「考えなおせ、アルト。お前は人殺しに向いてる男じゃない。(中略)」
震える肩に、ミシェルの手が伸びた。
「違う!違うのよ、ミハエル!」
だん、と有人のこぶしが、ミシェルの厚い胸板を叩いた。
その瞳から零れた涙が素肌を伝って、岩に吸い込まれて、消える。
「私は……男……なのに……なのに、私が…オレが…演じた女にしか、
誰もが価値を認めない…あなただって…そうじゃない…」
「…アルト」
ミシェルは、初めて自分の軽口が、どれだけ友人を傷つけていたかを知って
慄然となった。
「男のさ…男のセックスのための理想型にされて、毎日みたいに性欲剥き出しに
した眼で見られてさ…!(中略)」
「…顔、拭けよ。涙でえらいことになってるぞ」
「ミハエル…」
さまざまな感情を押し殺して、ミシェルは有人の涙をハンカチで拭いてやった。
目の前で泣きじゃくる友人が可憐な乙女にしか見えなくなって、ミシェルはアルトが
男なのかどうか、直に性別を確認したい衝動にさえ襲われた