>>892
俺の口から「稲荷寿司」というフレーズが出た途端、
硬く閉ざされていた玄関の戸がガタガタと鳴りはじめた
「い、稲荷寿司!?」
「は、はい・・・ご近所を屋台で出張販売しているんですよ
定番のものから各地の名物稲荷寿司に変わり稲荷
色々と取り揃えていますよ、ちょっと見に来てみませんか?」
ここではあえて強制するような事は言わない
相手に対して、お願いするように、あちらから行動してもらえるように腰を低くするのがコツだ
「い、い、稲荷寿司!!」
玄関が更に大きくガタガタと鳴り出した
まるで「稲荷寿司」という言葉で興奮しまくったあの子、きつみはが
玄関の鍵を開けるのを失念して力任せに戸を開けようとしているみたいだ
ここまで「稲荷寿司」が効果的だったとは・・・よし、もう一押しだな
「本日限定の稲荷寿司もあるんですよ、しかも数量限定なんでお早めにどうぞ」
「限定!数量限定!!稲荷寿司!!!」
ああ、あの子の興奮している声・・・聞いているだけでもうこっちまで興奮しそうだよ
さあ、早く鍵を開けて出てきてくれ!もっと身近でその興奮した顔を拝ませてくれ!!

「ねえ、これ屋台?珍しいわね」
「しかも稲荷寿司しかないのね でも色んな種類があって美味しそうよ」
俺が用意した屋台の方から、年配の女性たちの賑やかな声が聞こえた
「あ、これいいわね 今日の夕飯はこれにしようかしら 店員さんは?」
「じゃああたしも お兄さん、店員さん?これとこれとを三つずつちょうだい」
「あたしはこれとこれとこれを二つずつね」
あ、あれ?お客さん?はい、今行きますよ、これとこれね、次の方はこれとこれとこれと・・・毎度ありがとうございます
え?全種類一つずつ?ありがとうございます!!
次のお客さんは・・・「残ったの全部ください」
ん?この声は・・・この家の主であるメタボな男!
しまった!普通に接客していたら、きつみはじゃなくてメタボな方が出てきてしまった!!
家の中からは「いなりず〜しいなりず〜し、おいしいいなりず〜しがいっぱい〜」とあの子の歌声が・・・
この作戦、失敗なのだが、営業的には大成功してしまった・・・   つづく