SS投稿スレッド@エロネギ板 #19 [無断転載禁止]©bbspink.com
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エロゲー全般のSS投稿スレです。あなたの作品をお待ちしています。
エロエロ、ギャグ、シリアス、マターリ萌え話から鬼畜陵辱まで、ジャンルは問いません。
そこの「SS書いたけど内容がエロエロだからなぁ」とお悩みのSS書きの人!
名無しさんなら安心して発表できますよ!!
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1.テキストエディタ等でSSを書く。
2.書いたSSを30行程度で何分割かしてひとつずつsageで書き込む。
名前の欄にタイトルを入れておくとスマート。
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3.SSの書き込みが終わったら、名前の欄に作者名を書きタイトルを記入して、
自分がアップしたところをリダイレクトする。>>1-3みたいな感じ。
4.基本的にsage進行でお願いします。また、長文uzeeeeeeと言われる
恐れがあるため、ageる場合はなるべく長文を回した後お願いします。
5.スレッド容量が470KBを超えた時点で、
ただちに書き込みを中止し、次スレに移行して下さい。
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過去スレ >>2あたり。 ■バス停
輩人「バス、行っちゃったな」
立花「……うむ」
輩人「立花の泣き顔、誰かに見られたかもな」
立花「可愛いかった?」
輩人「え、まあ…あ、いや。それよりどうして戻ってこれたんだ?」
立花「これ、ごまかすでない」
輩人「たしか立花を犠牲にして、海神の眷属を召喚したんだろ?」
立花「それがだな、立花も海神様に聞いて初めて知ったのだが――」
立花「実は輩人とHせずとも、召喚自体はできたのだそうだ」
輩人「…え?」
立花「つまりHは、召喚のためではなく、立花復活のための儀式らしい」
輩人「どういうことだ?」 立花「前にも話したが、立花は人の皮膚を革袋にして作られておる」
輩人「ああ」
立花「今の立花は、輩人との受精卵を革袋にして再構成されたものだ」
輩人「……なんというか、便利な体だな」
立花「うむ! とはいえ、普通は再構成などできん。立花自身の受精卵を使えばこそだ」
輩人「あ、そのためにHしたのか…じゃあ今まで行方不明だったのは?」
立花「この体に育つまで地底湖で漂っておった」
輩人「どうやって地底湖から脱出したんだ?」
立花「あの地底湖は海へ通じていると言ったであろう」
輩人「じゃあなんで召喚にHが必要なんて言ったんだ? まさかHのため――」
立花「勘繰るでない。立花も真蔵からそう聞かされたのだ」
輩人「真蔵さんが? なぜ?」
立花「もしかしたら真蔵が嘘をついたのかもしれぬ、 立花の身を案じてな」
輩人「そうか。たしかに立花なら、他人を巻き込まず一人で召喚しかねないしな」
立花「うむ。だが真蔵の二枚舌の力と、輩人のおかげで、こうして戻ってこれた」
立花「ところで輩人は、いまどこに住んでおるのだ?」
輩人「神室神社だよ。以前とそっくりに建て直したんだ」
立花「それはいい。では縁側で膝枕でもしてやるとしよう、久々にな」
輩人「…記憶の再構成に問題があるな」
立花「行くぞ! 輩人」
輩人「っと、引っ張るなって」
立夏はもうすぐ。陽射しを浴びる神室神社へと少女は踏み出した。
その手に引かれつつ――帰ろう、陽の当たる場所へ。 ■神室神社
三葉「うわあああぁぁぁぁぁぁぁん! 立花ちゃあああぁぁぁぁん」
立花「これ三葉、いい加減に泣き止まぬか」
宏茂「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉん! 立花ちゃあああぁぁぁぁん」
立花「宏茂はまあ、なんだ……飲みすぎだぞ」
三葉「だって芦日学園で村に残ってるの、私と先輩だけだったんだもん」
立花「砌は?」
三葉「あの後いなくなっちゃって、それっきり」
