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奈須きのこの本領発揮で新境地。, 2006/12/25
レビュアー: 夕時 -

言わずと知れた奈須きのこの、小説家としての二年半振りの新作。
そんな本作の最大の見所は、主人公の石杖在処くんと、彼が俯瞰する世界。

これまで奈須きのこが描いてきた、月姫の志貴とかフェイトの士郎、空の境界のコクトーといった男連中の性格や価値観は、
とても直截で少年漫画的、悪く言えば稚拙な印象を時として受けるのだけれど、このDDDの主人公の石杖在処はざっくらばんな性格で、
自らを弱者と自称するシニカルなリアリスト。
そんな在処君のどこか奇矯な、くだけた口語体とオリジナルのフォントが作品世界と絶妙にマッチしていて、奇妙というか特異というか、
これまでのきのこ作品には無い独特の空気を醸し出している。いいね。

また、この小説のテーマである“悪魔憑き”。
この“悪魔憑き”は言わば弱者の病で、その根底にある、《加害者であり被害者》という構図と定義は空の境界のアレコレとも共通しているが、
しかし本作には両儀式のような、無敵のヒーローはどこにもいない。悪魔憑きと対峙するのは同じ悪魔憑きで弱者を自称する在処くん。
そしてその弱者同士が対峙するからこそ浮き彫りになる、奈須きのこ曰く“陥穽”。
その罠は残酷だが限りなく真実で、夢見る少年の士郎より苦労人のアーチャーじゃないけど、凡百の正論よりずっと深く突き刺さり胸に残る。

“俺は俺だけで精一杯だ。臭い物にフタをする程度の正義感では、他人の重さは背負えない。
なにしろ片腕だし、頭悪いし。強くなれない半端な弱者は、できるかぎり我関せずでやっていくしかないのである。
だって、ほら、ピンチになっても、誰も助けてくれないでしょ?”

ストーリーテラーとして名を馳せる作者が、ただの物語書きではない事を再確認できる佳作。


日本語でぉk?