぬ契りを交わしているし、
童女しおりに至っては、生存者の誰よりも性経験が豊富であった。
又、主催者サイドに目を移しても。
カモミール芹沢は多情で鳴らした徒女(アダージョ)であるし、
椎名智機もレイプに近い強引な手管で処女を散らされている。
透子は【御陵透子】であった頃の肉体は全き乙女ではあったものの、
仮衣である椎名智機のレプリカは純潔を失った後の智機を基盤に作られている。
誰も彼も揃って非資格者であった。
「どうしたもんですかね……?」
「あの…… 恭也どのなんて、どうじゃろか?」
純潔とは、処女のみとは限らぬ。
童貞もまた一つの純潔であると、野武彦は考えたのである。
残念ながら恭也もまた、知佳を相手に資格を失っているのであるが、
そのことを知る者はここにいなかったし、
彼の言動のそこかしこに見られる初心さやお堅さから、
きっとそうなのであろうと、皆がなんとなく察していたのであった。
とは言え。
「想像させないでください、この倒錯ジジイ!」
「それを提案してしまうあなたの心根を軽蔑します」
言葉に誘発されて想像してしまった絵面の洒落にならなさに対して、
乙女たちは立腹し、野武彦を鋭く責めた。責め抜いた。
そうして数分。
冷や汗で下着が絞れるほどに塗れている野武彦の窮地を救ったのは、
ここのところ気の合うそぶりを見せ始めた、相方であった。
「あったよー!」
煤と灰に塗れた真っ白で真っ黒な顔ににっこりと笑顔を浮かべ、
その手に、サイドラインの入った小さな濃紺のブルマを握って。
もとい。
ビニール袋の中に入れて。
広場まひるの帰還である。
シークレットポイント、03。
東の森の木の一本に、小鳥の巣箱に偽装してあったそこは、
昨晩の火災で、消し炭になってしまっていた。
通常のアイテムであれば、巣箱と同じく燃え尽きていたであろう。
しかし、そこにあったのは神の手になるオーパーツ。
業火を物ともせず、焦げ付き一つつく事は無く。
輝きすら放ち、まひるの到着を待っていたのであった。
「「「居た!!」」」
まひるの華奢な体操着姿と、袋詰めの超兵器を見て、野武彦たちの心が一つになった。
「お? お? 声が揃っちゃうほどあたしの顔が見たかった?」
勘違いしたまひるが、笑顔全開でてとてとと野武彦に駆け寄る。
その脇から、ぬうと黒い影が手を伸ばした。
月夜御名紗霧である。
「とりあえずジジイは外に出てなさい。ここからは乙女会議です」
「うむ、心得た。後は任せたぞい、軍師殿。
というより、まひるちんが帰ってきたのじゃから、
わしは『神語の書』捜索に向かおうと思うのじゃが?」
「了承です。かのアイテムは最重要アイテム。
是非入手して頂きたい…… ところですが。
何分、崩落後の危険地帯です。
貴方の身の危険を押してまでの調査は不要です。
五体無事で帰ってきなさい、魔窟堂野武彦」
その判断は、野武彦を戦術の駒と見ての発言である。
理の天秤の軽重であり、決して優しさのみから出たものでは無い。
それでも。
その何%かの成分は、確かに紗霧なりの同胞意識から成っていた。
「その命、しかと受けたのじゃ!」
野武彦は奮い立つ。
紗霧に対する篠原秋穂殺害の疑いは、未だ頭の片隅にはある。
しかし、今は。
それよりも、圧倒的比重で。
紗霧への軍師としての信頼感と仲間意識が、勝っている。
「じっちゃん、気をつけてね!」
「いってらっしゃいませ」
「合点じゃ!」
野武彦は人差し指と中指を立てた左手を横に寝かせるとこめかみに当て、
ウインクを決めるや、ビッとその手を突き出した。
それは多分なにかのヒーローの決めポーズなのであろうが、
残念なことにまひる達にその意図は伝わらなかった。
「世代の違い、かの……」
寂しそうに背中を丸めて、野武彦が小屋を後にする。
カスタムジンジャーの軽快なモーター音が遠ざかっていった。
その音が完全に聞こえなくなったことを確認し、
隣室で眠る高町恭也の寝息を確認した上で、
紗霧は、猫撫で声で、まひるに話しかけた。
「さて…… 広場まひる」
「はひ?」
「あなたは、自分が女性であると主張していますね」
「残念ながら世間の風当たりは強いですが」
「世界があなたを否定しても、私は貴女を認めますよ。
あなたは女の子。貴方ではなく貴女。まちがいない」
「広場さんは女の子。だれより素敵な可愛い子」
紗霧の優しい囁きを、ユリーシャが補強する。
腹にイチモツ抱える者同士、意外と息の合うところを見せている。
しかし、腹芸に鈍感なまひるは、彼女らの含みに気付くことなく、
素直に嬉しくなって、調子に乗った。
「でへへぇ…… やっぱり? そう思っちゃいます?