立花「そうか。とはいっても祝いの席だ。泣きはらすより喜ばぬか」
三葉「どうしようお父さん。私、喜びが爆発しそう!」
宏茂「そういう時は乱取り稽古だ。来い! 三葉」
三葉「はい! お父さん」
輩人「勘弁してくださいよ。せっかく建て直したばかりなんだから」
立花「おぉ、輩人。隣に来い。仕切りを任せてすまぬな。」
輩人「まあ立花は主賓だし、女性陣は厨房、男性陣は宴会で勝手にやってるよ」
立花「うむ。輩人もなかなか立花の女房役が板についてきたのう」
三葉「先輩。許嫁から女房に昇格ですか? おめでとうございます!」
輩人「三葉ちゃん騙されすぎ。にしても、自然にこれだけの人が集まるとはな」
立花「みな立花の家族だからな。しかし案ずるな。立花はあくまで輩人の本妻」
輩人「その浮気前提みたいな言い方はやめてくれ。体裁が悪い」
立花「うむ。ではせいぜい立花を大切にしてくれ」 三葉「けど立花ちゃんだけでも無事でよかった。これでお姉ちゃんや朝ちゃんもいれば…」
輩人「三葉ちゃん。俺も宮司になって、できる限りのことはすると決めたよ」
立花「宮司? 輩人は宮司にはなれぬぞ?」
輩人「え? でも本社の人はそんなこと…」
立花「まさか!? 輩人、ちょっと見せてみろ」
輩人「立花、ちょっ、近い……んゥッ!?」
立花「なるほどたしかに。いや、でもそんな」
輩人「…キスで何かわかるのか?」
立花「いや、瞳を覗いたのだ。キスはついでに過ぎん」
輩人「ついででキスしたら駄目だろ!」
立花「なに? わがままだな。ついでが駄目なら、もう一度――」
輩人「そういう意味じゃない! で、俺が宮司になれないってのは?」
立花「それだ。しかしなぜ――九重、ココノエ、クジュウ…クジュウ!?」
輩人「ど、どうした? またキスする気か?」
立花「もしや輩人なら――」
輩人「?」
立花「――輩人なら、朝を救えるかもしれん」 ■真蔵の部屋
立花「ほう。真蔵の部屋もきちんと元通りになっておる」
輩人「倒壊した神社からいろいろ集めるの大変だったんだぞ。それよりさっきの話…」
立花「うむ。輩人なら、朝を救うことができるかもしれん」
三葉「救うって。でも朝ちゃんは死んで」
立花「三葉よ。まあだまって聞いておれ。順番に話そう」
立花「まず輩人は本来、海神様の宮司にはなれん。山神に呪われておるからな」
輩人「この部屋で見つけた例の写真の話か。あの呪いってなんだったんだ?」
立花「おそらく、子宝で山神の仲間を増やす呪い…早い話が精力増強だな」
輩人「え!?…でもそうか、そのおかげで立花との儀式でも助かったんだな」
立花「そうだ。その呪いは山神が第三界へ還ったあともしばらく残る――本来は」
輩人「本来、ってことは、もう呪いは解けたのか?」
立花「輩人の瞳を覗く限りそのようだ。その理由は……この本を読んでみろ」 輩人「逃隠を犠牲に生き延びた足取が、逃隠の婚約者である久住を奪った…」
立花「その足取、逃隠、久住こそが今の湊、桐蔭、九重にあたる」
輩人「そしてその末裔が三葉ちゃん、朝ちゃん、俺ってことか」
立花「単なる末裔ではなく、神の血をひく正統後継者でもある」
輩人「……神、だって?」
立花「そうだ。言わば足取は空神、逃隠は山神、久住は海神に属する者だ」
輩人「じゃあ山神の呪いが解けた理由は」
立花「神に連なる久住の正統後継者である輩人は、呪いに耐性を持つからだ」
輩人「でも、それと朝ちゃんを救うことがどう関係するんだ?」
立花「朝を救うためには、まず夜が必要だ」
輩人「夜? けど彼女も死んで」
立花「夜はもともと死人だ。山神の獣の絵馬を家にして朝の体に憑依してたに過ぎん」
輩人「そうだったのか! ってことは」
立花「絵馬さえ無事なら、再び夜を呼び出すこともできよう」
輩人「呼び出すって、どうやって?」
立花「そのためには山神の司祭として夜を呼び出せる者が必要…それが輩人だ」
輩人「俺? 俺は海神の宮司で」
立花「と同時に山神に魅入られてもおる。あの精力増強の呪いがその証拠だ」
輩人「なんだか神様に二股かけてるみたいで、宮司見習いとしては気が引けるな」
立花「おまけに夜は久住と因縁がある。輩人が呼びかければあるいは」
三葉「先輩。よくわからないけどさすがです!」
輩人「よくわからないけどありがとう」
