なんだかんだで人のいいアルトはシェリルの慌てっぷりに押されてそう答えざるを得なかった。
リビングに戻ったアルトはカウントを始める。
「1、2、3」

シェリルが何か企んでいるらしい。

「10、11、12」

カウントしながら、しおれていたアルトの心は少しずつ浮上してきた。
自分の期待していたものとは違うのかもしれないが、
シェリルが自分との時間を望んでいる。
それだけで、いいじゃないか。

「27、28、29」

シェリルは何を見せてくれるんだろう。

「30」

数えるスピードには個人差があるだろう。
この後に及んで待たさのも男の意地が許さない。

シェリルに電話をしようとケータイを取り出した時、
勢いよくドアが開く音がした。

「シェリル、一体何なんだよ」
シェリルに自分の居場所を教えるように、アルトは声を上げた。

とたとたとシェリルが駆ける足音が近づいてきて
心の高まりを感じるアルトは
やっぱりシェリルにはかなわないなと思ったのだった。