やだなーもー、いくらホントのこととは言え、照れちゃうなー」
「で、純潔ですか?」
「ぶうううっ!?」
紗霧の問いは突然跳ねた。
予想もしない方向に、恥ずかしくてならぬ内容に。
まひるは顔を真っ赤にして抗議する。
「不埒、不埒、極めて不埒っ!!
そーゆーデリケートな問題を尋ねるときは、オブラートに包むってゆーか……
てゆーか、そもそも何でそんなこと聞かれなくちゃいけないのさ!」
「理由はあります。ユリーシャさん、適格者の部分を」
「はい」
ユリーシャはモバイルPCの液晶画面をスクロールさせた。
そこには、木星のブルマーの兵器性能と適格者の条件が表示されていた。
―――ブルマー衝撃波
―――ブルマーミラージュ
―――ブルブレイド
―――ブルマーの輝き
「これなんていい意味で酷いですよ、大陸弾道ブルマー。
NK民主主義人民共和国世襲元首がテポドンミサイルを発射する!」
「なにそれ、ふざけてるの!?」
「それは履かなきゃわからない」
その後も、まひる、黙読することしばし。
読み終わると同時に、諦めたような溜息をついた。
「わかりましたか、大事なことなんです。
答えなさい。あなたのエッチ経験を赤裸々に」
「う…… わかるけど、わかるけどさあ!
だったら紗霧さんとユリーシャさんも言ってよ
あたし一人だけ告白なんて、そんなの恥ずかし過ぎ!」
「私が適格者だったら、いちいちあなたに聞きません」
「ランス様に…… 可愛がって頂いております……」
キレ気味に言い捨てる紗霧。
夢見る瞳で語るユリーシャ。
共に即断。
「ま、まあ…… ピュアであることに、誇りと劣等感をもってるけどさ……」
その勢いに、結局は正直に答えてしまうまひるであった。
「なら決定です。履きなさい」
「……そーくるよね、やっぱり」
可愛くぐずりながらも、まひるは装着に同意した。
どの道体操着。
レギンスからブルマーに履き替えること自体に、さほど抵抗感はなかった。
「履き替えたけど?」
「では、ブルーミングしてみましょう」
「ブルーミング?」
ユリーシャは黙って液晶画面の該当項目をスクロールさせる。
―――ブルーミングとは。
―――装着者の性的興奮を基準とする発汗や発熱、愛液によって、
―――ブルマの内部のムレムレ度を高めることである。
「……」
「……」
「……オカズが必要でしたら、パンチラまでなら協力しますよ?」
「やっぱりオトコのコって思ってんじゃん!!!」
↓
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、果し合いに臨む】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【ユリ―シャ(元01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】
【月夜御名紗霧(元36) with ナース服】
【スタンス:状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:グロック17(残弾 16)、金属バット、ボウガン、対人レーダー、指輪型爆弾】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷、性行為嫌悪】
【広場まひる(元38) with 体操服 & 木星のブルマー】
【所持品:グロック17(残弾 16)、せんべい袋(残 13/45)】
※木星のブルマーは、まひるが適格かもしれません。
※適格ならばレベル1のブルマー技が使用できる筈ですが、
※ムレムレ度を上げることが至難です。
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → C−4 隠し部屋】
【魔窟堂野武彦(元12)】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×2、簡易通信機・小、
軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング
カスタムジンジャー(←共有物)、斧(←共有物)】
【西の小屋内・グループ所持品】
[日用品]
スコップ・小、スコップ・大、工具、竹篭、救急セット、薬品・簡易医療器具
白チョーク1箱、文房具、生活用品、指輪型爆弾
[武器]
小太刀、鋼糸、アイスピック、斧×2、鉈×1、レーザーガン、メス
[機器]