立花「――とにかく輩人よ。まずは夜を顕現させるぞ」 ■山小屋
立花「山小屋にも砌は来てないようだな」
輩人「ここは三葉ちゃんとも何度か探しに来たけど、無駄足だったよ」
三葉「先輩! 大変です! 小屋の回りにワンちゃんがいっぱい」
立花「まずい! 囲まれたか。輩人は三葉のそばを離れるでないぞ」
輩人「そういえば、前にも黒い影が三葉ちゃんだけ避けて通ってたな」
立花「あれは第三界の物質で構成された山神の僕。こやつらとは別だ」
輩人「ならこいつらは?」
立花「こちらの世界の物質で構成された、山神の影響を受けた獣。言わば山神の狗」
輩人「じゃあ三葉ちゃんにも襲い掛かるってことか」
立花「ああ。だが多少は三葉を恐れるはずだ」
輩人「三葉ちゃんにも何か秘密があるのか?」
立花「三葉は破魔の力がケタ違いなのだ。万一に備えて連れてきたのだが」
輩人「でも一斉に襲われたらやばいな。まずは相手を確認しないと――」
立花「窓に近寄ってはならぬ!」
輩人「え? っ…ゥグぁっ!!」
三葉「先輩!」
??「お兄ちゃん!」 輩人「――って、死んでない……?」
立花「ケガはないか!?」
砌「危なかった。もう少し遅ければ…ぇ、立花ちゃん!?」
立花「砌よ。話は後だ。外にいる狗どもを追い払えるか?」
砌「三葉ちゃんがいれば」
立花「では頼む」
砌「わかった。三葉ちゃんは二人のそばにいてくれるだけでいい」
三葉「うーー! 私も戦いたいのにぃ!」
立花「三葉に至近距離で暴れられたら、立花たちが無事ではすまぬぞ」
砌「追い払ってきた。けどここは危険。山神を失った狗たちが暴れてる」
立花「なるほど。それらを狩るために砌は山にこもっていたのだな」
砌「そう。だから山には来ない方がいい。片付いたらこっちから会いに行く」
立花「そうもいかんのだ。砌よ。加枝はどこにおる?」
砌「居場所はわかる。でもどうして?」
立花「朝を助けるため、加枝の力を借りたいのだ。そこへ連れていけ」
砌「行っても話はできない」
立花「そこは立花に任せておけ。なにせ海神の巫女だからな」
砌「わかった。ついてきて」 ■あとりの塚
砌「お母さんはあとりの塚の辺りにいるはず。でも声は聞こえない」
立花「よし。では立花が呼びかけてみよう。しばし待て」
三葉「今ってなにをしてるんですか?」
輩人「加枝さんに相談して、夜を呼び出して、朝ちゃんを助けるんだ」
三葉「どうやって朝ちゃんを助けるんですか?」
輩人「俺もわからないけど、ここは立花に任せよう」
三葉「ふうん。あ、あそこに狼がいますよ」
砌「お母さん!」
立花「どうやら加枝に届いたようだな」
加枝「久しぶりですね、砌。元気にしてましたか?」
砌「うん…うん! お母さんとお父さんは?」
加枝「平穏無事に、二人でいつも砌のことを見守っています――」 加枝「――さあ、つもる話もここまでにして、そろそろ本題に入りましょう」
立花「すまぬな。できれば心ゆくまで話をさせてやりたいのだが」
加枝「山神が消えた今、海神の巫女がいればいつでも話はできます」
立花「では単刀直入に言おう。夜を再び呼び出したいのだ」
加枝「山神の獣を…? それはできません。山神が第三界に還った今となっては」
立花「たしかに山神の獣としては無理だろう。では、海神の獣としてはどうだ?」
砌「夜ちゃんを、海神の獣に?」
立花「うむ。実はな、砌。砌は海神の獣ではないのだ。加枝よ、そうであろう?」
加枝「どこで知ったのかはわかりませんが、その通りです」
立花「つまり、今の絵馬の主は加枝ということだな」
加枝「そう。絵馬を壊すことで封印が解かれ、砌は本来の存在に戻るでしょう」
立花「では、その絵馬を他人に譲ってやることはできるか?」
加枝「理屈の上では。しかし逃隠は山神の血をひく者。果たして…」
立花「そこは立花に考えがある。だから加枝よ、手を貸してはくれぬか」
加枝「わかりました。では夜が憑依する器を持って、ここに来てください」
立花「器とは、夜の体のことだな」
輩人「でも、朝ちゃんの体は見つかってないし、だいたいもうすでに…」
加枝「夜は死の直前、彼女の絵馬へと向かいました。おそらくそこでしょう」
立花「なるほど! たしかにあそこなら好都合だ」
