でも、このときに私がどんな思いでいたかだけは、決して話せない。

誰もいないと思っていたら、先客がいた。
一人だけなので、着替えがあったことに気づけなかっただけだろう。
いい人らしく、シャンプーを貸してくれるといってくれた。
カーテンを開けて姿を現したその子は、ショートカットで一瞬男の子にも見えた。
一瞬だけ呆然となったが、アキラの件で私はちゃんと反省していた。
こんなかわいい子が男の子のわけがない。
「ありがとう、使わせてもらうわ」
頭から砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを被った私には有り難かった。
でも、肝心のその子はシャワーを止めて出て行ってしまう音が聞こえてきた。
ちょっと待ってよ。ローゼンベルク家の者にネコババさせないでほしい。
肩からタオルをひっかけただけの状態だけど、とりあえず追いかける。
その子の前で予備の眼鏡を掛けた。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
何か、立ってた。
暴虐的な兄のそれを知っているから、小さくて細くて頼りなさげだったけど、
その子の股間には、女の子には無いものが確かにそそり立っていた。
それから、今の自分の状況を思い出す。
肩からタオルをひっかけただけで、胸はほとんど丸出し、下は何一つ穿いていない。
見てしまった。
そして、全部見られてしまった。
兄以外の、男の子に。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ちょ、ちょっ、ちょっっと黙ってえええっっ!!」
慌てて男の子が迫ってきて私の口を塞いだ。
「もがもがもがもがもがもがもがもがーーーーーーーーーー!」
「騒いだら人が来ちゃうよ……!静かにして……!」
人が来たら困るのはそっちじゃないのか。
女子シャワー室に男子が入り込んで女の子の口を塞いで拘束しているんだから。
思いっきり暴れてやるんだから。
「もがもがもがもがもがもがもが!!!」
「あーーーーーーーーもう!痴女じゃないなら黙ってよ!危ないから!」
「痴女言うなーーーーーーーっ!」
「マグナム!!」
看過できない侮蔑に思わず右拳が出て、痴女呼ばわりしてきた痴漢をぶっ飛ばす。
「あーーーん何よ何なのよこいつーー!!」
恥ずかしくて泣きたい心境、いや、もう泣きながらわめいていた。
もうどうしてくれよう。
「それはこっちが聞きたいよ」
顔面にマグナムを当てた痴漢がむっくり立ち上がってこちらを見てきた。
まだこっちは裸なのに!
「キャーこっち向くな!スケベ!変態!エロザル!」
制裁!制裁!制裁!
とはいえ、効いてないことはわかる。
別段鍛えたわけじゃない私の拳は、所詮だだっ子が振り回してるだけだ。
対して痴漢は、ぱっと見女の子みたいなのに、よく見ると細いなりに筋肉がしっかりついてる。
最初の一発は不意をついたから倒れただけで、あとは揺るぎもしなかった。
見切られていたのか、十発目くらいの拳を受け止められて、まじまじと見据えられる。
「あの……わかってる?ここ、男子シャワー室だよ?
 君が痴女でなければ、思いっきり間違えてると思うんだけど……」
へ?
えーと。
そういえば入るときに確認した覚えがない。
庶民のシャワー室になんて入ったことがなかったから、
そもそも男子シャワー室があるということを失念していた。
だとすると、だとすると、だとすると、人が来るのは、ものすごく、まずい。
顔から血の気が引いた。