モバイルPC、USBメモリ、プリンタ、分機解放スイッチ、解除装置、
簡易通信機・小、簡易通信機・大、簡易通信機素材(インカム等)一式×5、
カスタムジンジャー×2
[食料]
小麦粉、香辛料、干し肉、保存食
[その他]
手錠×2、メイド服、SPの鍵×4、謎のペン×15
【タイトル:SPI-04:『神語の書』〜あなたの知らない世界〜】
(ルートC:3日目 PM04:00 C−4 山中)
「思ったより大規模に崩れておるの…… くわばらくわばら」
ジンジャーを竜神社に乗り捨てて一時間余り。
魔窟堂野武彦は、敵の本拠地跡を発見した。
座標C−4。
島北西部に位置する山岳地帯。
地下に掘りぬかれていた基地は発破により支柱が破壊された為に崩落し、
山肌を巻き込んでクレーターの如く陥没していた。
底は見えず、砂埃は未だ治まっていない。
「なんとしても手に入れたい紙片なのじゃがなあ……
やはりこの崩落に巻き込まれてしもうたかのぅ」
スペシャルアイテム04『神語の書(一枚)』。
03『木星のブルマー』と同じく、USBメモリから読み取ったその効能とは。
―――世界を書き込んだ内容に改変する
御陵透子の【世界の読み替え】に等しいものであった。
否。記入者の任意に改変できるのであるから、それ以上であると言える。
その凄まじき効力ゆえに、たった一枚しか用意できないのであろう。
さて、そのアイテムの現在位置であるが。
野武彦の悪い予想を裏切らず、地盤崩落で地中深くに没していた。
ケイブリスでもいれば掘り起こしも出来ようが、
今の小屋組の力で、小屋組の装備で、それを入手することは、
残念ながら不可能であった。
「残念じゃが、単独では如何ともしがたいのぅ」
足場は不安定。
下に降りるルートも皆無。
その上、いつ二次崩落が発生してもおかしくないきな臭さを漂わせていた。
故に、野武彦はクレーターを降りることを諦めた。
しかし、神語の書の捜索を諦めたのかというと、そうではない。
日没までには、まだ一時間以上の時間がある。
C−4地区の捜索は始まったばかりである。
野武彦は更に山を歩く。
注意深く周囲の岩や地面に目を凝らして、人工物を探しながら。
ごろごろと礫岩が無造作に転がる斜面を、禿げ山を、登る。
「あれは……」
足早に傾斜を登った野武彦がたどり着いたのは、
岩肌をドーム状に開いた、オープンルームであった。
テラスの中央には、巨大な投擲機が鎮座していた。
主催者基地・カタパルト投擲施設である。
この施設のみが崩落を免れたのは、偶然ではない。
二つの理由によって、守られていた。
カタパルトそのものの重量や投擲にかかる運動エネルギーの負荷を考慮して、
足元に空洞が無く、地盤が強固で、基地から距離をやや隔てた位置に
この施設が配置されていたという、設計事情が理由の一つ。
もう一つの理由は、発破の実行犯・レプリカ智機P−22が、
カタパルト投擲にての脱出を安全に成すために、
この施設に影響を与えないよう計算し、爆弾・爆薬を設置したことである。
「シークレットポイントでは、なさそうじゃが……」
呟きとともに、野武彦は室内を調査する。
中心施設であるカタパルトは、磨耗により破損していた。
コンソールも無通電により電源が入らなかった。
その他機器もコンソールに同様であった。
ただ一台。
バッテリー残量があったことが幸いし、ノートPCのみが起動した。
「ふむ、収穫はこれだけかの」
その端末は、代行N−22が拠点崩落の直前まで使用していた端末であった。
管制室の情報集積サーバのミラーリング機であった。
野武彦に奪わせたUSBメモリのデータは、
この中のデータを厳選し、コピーをとったものであった。
つまりは。
N−22の選別から漏れたデータが、そこには眠っている。
N−22が選択的に除いたデータも、そこには眠っている。
その眠れるマシンを。
野武彦は、起こしてしまったのである。
野武彦の知らぬ智機世界のOSが、二十秒ほどで立ち上がる。
デスクトップには、幾つかのモニタリング情報へのショートカットが
整然と並べられていた。
その中に、一際目を引くフォルダがあった。
【死亡者情報】
ドクン。
その五文字を目にした瞬間、野武彦の心臓が跳ねた。
ドクン。
野武彦の額に、脂汗が流れる。
ドクン。
まるで酸欠の金魚の如く、口をせわしなく開閉している。
ドクン。
ちりり、ちりりと。
野武彦のこめかみが、鳴っている。
(知佳殿やアイン殿は生きているのか?)