輩人「立花は場所を知ってるのか? それに砌ちゃんが海神の獣じゃないことも…」
立花「それはだな、輩人――」
立花「――立花は見てきたのだ。ここによく似た、別の世界を」 ■洞窟
輩人「本当に夜の、その…絵馬とかいうのがこの洞窟にあるのか?」
立花「間違いない。こことは別の世界で見てきたからな」
輩人「その見てきた、ってのはどういうことだ?」
立花「立花にもわからん。しかし地底湖で漂う間、いくつもの世界を傍観してきたのだ」
輩人「どんな世界だ?」
立花「ある時は輩人が朝と結ばれ、ある時は輩人が三葉と結ばれ…」
三葉「先輩が私と? やったぁ!」
輩人「お、おい。誤解を招くようなことを言うなって」
立花「誤解ではない。な・ぜ・か!――輩人はことごとく立花を選ばぬのだ」
立花「輩人が決めたことゆえ仕方ないとはいえ、すごく寂しかったんだぞ」
輩人「まあまあ、あくまで夢なんだし。泣くなって」
立花「……泣いてないわ」
輩人「月乃ちゃんかよ! って、キャンプの頃が懐かしいな……」 立花「――と、どうやら夢ではなかったようだぞ。これが夜の絵馬だ」
輩人「だとすると、この辺りに朝ちゃんが……」
立花「しかし、こうも暗くてはよく見えん。砌はどうだ?」
砌「暗い場所は苦手」
立花「ふむ。山神は視覚を持たぬというが、海神はむしろ目が命だからな」
三葉「そういえば朝ちゃんは目が見えなくても平気だったもんね」
輩人「反対に、スイカ割りの砌ちゃんは目隠しに弱かったな」
三葉「――あ! 朝ちゃん!」
輩人「本当に朝ちゃんが……」
砌「きれい。まるで生きているよう」
立花「うむ。ここは山神の呪い…夜からすれば加護が強く残る場所なのでな」
輩人「そのおかげで体がきれいなままなのか」
立花「山神が再びこの地に現れた時に備え、ここに避難したのだろう」
三葉「私が朝ちゃんを背負います。急いであとりの塚へ戻りましょう」
立花「ふむ。だがその前に、輩人よ――」
輩人「なんだ?」
立花「――輩人は、夜のすべてを受け入れられるか?」 ■山中
輩人「夜を受け入れるってのは、どういうことだ?」
立花「つまり、夜を妾として受け入れる覚悟はあるかということだ」
輩人「妾!? それと夜を呼び出すのになんの関係が?」
立花「夜は不幸を糧にしてしか生きられぬのだ。久住に捨てられたためにな」
輩人「俺じゃないぞ」
立花「わかっておる。しかしこのままでは、呼び出したところで夜が応じぬ」
輩人「たしかに、他人を不幸にするとなればな…」
立花「しかし秘策がある。輩人の妾となり、奪われた久住を取り戻すのだ」
輩人「それで本当にうまくいくのか?」
立花「わからぬ。立花が見てきた別の世界では失敗だった」
輩人「じゃあ駄目じゃないか!?」
立花「しかしその時と今とでは状況が異なる。夜本人に聞いてみるしかあるまい」
輩人「でも、立花としてはそれでいいのか? 嫉妬とか」
立花「嫉妬はするぞ。本妻の座は誰にも譲らん」
輩人「妾ならいいのか?」
立花「誰でもいいわけではないが、相手が朝なら家族も同然。気にはせん」
輩人「朝ちゃんと夜は別だろ?」
立花「うむ。だが立花は夜のこともいくらか知っておる。なぜ輩人に拘るのかも」
輩人「なにか理由があるのか?」
立花「本人に聞け。とにかく立花は、朝や夜にも輩人と幸せになってほしいのだ」
輩人「けどそれはそれで寂しいかもな。俺がかけがえのない存在じゃあないみたいで」
立花「言ったであろう? 立花と輩人は恋人以前に家族なのだ」
輩人「ん? ああ…」
立花「家族な以上、輩人が誰と付き合おうとも、かけがいのない存在に変わりない」
輩人「でもそれって、立花は辛くないのか?」
立花「覚悟の上、それも踏まえての家族なのだ。それに、この世界では本妻だしな」
輩人「まったく、笑い事じゃないだろ…。けどもし仮に、夜が本妻を望んだら?」
立花「その時は輩人が選べ。立花としては、選ばれるよう女を磨くだけだ」
輩人「立花……」 三葉「ねえねえ立花ちゃん。私は? 私は駄目?」
立花「三葉も輩人の妾になるのか? 輩人が良いなら立花はかまわんぞ」
三葉「やったあ! よろしくお願いしますね、先輩」
砌「砌とお兄ちゃんも家族」
立花「うむ。砌も一緒に住もうな」
輩人「俺をよそにどんどん話が膨らんでいく…」
