続き 
籠の中の様々な形の愛らしい菓子に気づいた○○○が、しなしなと手を伸ばし、
「このクッキー凄く美味しいわ。誰が焼いたのかしら?」
と、聞く。マルトは悟られない様に固唾を飲んだ。
「おかしいわね・・・召使に作らせた記憶はないのだけど・・」
とマリアは眉間に皺を寄せて首をひねった。
「マリアじゃ、こうは行かないわね 昔から勉強はできても料理とお裁縫はまるで駄目でおかしくって」
○○○が話してる途中で堪え切れずに声を上げて笑う。
マルトは友達同士の軽口と分かりつつも自分が貶されているかのような気持ちになり、カチンと来た。
昔からマイナスの感情を隠し通すのは人一倍上手かった。寂しさも怒りも虚しさも哀しみも
どこか、諦めに似た気持ちでやり過ごして来た。
なのに、何故こんな事で腹が立つのか・・・。
(らしくないわよ・・・落ち着いて)と自分に言い聞かせ、紅茶を飲む。
「もしかして、あなたが?」マリアが睫の長い澄んだ目を向けて
問う。「・・・そうよ いい忘れたけど 私が焼いたの・・・」
マルトは目を伏せ呟いた。
「まあ・・あなたが・・!ありがとう。普段は甘いものはあまり食べないのだけど、これ
だったらいくらでも食べられそうよ 」
薄化粧でも美しい恋人は、目尻を細めて嬉しそうにクッキーを眺め、味わっている。
この愛しい笑顔を、二人きりの時に見たかった。この言葉を、二人きりの時に聞きたかった。
そして、できる事ならこの時間を二人で共有したかった。
マルトはニヒルに微笑みを返しながらもこんな想いが駆け巡り
頭の中を占めていた。
私は、こんなにも貴女に囚われ始めているのよ・・・。
マルトは○○○と談笑しているマリアを恨めしく盗み見た。
眠くなってきたのでまた今度。。。