それを、知ることができる。
それは、大きな収穫である。
だが、ここで得られる情報は。
得てしまう情報は。
決して、それだけに止まらぬ。
(ボウガンの出所は? 秋穂殿を殺したのは?)
野武彦の胸中の奥底に、ずっと眠らせていた思いが、
棚上げしていた疑念が、鎌首をもたげた。にゅるり。
(ここで、軍師殿が秋穂殿を殺しておらぬことを確認できれば。
わしの憂いは全て無くなる。
心底軍師殿を信じ、迷うことなくその指示に命を賭けられる)
月夜御名紗霧の作戦立案・指揮能力は、
巨凶ケイブリスを相手に完璧に証明された。
故に、小屋組はモチベーションが上がっている。
仲間意識が高まっている。
(……そうでなければ?)
恭也の疲弊。透子の監視。
決して順風満帆とは言えぬ現状ではある。
それでも、希望は胸にある。
団結力を以って難局にあたる覚悟がある。
(軍師殿が秋穂殿を殺したことが確認できてしまったら?
その時、わしはどうなる?
迷い無く軍師殿について行けるのか?)
その中心に、間違いなく紗霧がいる。
大小差異はあれど、誰もが紗霧の才に頼っている。
果たして、彼女に信を置けなくなったとき、
小屋組は連合としての形を保てるのか?
(ならば、知らぬままでよい。ままがよい。
疑念は奥底に沈めたまま、ただ眼前の戦いを戦えばよい。
これまでだってそうしてきたのじゃ。
これからも……)
これからもそうするだけ。
野武彦はそう己に言い聞かせようとした。
(これからも……)
しかし、出来なかった。
既に、禁断の果実に触れてしまった故に。
知ることができることを、知ってしまったが故に。
(……)
野武彦は硬直する人差し指をゆっくりと伸ばし。
タッチパッドで矢印ポインタを動かしてゆく。
己の吐く息で白く曇った瓶底眼鏡。
その奥にある瞳の色は、窺い知れぬ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「おおっ…… おおっ……」
魔窟堂野武彦が、慟哭していた。
あまりにも深い絶望に捕われて。
『若い命を無駄に散らせぬ為に、我ら老骨がこの身を擲とう』
あの夜の森での誓いを、野武彦は思い出す。
その神聖で熱い男の誓いが、汚されたように感じられていた。
【死亡者情報】
【プレイヤー動向】
これら管理資料の最終更新時間は、昨晩20時15分。
管制室の発破に伴うサーバ破壊の少し前の時間であった。
それでも、彼が欲していた情報の凡そは網羅されていた。
朽木双葉とアインが、既に死亡していること。
仁村知佳としおりが、未だ存命であろうこと。
保護対象と思われていたしおりは、ゲームに乗り、
一人と一機を殺害/破壊していたこと。
有用な情報は、それだけであった。
不要な情報は、他の全てであった。
月夜御名紗霧――― やはり、であった。
紗霧は二人殺していた。
しかし、野武彦の疑念とは関係のない殺人であった。
予想の埒外にある、予想をはるかに上回る殺人であった。
野武彦は北条まりなに聞いていたのである。
彼女の最初の同行者・木ノ下泰男が如何にして絶命したのかを。
村落の雑貨屋に仕掛けられた罠は、
明らかに無差別に命を狙った罠であったのだと。
そしてまた、首輪は罠師であった頃の紗霧の呟きを、何度か捉えていた。
その音声情報もまた、野武彦は耳にしたのである。
言葉少なに、しかし楽しげに。
紗霧は罠に掛かった哀れな獲物をこき下ろしていたのである。
ユリーシャ――― まさか、であった。
ユリーシャは仲間を手酷く裏切っていた。
アリスメンディと篠原秋穂を殺していた。
恐らくは嫉妬心と独占欲の為に。
相手の油断を突き、確固たる殺意を持って、手を下していた。
ランスに気取られぬよう、嘘に嘘を重ねて、隠蔽していた。
それをおくびにも出さずに、か弱い風を装って。
清楚な顔をして、優雅な物腰で。
彼女は、今もなお、ランスの脇に侍っている。
その擬態、あるいは本性。
なんと悍ましく、恐ろしいことであろうか!