立花「とにかく、輩人は夜を受け入れるのか決めておくのだぞ」 ■あとりの塚
立花「加枝よ。夜の体を運んできたぞ」
加枝「では、そこに横たえなさい。私が夜を呼んでみます」
加枝「――答えがありません。やはり山神様か、司祭でないと」
立花「そこで輩人の出番だ。輩人よ、山神の司祭として夜を呼ぶのだ」
輩人「……えっと、夜、聞こえる?」
立花「声に出す必要はないぞ」
輩人「先に言えよ!」
輩人「――駄目だ。何度やっても空振り」
立花「ふむ…まだ何か足りぬのか……それとも」
三葉「ん? 立花ちゃんどうしたの?」
立花「三葉、砌。少し輩人と二人にしてはくれぬか?」
三葉「あー。その目。まさか立花ちゃん、先輩とヘンなことする気なんじゃ?」
立花「うむ!」
輩人「え!?」
三葉「しょうがないなあ。じゃあそのへんで、ワンちゃんが来ないか見張るね」
砌「砌も行く」
立花「すまぬな。二人とも」
輩人「――な、なにをする気だ?」
立花「輩人君はナニしてほしいのかな?」
輩人「正気に戻ってほしい」
立花「立花は正気だ。なに、もしや夜は三葉を恐れて出てこぬのかと思ってな」
輩人「ああ、さっき言ってた破魔の力ってやつか。じゃあ砌ちゃんの方は?」
立花「三葉なしで山神の儀式を行えば、海神に属する砌もただではすまぬ」
輩人「そうか。砌ちゃんを守るため人払いを…だとすると立花は?」
立花「立花のことは気にせずとも良い。見習い宮司だけでは心もとないのでな」
輩人「待ってくれ! 立花を危険にさらすなんてできない」
立花「大丈夫だ、無理はせぬから。立花を信じてもう一度呼びかけてみろ」 輩人「――やっぱり駄目だ。なにも聞こえ……ん? いま呼んだか?」
立花「いや」
輩人「じゃあ夜? 夜の声なのか!?」
立花「グっ! ゥああぁぁぁぁ――」
輩人「立花!? おいどうした! しっかりしろ!」
??「…ハ……イ、ト……」
輩人「立花! 口から血が…」
立花「よい。それより、夜を…」
??「…サ……マ、輩人様――聞こえますか?」
輩人「夜? この声は夜か? 立花が苦しんでて」
夜「輩人様。すぐに儀式をおやめください。このままでは神室様が」
輩人「わかった! とにかく一度中断して、俺だけでもう一度」
立花「駄目…だ」
夜「私からお話しします。輩人様だけでは私を呼び出せないのです」
輩人「なぜ!?」
夜「いま声が聞こえるのは、神室様の苦しみあってのこと。私は不幸なしに存在できません」
輩人「そんな! じゃあ立花は」
夜「ですから輩人様。一刻も早く儀式を打ち切り、私のことはお忘れください――さようなら」 立花「待て! 夜」
夜「神室様。息をするだけでも相当な苦しみのはず。無理は」
立花「それより、輩人に言いたいことが…あるはず。それを、告げよ!」
夜「……今となっては過ぎたことです」
立花「ならん! なら再び呼び出すまで」
夜「いけません! なぜ神室様がそこまで…」
立花「夜も、朝も、幸せになれ。不幸を糧になど、させん」
夜「これ以上、神室様を苦しませるわけには…やむをえません――」
夜「――輩人様。夜は、輩人様を心よりお慕いしております」
輩人「それは、夜のご先祖さまが、婚約した久住を奪われたから?」
立花「夜の先祖ではない。…夜自身が、だ」
輩人「え!? そうだったのか!」
夜「はい。でもそれだけではございません。輩人様のことは、朝を通じても存じております」
輩人「朝ちゃん?」
夜「輩人様が励ましてくれた、自分のために怒ってくれた、そうしたことを――」
夜「――それは楽しそうに繰り返すのを度々聞かされるうちに、いつしか私も」
輩人「朝ちゃんが、そんなことを……」
夜「お答えは無用です。私の気持ちを伝えられた、それだけで十分。私はこれで―」
立花「待て! 輩人、お主の返事を」
輩人「夜、ちゃんと聞いてくれ――」
輩人「――俺、君の気持ちには答えられない」 輩人「俺は立花が好きだ。だから、ごめん――」
立花「バカ輩人ォ!」
夜「輩人様。私にはもったいないお言葉でございます。これで心置きなく…」
輩人「――でも俺は、夜を、朝ちゃんを、消させない、絶対に」
夜・立花「!」
輩人「君は最後に言ったよね。もっと私を見てほしかった、って」
夜「覚えていてくださったのですね…」
