(そして、大陸の南端に位置する王都の、そのさらに南に下った先に田舎の村があるのだが)
(その村はずれに家を買って余生を送ることに)
もう八時か、顔を洗ってさっさと狩りに出かけよう
(狩りの経験は殆どなかったが、村に住んでいる狩人に弟子入りして一週間ほどで大体のコツは掴んだ)
(俺は狩りの道具を装備し、魔物と鉢合わせした時のために兵士時代に使っていた一振りの剣を腰に差す)
さて、出発だ
(家の戸締りをし、裏山に向かって森へと入った)
(針葉樹林の森は背の高い木々が密集していて、朝日が木々の隙間から漏れ出ている)
(朝の森の香りを肺いっぱいに吸い込んで深呼吸をした)
(周囲をよく観察しながら森を進むこと一時間くらい)
(獣道にある茂みの木の枝が、ところどころ折れているのに気付いた)
まだ近くにいるようだな
(動物がここを通った証拠だ、近くに獲物がいるかもしれない)
(俺は周囲に神経を集中させながら慎重に歩みを進め、槍を手に持って準備をする)
(イノシシの類なら弓で仕留めるのは難しく、槍が必要なのだ)
どこにいる、さあ出てこい
(槍を構えて慎重に進んでいると、大木の根っこの所に生き物の気配が)
(だが、それはイノシシなどではなく、人間だった)
(よく見ると獣耳が生えているから亜人というやつかもしれない)
(彼女はみすぼらしい服を着てそこへうずくまっていた)
(この辺に住んでいるのか、それとも人間に捕まってここまで逃げて来たのかもしれない)
(俺を見て怯えている)
(俺は、槍を背中に戻し、ゆっくりとその亜人の娘へと近づいた)