ランス――― これほど、であった。
血の気が多く、唯我独尊な性格をしていることは分かっていた。
彼と合流したばかりの頃の恭也との遣り取りで、
人のひとりやふたりは殺しているであろうと予想はしていた。
それは事実であった。
ランスは2人のグレンを殺していた。
姓無きグレンは、仕方ない。
知佳を愛娘と勘違いして飼い殺そうとした狂人である。
その一刀両断っぷりはさて置き、応戦するのは理解できる。
だが…… もう一人のグレン。
コリンズ姓を持つ異形。
ゲームに乗るを良しとせず、島からの脱出を図っていた男。
この男を殺した事実を、野武彦は許せなかった。
対立の末、殺したのなら、しかたない。
誤解の末、殺したのなら、諦めもつく。
そうではなかった。
単に邪魔だから殺していた。
紗霧のみならず、ランス、ユリーシャもまた外道。
世界の悪意害意を、野武彦は一身に浴びてしまった。
それはまさに、パンドラの箱。
故に。伝承をなぞるかの如く。
箱の底に残る希望もまた、在った。
「だが、わしには、恭也殿がいる!」
恭也は見事に、男であった。日本男児であった。
ワープ番長との速度勝負に敗れ、一度は情けない姿を晒しもすれど。
彼の戦いは全て、他者を守るための戦いであった。
ただの一度とて、ゲームに乗ったことなどなかった。
野武彦が目を通した全ての管理資料が、それを裏付けていた。
「そう、ああいう益荒男は死んではならぬ!」
再び虚空に力説する。
そこに、広場まひるの名前が、無かった。
じっちゃん、まひるちん。
気安い仇名で呼び合うほどの仲となったにも関わらず。
広場まひる――― そんな、であった。
まひるは、誰も殺してはおらぬ。
【死亡者情報】は、それを証してくれた。
しかし【プレイヤー動向】にて、懸念が発生した。
時は一日目の夜半。
突如、正気を失ったまひるが、同行者・堂島薫を捕食しようとしたという記録である。
幸いにして、駆けつけた高原美奈子の手によってまひるは正気を取り戻し、
事なきを得たのであるが。
その懸念を、もう一つの管理資料が裏付けた。
【参加者来歴】。
そこに、記載されていた。
この島に召還されるまでの、プレイヤーたちのプロフィールが。
ランスとは、リーザスなる国の王であること。
ユリーシャとは、カルネアなる国の第二王女であること。
紗霧とは、鋼鉄番長に仕える神鬼軍師であること。
恭也とは、学生にして御神流の若き師範であること。
そして、まひるとは。
学生にして、天使であった。
天使とは皮肉を利かせた蔑称に過ぎぬ。
その正体は、人に擬態し人を捕食する、人の天敵であった。
魔の者が、人に憧れ。
贖罪し、人の側に立つ。
それは、野武彦が大好きなファンタジー物の王道展開であるし、
実際彼には、人外の者に対するいわれ無き差別意識など皆無である。
誰よりも、まひるを受け入れる土壌と柔軟性を備えている。
であるのに。
今の野武彦は恐れと疑念を捨てきれぬ。
燃えるシチュエーションなどと受け入れられぬ。
人に擬態する。
この一節と、紗霧やユリーシャの化けっぷりに欺かれていた事実とが相まって。
信じてやりたくも、後ろめたくも。
いずれ正体を現すのではないか―――
飢餓感が限界に達したならば―――
そんな可能性が脳裏を掠めるばかりであった。
既にバッテリーは切れ、PCの液晶は黒く染まり。
その黒に近い闇夜が、カタパルトルームを満たしていた。
そこに、インカムから。
野武彦の心持ちとは真逆の、まひるの弾んだ声が、聞こえてきた。
『じっちゃん、しーきゅーしーきゅー、あいしーきゅー!』
野武彦は息を飲み、逡巡し、深呼吸をして。勉めて冷静な声を装って。
瞑目したまま、インカムの発話ボタンを握った。
「はいよ、どうしたんじゃ、まひるちん?」
『じっちゃん、やったよ! 世色癌で、恭也さん目覚めたよ!』
「おおう、そうかそうか! よかったのぅ、ほんによかった……」
齎された朗報に、野武彦が相好を崩す。