輩人「なら戻っておいで。そばにいて、もっといろんな夜を見せてよ」
夜「ですが、私がいればみなさまを不幸に」
輩人「婚約した久住が裏切ったせいだよね。ならもう一度申し込むよ――」
夜「?」
輩人「――夜、改めて、俺と家族になってくれないか」
夜「輩人様、いけません。それでは不幸を糧とする呪いが解けてしまいます」
輩人「そんな呪い、捨ててしまえばいい」
夜「そうなれば、私はただの死者となり消え去ってしまうのです」
立花「案ずるな…夜は、海神の獣となれ」
夜「海神、の? ですが私は山神様の血をひく逃隠の」
立花「うむ、だから夜は、輩人の妾養子に、なるのだ」
夜「つまり、輩人様の愛人と同時に、輩人様の子になると」
立花「そう。九重の一員なら、海神の獣にもなれよう」
夜「ですが、神室様はそれでよろしいのですか?」
立花「構わぬ…というより、はよせい。そろそろ身が保たぬ…」
夜「輩人様も、よろしいですか?」
輩人「うん。でも夜が断るなら――」
夜「?」
輩人「――その時は、何度でも口説きに来るよ」
夜「どうして断りましょうか。不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
立花「決まりだ。輩人、海神の宮司として、海神の獣となるよう、夜に命じろ」
輩人「よし――」
輩人「――九重夜は、海神の獣となり、九重輩人の家族となれ」 輩人「立花、立てるか?」
立花「ああ、もう苦しくはない。儀式は終わったようだな」
加枝「儀式は終わりました。ですが…」
三葉「――せんぱーい! 立花ちゃーん! いま、光が、ぶわぁーって!」
砌「あとりの塚に光が落ちるのが見えた。……立花ちゃん、血が」
立花「平気だ。儀式もいま終わった」
輩人「でも、夜の体はピクリともしないぞ」
立花「ふむ……どうやら、駄目だったか――」
輩人「そんな!」
立花「別の世界でも失敗だったのだ。海神の獣ならばもしや、と思ったのだが」
輩人「他に手はないのか? まだなにか」
三葉「夜ちゃんが目覚めるもの……」
砌「……キス?」
三葉「それだぁ!」
輩人「え!?」
砌「砌もキスで目覚めた」
輩人「あれは人工呼吸」
立花「それは初耳だぞ」
輩人「そ、そんなことより夜だ!」
立花「む、そうだな。輩人、ひとつ夜と口づけして…いや、待て」
三葉「どうしたの立花ちゃん?」
立花「……夜、頬が緩んでおるぞ」
輩人「!」
夜「――残念。お情けをいただけるかと思いましたのに」
三葉「朝ちゃん? でも寝起きがいいから夜ちゃん!? あれでも!?」
立花「夜もなかなかやりおる。立花もうかうかしておれぬな」
砌「獣が狸になった」 輩人「夜! もう大丈夫なのか?」
夜「はい。これからは九重夜として、輩人様のおそばにお仕え致します」
砌「九重…?」
立花「うむ。夜は海神の獣になるため、輩人の妾養子になったのだ」
夜「湊様、此花様。先日の一件での非礼、誠に申し訳ございません」
砌「気にしない。夜ちゃんは自分の仕事をしただけ」
三葉「私、ずっと夜ちゃんとお話ししたかったんだ! 仲良くしようね!」
立花「ところで夜よ。早速だが、朝を助けたいのだ」
夜「――朝が、戻ってくることは、もうありません」 ■神室神社
立花「砌。加枝はなんと?」
砌「またいつでも来なさいって」
立花「そうか。これから砌はどうする? また狗狩りに戻るか?」
砌「その必要はない。夜ちゃんが狗を抑えてくれた」
夜「蛇の道は蛇、獣のことは獣にお任せください」
立花「ふむ、では立花は茶でも入れて本妻ぶりをアピールするか」
輩人「立花のやつ、スキップしてるぞ…やけにご機嫌だな」
夜「きっと輩人様が私より神室様を選ばれたことが、嬉しかったのでしょう」
輩人「そういう夜も、ずいぶん楽しそうだな」
夜「はい。遠き古よりの悲願が報われ、これほど幸福だったことはございません」
??「…ハイト、ハァイト――」
輩人「ん? なんだ立花、そんな隠れて小声で」
立花「せっかく立花がコソコソ呼んでるのに!――ちょっと手伝ってくれ」
輩人「いいけど、何かあったのか?」
立花「ふむ。厨房が一新されて、新しいのはいいが使い方がわからん」
夜「でしたら私が――」
