「……アンタ誰だっけ?」

病室のドアを開け、真っ先に凪に駆け寄った悟に発せられた言葉は、残酷なものだった。

「大変申し上げにくいのですが、凪さんは記憶の一部を失っています。」

別室に移り、凪の担当医の説明を受ける悟は、普段からは想像もできないような真剣な面持ちだった。

「…つまり、せ…凪君は僕のことを思い出せないでいる、と」
「はい。理由は分かりませんが、あなたのことだけが思い出せないようなのです。」

両親のこと、学校のこと、事故の時に凪がいた青い監獄のことは思い出せるのに、どうしてか自分のことだけ思い出してくれない凪。
悟はこれまでに感じたことのない焦燥感に駆られていた。
それでも、自分は凪より大人で、日常的に記憶喪失を超えるような超常現象と戦っている。
…何より、僕は現代最強の呪術師。

「まあ大丈夫でしょ。だって僕最強だし、凪は僕の…友人だから。」
見ず知らずの人間に、凪と自分の本当の関係を知られる訳にはいかない。
この嘘は、凪の人生を守るために一生つき続けるものだ。

軽く手を振って病室を後にした悟の顔は、もう笑っていなかった。

……To be continued?