『じっちゃん遅いけど、何かトラブルでもあったりする?』
「連絡が遅うなって済まんの、まひるちん。
シークレットポイント探しに躍起になっておるうちに、
とっぷり日が暮れ、足下が見えんようになってしまっての。
幸い山小屋を見つけたので、朝までここに留まろうと思うのじゃよ」
『あたしがお迎えに行こっか?』
「いやいや心配には及ばぬよ。
……おっと、火種が燃え尽きそうじゃ。これにてご免!」
逃げも隠れもするが、嘘はつかぬの魔窟堂。
それは彼が自称する、お気に入りのキャッチフレーズ。
それが、今の野武彦は。
逃げて。
隠れて。
嘘もつく。
(じゃが、これは必要なウソじゃ…… 事実は秘さねばならぬのじゃ……)
今、彼らの顔を見てしまえば。
嫌悪感も、不信感も、必ず顔や態度に表れる。
それを隠し通せるほど、野武彦の神経は太くない。
果し合いの時は、明日。
ほぼ24時間後。
いまこの情報を、小屋の者たちに知られるわけにはいかぬ。
それは、不和しかもたらさぬ。
或いは、別離や破局すら招くやもしれぬ。
今は、この胸にしまっておくしかない。
それは、野武彦にも判っている。
判ってはいるのだが、割り切ることもまた出来ぬ。
苦悩。煩悶。後悔。逡巡。
負の渦流に、木切れ一つで巻き込まれている。
その荒波から逃れるために。
あるいは、荒波が細波に変わるまで。
野武彦には時間が必要なのである。
「エーリヒ殿……」
野武彦は縋る。面影に問う。
自分の様に、揺れず、惑わず、落ち込まず。
己を貫き通す意志力に満ちた軍人に。
「あやつらに守るべき価値は、あるのか……?」
野武彦は天を仰ぎ、形見のライターを強く握り締めた。
↓
(ルートC)
【現在位置:C−4 本拠地跡・カタパルトルーム】
【魔窟堂野武彦(元12)】
【スタンス:@一晩頭を冷やす。得た情報は墓場まで持ってゆく】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×2、簡易通信機・小、斧
軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【備考:疲労(小)、紗霧、ランス、ユリーシャに不信感、まひるに恐怖感】
※ゲームの各種記録を知りました
※カスタムジンジャーは竜神社で充電中です
ランスが生き残ってることに驚き
いつ完結するんだろな
【タイトル:ひとであり/ひとでなし】
(ルートC・三日目 PM2:30 C−6 小屋1跡)
高町恭也の眠る小屋の正確な場所を、知佳は知らぬ。
西の森、浅く。
ランスからそう聞いたのみである。
その、西の森の浅いところに、煙が立ち昇っていた。
低空を飛行する知佳が向かうのは致し方なき事であろう。
「…………っ!?」
知佳は息を呑んだ。
小屋が破壊され尽くしていた故に。
そこに佇むのは一人の童女のみであった故に。
童女が胸に燃える骸骨を抱いていた故に。
凶-マガキ-しおりである。
知佳が着地した、その振動が最後の引き金となったのか、
しおりの腕の中の頭蓋骨が、灰と崩れた。
しおりは、泣きはらした腫れぼったい瞼で茫と立ち尽くし、
空を仰ぎ見るのみであった。
さおり。愛。シャロン。
しおりは恩人達の弔いを終えて、放心していた。
知佳がみとめた煙とは、この火葬の煙であった。
「……何をしていたの?」
言葉をかけられたことで訪問者の存在に気付いたしおりは、
緩慢な動作で知佳に向き直り、静かに告げた。
「おそうしき」
透明感溢れる、虚脱した眼差しを知佳に向け、
しおりは無防備に、言葉を重ねる。
「さおりちゃんと、愛お姉ちゃん、シャロンお姉ちゃん。
みんなしおりを守って死んじゃったから……」
その言葉に、知佳の警戒心が一段階引き下げられた。
挙げられた名に知り合いの名が無き故に。
落ち着いて周囲を見渡せば、崩れている小屋には埃も煙も立っておらず、
周囲は落ち着いた泥水と、その乾いた跡が散見され。