立花「いや、本妻アピールした手前もあるし、夜に聞くのは現代人の沽券にも関わる」
輩人「どういう理屈だよ…」 立花「――よし、茶が入った…なんだ、三葉と砌は寝てしまったのか」
輩人「もう夜も遅いしな。それより、朝ちゃんを生き返らせる方法だけど…」
立花「生き返らせる? 朝は死んでいるわけではないぞ」
輩人「え!? そうなのか?」
立花「うむ。ここだけの話だが……実は、朝は夜の生んだ副人格なのだ」
輩人「え!? じゃあ、もともとの朝ちゃんは?」
立花「朝の父が夜を呼びだしたときには、本来の朝は既に亡くなっておった」
輩人「じゃあ、あとは夜ちゃんが朝ちゃんを呼び出せばいいってことか」
夜「それが、朝は眠りについているのです――死よりも深い眠りに」
立花「なんとか話だけでもできんのか?」
夜「かないません。私の声ですら、もはや朝にはまったく届かないのです」
立花「まさかそれほどとは……」
輩人「なんとかできないかな? 何か深層心理に働きかけるような…」
立花「そんなこと…いや待て。夜よ。朝は眠っているといったが、夢は見るのか?」
夜「おそらくは。私も眠るときには夢を見ることがあります」
立花「やはりな。ならば――」
立花「――あるぞ。朝と話をする方法がな」」 ■桐蔭邸
立花「夜よ。桐蔭邸に入るがよいな?」
夜「はい」
立花「では三葉よ。鍵を開けるのだ」
三葉「うん。――ハッ! はい、開いたよ」
輩人「……いいのか、こんなことして?」
立花「問題ない。桐蔭邸に夜が入るため、湊の鍵を三葉が開けただけだ」
輩人「開けたじゃなくて壊しただろ」
砌「仕方ない。鍵は行方不明」
立花「うむ。まずは立花が地下室を開けてくる。みんなはここで待っておれ」
三葉「けど、さすがにこの時間じゃ真っ暗ですね」
輩人「まだ夜の姿を人に見られるわけにはいかないから、夜明け前じゃないとね」
三葉「朝ちゃんは朝に弱かったけど、夜ちゃんは平気なの?」
夜「私も得意ではありません。本来、獣は夜行性ですから」
輩人「けど砌ちゃんは海神の獣じゃなくても夜行性だったような」
砌「砌は昼も夜も関係ない。いつでも寝れる」
輩人「ねえ夜。朝ちゃんは、どうして堂島屋敷に住み込んでまで目の治療を?」
夜「…視覚のため、自立のため、そしてなにより……輩人様の顔を見たいがため――」
輩人「じゃあ、どうして諦めちゃったの?」
夜「それは……それらすべてを持つ私に譲ろう、そう思って身を引いたのです」
輩人「そんな! 朝ちゃんには朝ちゃんにしかできないことがあるのに…」
砌「無くしたものに目を奪われて、残ったものまで見失った」
夜「……私のせいで…」
立花「――よし、地下室への扉が開いたぞ。暗いから気をつけて入れ」 輩人「――これが立花の言ってた石板か」
立花「うむ。この中で何が行われているかはもう理解したな?」
輩人「それはわかったけど、これが朝ちゃんの夢と関係するのか?」
立花「無関係ではない。朝はこの中で起きたことを夢に見たと言っていた」
輩人「だから俺が石板に入って、朝ちゃんを説得するわけか」
立花「そうだ。朝の眼鏡をかけてな」
輩人「立花たちは来ないのか?」
立花「朝の眼鏡をかけぬと中に入れんのだ」
夜「輩人様。ここはやはり、私が行くべき――」
輩人「大丈夫。朝ちゃんは必ず目覚めさせる。だから――」
輩人「――夜は、そんなに自分を責めないで」 ■石板の中
石板の中に入り、気がつくと三塵荘の前にいた。
輩人(ここは……三塵荘)
一瞬怯みながらも、意を決して目の前の男たちを追い中に入る。
男たちは別々の部屋に入ると、それぞれに奇妙な儀式を始めた。
ある部屋では鶏や豚を惨殺し、ある部屋では女性が一人、身体を振るわせ泣き叫ぶ。
そこに朝の眼鏡をかけた男が、一人の少女を抱きかかえて現れた。
輩人(あれが朝ちゃんのお父さんか。ってことはあの子が…)
二人の後をつけて、二階の奥にある隠し部屋へと入り込む。
男は少女を魔法陣の上に寝かせると、呪文を唱え始める。
すると少女は立ち上がって目を開けた。
しばらく地震のように三塵荘が振るえた後、ぴたりと狂騒が止む。
ほどなくして、男と少女が話し始めた。
紀彦「――私の願いは、この子を生きながらえさせたいだけです」
輩人(朝ちゃんを生かすために儀式を!?)
