虹掛美雨(みあま)は子供のころ、原発事故で被曝し、肉体が成長しなくなってしまった。この時、両親は死亡している。
彼女は筑波の病院に入ったものの、治療方針に嫌気が差して病室を抜け出し、祖父の住むこの村にやって来た。
森の診療所から入院を再三勧められていたものの、頑なに拒みつづけ、掘っ立て小屋で独り暮らしていた。
皆と触れ合えば、成長しない自分の肉体を意識させられてしまうのだから。
裕作は美雨を説き伏せて、何とか入院させたいと考えていた。
しかし患者本位を志向する診療所の方針に従い、美雨と根気よく付き合いながら、信用を勝ち取ることにした。
美雨は気難しい少女ではあったが、次第に裕作に心を開いていき、やがて入院に同意した。(→死別エンドの分岐)
裕作が東京に帰る日が迫っていた。美雨は別れを惜しんでいた。
彼女は成長しない肉体を有しているがゆえに、周囲の人間に置いて行かれてしまうと、疎外感を覚えていたのだ。
「自分の時間は止まっている」と寂しがる彼女に、彼は「ならば自分の時間も止めよう」と応じた。
エピローグ。裕作は東京に戻って医大を卒業し、森の診療所に戻った。そして美雨と再会できた。
※死別エンド
美雨は入院したものの、大気に遠慮するあまり、病室から飛び出してしまう。
(かつて美雨は一時期、裕作と同じ学校に通っていたのだが、クラスでイジメを受けていたところを、
彼に助けてもらったことがあった。彼にも大気にも迷惑ばかりかけている、と気に病んでいたのである。)
裕作は美雨を探し回った末に、小屋でようやく発見した。行為の後、美雨の容態が急変した。
診療所に担ぎ込まれた彼女は、小屋に置き忘れた携帯電話を取りに行ってほしいと彼に頼み込んだ。
彼は小屋で電話を見つけ、診療所に戻ろうとしたものの、死に際には間に合わなかった。
彼は電話にボイスメッセージが吹き込まれていることに気づいた。
美雨は遺言を残したのだ――立派な医者になってほしい、大気と上手くやっていってほしい、と。
エピローグ。裕作は医大を卒業したのだが、どうしても美雨の死を乗り越えられずにいた。
その後彼は診療所に就職した。久しぶりに村に戻った彼は、自分を励ましてくれる彼女の幻影を、木の上で見た気がした。