小屋の破壊は過去に行われたものであるのだと、伺い知れた。
(良かった…… 恭也さんの眠る小屋とは別の場所なんだ)
そうして、落ち着いた心持ちで、再度しおりに目をやって。
知佳はようやく気がついた。
眼前の童女に、見覚えがあることに。
ゲームの開始前に、肩を寄せ合って震えていた双子の童女であったことに。
こんな幼い子まで……
その思いがあったからこそ、目に留まっていた。
しかし、知佳の記憶にある童女とは、幾分様相が異なっていた。
鼠の耳が生えている。
鼠の髭が生えている。
鼠の尾が生えている。
肉体改造か、魔術か。
いかな手管によってこの悲痛な変化が起こされたのか知佳は知らぬが、
それは心優しき少女の哀れ心を誘うに十分な変化であった。
故に、知佳は零した。
己の素直な心情を、極めて自然に。
「大丈夫。
どんな姿になっても、しおりちゃんはしおりちゃんだよ」
幼き頃。
知佳は己の異能故に、疎外感を強く感じていた。
鬼子として、座敷牢の如き離れに隔離されていた。
実の両親に。親族に。
恐れられ、疎まれて。
しかもそれらを全て読心して、知佳は生きてきたのである。
―――ひとでなし―――
それは知佳にとっての癒え切らぬ心の傷。
心をじくじくと蝕む悪意の溶剤。
故に、反射的に、しおりの変化を否定した。
それが相手にどんな効果を与えるのか、考慮せぬままに。
「しおりちゃんは、人間だよ!」
しおりの髭が、ピン、と立った。
しおりの耳が、ピク、と動いた。
「しおりは…… にんげん?」
抱きしめようと広げられた知佳の腕に、しおりは駆け寄らなかった。
それどころか知佳の意図とは真逆の、不機嫌で危険な気配を漂わせた。
しおりは、血の主人・アズライトを慕っている。
命を救ってもらったことを感謝している。
人ならざる存在と化したことを誇っている。
―――ひとであり―――
つまりは、禁句であった。
知佳は巧まずしてしおりの逆鱗に触れてしまったのである。
「そう、しおりちゃんはね。お姉ちゃんと同じ、人間なの」
優しい微笑で。理解者面をして。
知佳はしおりに慈雨を降り注ぐ。
しおりにとって、それら少女の挙動の全てが不快であった。
許せるものではなかった。
「ちがうもん!」
怒りの反論と共にしおりは大地を蹴り、低い弾道で跳躍。
ミサイルの勢いで、知佳に向かって。
対する知佳は、反応が一歩遅れた。
回避は間に合わなかった。
サイコバリアも間に合わなかった。
しおりの頭頂部が、知佳の鳩尾に着弾する。
知佳は数メートル吹き飛び、背を瓦礫にぶつけ。
転倒し、悶絶した。
「しおりは【まがき】だもん! にんげんじゃないもん!」
芋虫の如く転がる知佳を見下ろして、人差し指を突きつけて。
しおりは決意を表明する。
知佳へと宣戦を布告する。
「しおりは、ゆうしょうするんだから!
ゆうしょうして、マスターを生き返らせるんだから!」
漸く膝立ちとなった知佳が、えづきをこらえて向き直る。
向き直って、興奮に身を振るわせる童女の瞳を見やる。
しおりは知佳の視線を円らな瞳でまっすぐ睨み付けている。
その目線から、強い思いが伝わってくる。
【ぜったいぜったい、マスターを生き返らせるんだから!】
しおりの胸に燃えているのは、その一念のみであった。
優勝とはその願望成就の手段に過ぎぬのであると、知佳は解釈した。
ならば他の願望成就の方策を提示した上で、
その可能性の方が優勝よりも可能性が高いのであると納得させたならば、
説得し、味方に引き入れることも可能であると、知佳は判断した。
……してしまったのである。
「優勝なんてしなくてもいいの!
主催者をみんなでやっつけても、願いは叶うの!」
踏んだ。
知佳はまたしても、しおりの心の侵入しては成らぬ場所を、
そこに埋設してある地雷を、力強く踏み抜いてしまった。
「主催者を…… やっつける?」
「今、ザドゥたちは弱っている。力を合わせれば倒せるの!
優勝するなんて言わないで、お姉ちゃんと一緒に戦おう?」
ザドゥとは、今のしおりが知る唯一の生存者。
ほんの少しのふれあい。それでも。
ぶっきらぼうながらも、確かにしおりの孤独を癒してくれた、恩人。
行き詰まった彼女に優勝への思いを認識させてくれた男。
「ザドゥさんを倒す!?」
しおりは、口に出して知佳の提案を反芻する。
反芻しながら理解する。
この少女とは決して相容れないのであると。
この少女を生かしておくわけには行かないのであると。
「そう。だからお姉ちゃんと一緒に行こ?」
ああ、この慈悲深く、愛を一義に置く少女こそ、
幼きしおりにとって最良の守護者足り得るというのに。
心身の両面で、しおりを庇護できるというのに。
逆に、しおりという弱者の存在こそ。
目的を果たさんと修羅道に堕ちつつある知佳が、
本性である慈愛の精神を取り戻す契機になるというのに。
―――出会いが、遅すぎた。
「そんなのダメぇ!!」
再びのしおりの突撃に、今度は知佳のサイコバリアが間に合った。
しかし、重い。
相当の圧力として、バリアを歪ませている。
昨日の透子の体当たりの比ではない。
プロボクサーのストレート程度の威力は、十分に出ていた。
知佳はバリアの角度を変え、正面突破のしおりをいなす。
しおりは勢いのままつんのめり、知佳の後方にごろごろと転がった。
(ここは一旦引く!?)
知佳は逡巡する。
人で無いことを誇り、優勝を口にし、主催寄りの立場を匂わせる
危険な存在を放置して、果たして逃げ出しても良いものか?
この森のどこかに、身動きの取れぬ恭也が眠っているというのに。
「お姉ちゃんひどいよぅ……」
立ち上がり振り返った、泥まみれのしおりの顔を見て。
知佳の良心が、どうしようもなく、疼く。
こんな小さな子に、なんと酷いことをしているのであろうと、
後悔の念が湧き上がる。
「なんで避けるのぉ!?」
幼く庇護欲をそそられる外見に言動。
これには、惑わされる。
頭では危険な相手であると理解していても、
戦おうという意欲がごりごりと削られる。
(それが、怖い……)
知佳は知己の顔を思い浮かべる。
人の良い野武彦やまひるであれば。
心優しい恭也であれば。
必ずや説得し、保護下に加えようとするであろう。
自分以上の逡巡や躊躇を見せてしまうであろう。
「こんどこそぉっ!!」
しおりが、再び突進してくる。
知佳はサイコバリアを前面に広げつつ、
しおりに処する結論を結んでゆく。
(もう、この手は穢れてる。だったら……)
人殺しの、それも子供殺しの十字架を、
心優しい彼らに背負わせる必要は無く。
(罪を重ねるのは私だけで十分なの!)
知佳もまた、覚悟を決めた。
決めたと同時に、行動していた。
「ぎっ!?」
テレキネシス。
ランスに叩き込むのを見送った引き絞ったそれを、
透子には決して放たなかった本気のそれを、
知佳はノーリアクションで、しおりのレバーにぶち込んだ。
この上なく明確な、反撃の狼煙であった。
なんということであろうか!
主催者たちがゲームの最終決戦と想定していた戦いが、
条件を満たさぬままに、開始されてしまったのである。
「ふ………………」
凶と化したとは言え、臓器は臓器である。
肝臓とは急所である。
故に、しおりは悶絶した。
視界の外、意識の外から襲い掛かった未知の衝撃に、
しおりはお嬢様座りで、へたり込んだ。
「ふぇ……………」
そして、泣いた。あっけなく。
泣いて攻撃の手を止めた。
「……ぇえっ……」
恐ろしいほどの身体能力はあれど、やはり子供。
知佳は、そう安堵した。
その安堵が間違いであったと知佳が気づくのに、
時間はさほどかからなかった。
「ふえええええん! いたいよーーー!!」
散った涙が赤く染まっていた。
周囲の気温がにわかに高まった。
しおりの涙は炎となり。
その身を包む盾と化し。
脅威として牙を剥く。
泣いたら負け。
その法則はしおりには通用しない。
泣いてからが、本番なのである。
「!!」
警戒し身構える知佳の眼前で、
無警戒に泣きじゃくるしおりの炎密度は増してゆく。
そうして、しおりの全身が炎に包まれて。
前哨戦は終わり、本戦が幕を上げた。
「おねえちゃんなんかああ!! しんじゃえぇぇ!! しんじゃえぇぇ!!」
金切り声を上げて、しおりが知佳へと突撃する。
イジメられっ子が泣いて、キれて、踊りかかる。
ぐるぐると腕を回して、ウェイトの乗らぬ拳を打ち付けんとする。
そこかしこの公園で見られる普遍的な光景だ。
今のしおりも、ただ、それだけだ。
違うのは、しおりの全身が炎に包まれていること。
パンチは並の格闘家程度の威力があること。
拳は瞬時に皮膚を焼く温度を伴なっていること。
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