今月20日に召集する通常国会で安倍政権が新設をもくろむ「共謀罪」。過去3度の関連法案の廃案に懲りたのか、新たに「テロ等組織犯罪準備罪」と命名し、「テロ対策」を前面に打ち出している。
だが、テロに備えるだけなら、現行法でも対策は十分に可能なのだ。

 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)が言う。

「テロの常套手段である爆破行為は、『爆発物取締罰則』という法律で爆発物の使用に限らず、共謀するだけで刑事罰が科せられます。懲役3〜10年の罰則は『共謀罪』の規定(懲役2年以下)より重い。
また、刑法には『内乱陰謀罪』や『私戦陰謀罪』など犯罪をたくらんだだけで罰せられる法の規定もある。現行法の中にもテロの共謀を取り締まる厳しい規定があるのに、わざわざ『共謀罪』を新設する必要性があるのか、疑問です。」

 2014年10月、「IS」に戦闘員として加わるため渡航準備中に強制捜査を受けた北大生が、結局は渡航を断念した事件があった。この時の容疑も「私戦予備・陰謀罪」。外国に対しての戦闘をたくらんだ“かど”だ。

 他にもテロに有効な刑法はいくらでもある。「殺人、放火、強盗、ハイジャック」など重大犯罪は、犯罪が行われなくても、予備、準備行為で罰することができる。また、「凶器準備集合罪」は凶器を持って集合しただけでアウトだ。
テロ対策の強化が必要というなら、現行法の適用を見直したり、強化すれば十分である。

それなのに、「懲役・禁錮4年以上」の犯罪すべてを対象にし、実に676に上る罪に、「共謀罪」の裾野を広げるなんてメチャクチャだ。中には著作権法違反や所得税法違反、賭博場開帳の罪(刑法)など、テロとは直接関係のない罪まで含まれているから、非常に危なっかしい。

「テロ対策というなら、政府は、現行法ではどういうテロに対応できないかを示し、具体的にどの犯罪で共謀罪の新設が必要かを説明すべきです。
いきなり676もの犯罪を提示してから、恐らく修正協議で対象を絞り込み、通そうとする魂胆でしょうが、言語道断です。」(金子勝氏)

こんなムチャな手口で危ない法案を押し通そうとする方が、よっぽど“テロ行為”に近い。

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