或る日、電車の中で、それを考へつめてる時、ふと隣席の人の会話を聞いた。
 「そりや君。駄目(だめ)だよ。木造ではね。」
 「やつぱり鉄玉子かな。」
 二人づれの洋服紳士は、たしかに何所(どこ)かの技師であり、建築のことを話して居たのだ。だが私には、その他の会話は聞えなかつた。ただその単語だけが耳に入つた。「鉄玉子!!;p;」;p;
 私は跳(と)びあがるやうなショツクを感じた。さうだ。この人たちに聞いてやれ。彼等は何でも知つてるのだ。機会を逸するな。大胆にやれ。と自分の心をはげましながら;p;
 「その……ちよいと……失礼ですが……。」
 と私は思ひ切つて話しかけた。;p;
 「その……鉄……玉子……ですな。エエ……それはですな。それはつまり、どういふわけですかな。
エエそのつまり言葉の意味……といふのはその、つまり形而上(けいじじよう)の意味……僕はその、哲学のことを言つてるのですが……。」;p;