少女とひとしきり話し終えると、紀彦は尻餅をついて笑い出した。
と思えば、今度は少女に向かって優しい声で語り出す。
紀彦「――私はここで命を絶つとしよう……」
輩人(まずい!) 男の言葉に慌てて割って入り、視界をふさぐように少女を抱きしめた。
輩人「朝ちゃん! 目を覚ますんだ!」
輩人「夜がいればいいなんて駄目だ。朝の来ない夜じゃ、人は生きていけない」
輩人「頼むから目を覚まして、俺たちを――」
どんっ――という衝撃が背中に走る。
殴られたのかと思ったが、次の瞬間に全身の力が抜けて、刺されたのだとわかった。
輩人「――助、け…て――」
目を見開いた少女に向かってそう呟きながら、糸が切れるように崩れ落ちた。 ■三塵荘
??「…輩人君! 輩人君! 目を覚まして!」
輩人「――うぅ…」
??「輩人君!? 良かった!」
輩人「…あれ、君は……朝ちゃん? 朝ちゃんなの!? でも目が開いて…」
朝「うん。目が見えるの。それよりごめんね輩人君。朝なんかのために…」
輩人「ううん――朝ちゃんは太陽なんだ。君がいるから、みんな元気に輝ける」
朝「そんなこと…」
輩人「今だって、悪夢から救ってくれたのは朝ちゃんじゃないか」
朝「あれは、夢の中で輩人君が刺されて、とにかく目を覚まさなきゃ!…って」
輩人「俺は、朝ちゃんともっとお喋りしたり、一緒にいたりしたい。朝ちゃんは?」
朝「朝は……朝も、したいよ」
輩人「じゃあそばにいてよ。一緒に悩んで、一緒に笑ってよ。困ったときには頼らせて」
朝「朝を、頼る?」
輩人「そうだよ。受験の話、進路の話、将来の話。話したいことはたくさんある」
朝「朝で、役に立つの?」
輩人「俺が朝ちゃんに相談したいんだ。そう思える相手がいるなんて、すごく素敵じゃない?」
朝「――うん。だったら、朝はなりたい。輩人君の未来を照らす太陽に」
輩人「良かった。これからもよろしくね……あ、朝日が」
朝「うわぁ――」
朝「――朝日って、こんなにきれいだったんだね」 三葉「先輩! 夜ちゃ……えっ!? 朝ちゃん? 目が見えるの!?」
朝「三葉ちゃん! ごめんね、心配かけて…」
三葉「ほ、本当に――本当に朝ちゃんなの!? 本当の本当に!?」
砌「さすが三葉ちゃん。空気を読まずに突入できる」
立花「砌に言われるとはな…ともあれ、突然夜がいなくなって慌てたぞ」
輩人「立花。砌ちゃん。よくここがわかったな」
立花「うむ。前もここに出たのでな。夜が消えた後、急いで走ってきた」
砌「砌は先に着いたけど、空気を読んで黙って見てた」
輩人「あ、ありがと…う?」
立花「しかし、疲れたのぅ。結局一晩中かけずり回ってしまった」
輩人「立花のおかげだよ。こうして朝ちゃんや夜が無事に戻ってこれたのは」
立花「立花は口出ししただけだ。輩人なくしては無理だった」
朝「立花ちゃんも、砌ちゃんも、迷惑かけてごめんね」
砌「問題ない。友達は大事」
立花「うむ。苦楽をともにしてこその友、だからな。さて――」
立花「――朝よ。八葉を救いたい。手を貸してくれ」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています