▲▼ ARIAでエロパロ! 6 ▲▼
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0256「お姉ちゃんの彼氏」的な位置付け2008/05/06(火) 03:18:44ID:208OKXaY
※エロ無し


「たのもぉぉーーーーっ!!」

夕暮れ時。
水先案内『ARIAカンパニー』の受付に野太い声が響いた。
「は、はぁーい!」
まだ覚束ない手付きで閉店の準備をしていたアイが、店の奥から慌ててカウンターへと駆けていく。
「すみません。本日はもう終了してしまったんです……け……ど」
茜色の光を受けて立つ男に近付くにつれ、次第に少女の歩みは遅く、声は小さくなっていった。

腕を組んで立つ、背の高いシルエット。
長い黒髪を頭の後ろで一束に括り、偉そうにふんぞり返っている。
ゆったりとした上着を羽織った下から覗く体躯は、細身ながらも鍛えられた筋肉の影が浮かび上がり、
肩幅の広さも手伝って実際よりもずっと大きく見えた。
オマケに、ギロリと藪睨みに見下ろす剣呑な目付き。

 ──怪しい。アイの小動物的防衛本能が警告を発した。

男の全身から発散される不審者オーラ。チンピラというか押し込み強盗というかお嬢ちゃん今一人なの
ウエヘヘヘ大人しくしてれば天国へ連れてってやるぜ的な身の危険をひしひしと感じる。

「むぅ? なんだ、お前は」
アイの姿を見とめて、男が声を発した。無駄によく通る声だ。
「あ、あの……どういった御用件でしょう」
接客業たるもの、どんな相手でも怯まず応対しなければならない。
頭では分かっていても、アイは完全に腰が引けていた。
不安そうな表情を浮かべ、『困ったお客様応接マニュアル』を必死に脳内検索する。

「…………」
無言のまま、不審人物(←すでに客と認識されてない)が身を乗り出してきた。
「ひっ!?」
反射的に、アイが一歩後ずさる。
「む?」
カウンターに両手をつき、男が更に身を乗り出す。つられてアイも更に退く。
「……………………」
「……………………」
数秒の沈黙の後────男がカウンター横から店内に入ってきた。

「キャアアアアアァァァッ!!」
「ぬぅっ!?」
思わず悲鳴を上げて店の奥へ引っ込むアイ。その後を、男が追ってくる。
「な、なんで追い駆けてくるんですかぁ!」
「お前が逃げるからに決まっとろうが!」
あっという間に店の隅に追い詰められ、アイはうずくまって怯え竦むしか出来なくなった。
「ひーーん」
「ったく、てこずらせやがって。ほれ、もう観念しろ」
ずい、と男がにじりよってくる。その顔に浮かぶ、邪悪に勝ち誇った好色な笑み。
嗚呼。哀れな小鳥は、このまま下卑た欲望に羽を散らされ、その幼い肢体を貪られてしまうのだろうか。
0257「お姉ちゃんの彼氏」的な位置付け2008/05/06(火) 03:20:23ID:208OKXaY
  
 ──スパーーーン!!
小気味いい音と共に、男が前へつんのめった。

「何やってるんですか暁さん!? アイちゃんが怯えちゃってるじゃないですか!!」

丸めた帳簿を片手に、もう片方の手を腰に当てて、男の後ろにアイと同じ制服の女性が立っていた。
腰より長い髪。服の上からも分かる、成熟した女性らしいスタイル。
アイよりは幾分背が高いが、それでも長身の男とは頭一つ以上の差がある。にも関わらず、彼女は
一歩も怯まず毅然として不審人物を睨みつけている。

「も、もみ子。不意打ちとは卑怯者め。オレ様はこいつの素性を聞いてるだけだ」
「アイちゃんはうちの新人です。まだ入ったばかりなんだから恐がらせないでください。それと、
 いい加減“もみ子”は止めてください。私が今の髪型にしてどれだけ経ってると思ってるんですか」
「なにおう!? もみ子はもみ子だろうが!」

(……あれ? なんだろう、この感じ……)
アイは目の前でいきなり始まったやり取りを──自分の“師”であり『ARIAカンパニー』の
先輩でもある水無灯里と、怪しい男との会話を呆然として見守っていた。

どうやら男の方は灯里と顔見知りらしい。とりあえず身の危険は去った、と内心で胸を撫で下ろす。
それにしても、灯里がこんな風に強い口調で誰かを咎めるなんて、初めて見た。
アイの知っている彼女は、その二つ名──アクアマリンの名の通り、何処までも遠く澄んだ
海のように、いつも穏やかで優しい人だから。

そんな風に考える余裕が出来て、あらためて男の様子を観察してみる。
灯里との言い合いは未だ続いているが、なんとなく男の方が旗色が悪そうだ。内容も段々子供の
口喧嘩レベルになってきている気がする。
そして、上着の背に見えるのは『炎』をかたどった紋様。
(この人、サラマンダーだ!)
空高い浮き島にあって、惑星アクアの大気温度をコントロールする『炎の番人』。
でも、なんでそんな人が地上の、しかも水先案内人の所へやってくるのだろう?

「ごめんなさいねアイちゃん、恐い思いさせて。私が手が離せなかったばっかりに」
灯里が駆け寄って、まだ床に座り込んだままのアイをぎゅっと抱き締めてくれた。
「い、いえ。私も勝手に動転しちゃって」
「まったくだ。おかげでえらい目に遭ったぜ」
「────暁さん?」
男のぼやきに、アイの手を引いて起こしながら灯里が笑みを浮かべる。その視線に、暁と呼ばれた男は
バツが悪そうにそっぽを向いた。
(やっぱり、なんか違う)
灯里と男に対するイメージが自分の中で大きく変わっていくのを、アイは感じた。

「ぷいにゅ〜」
男──暁の足元に、いつの間にかアリア社長がやってきていた。
ブーツに纏わり付き、丸い身体で懸命によじ登ろうとしている。
そのまま蹴飛ばされるんじゃないかとアイは内心ヒヤヒヤしたが、暁の方は別に気にした風も無く
社長のやりたいように任せたままだ。
「それで、今日はどうしたんですか」
アイの乱れた髪を整えてやって、あらためて灯里が暁に向き直った。
「む? ああ、ほれ、あれだ。ええと…………つまり、だな。今月は何かと物入りいうか、
 先立つものに少々事欠いてるというか……まぁ察しろ、色々と」
アリア社長を抱きかかえて肩に担ぎ直しながら、歯切れ悪く暁が答える。
「……………………晩御飯、食べていきます?」
「悪いな」
ため息混じりに申し出た灯里に、暁はニヤリと笑った。
0258「お姉ちゃんの彼氏」的な位置付け2008/05/06(火) 03:22:59ID:208OKXaY
 * * *

「へぇぇ。じゃあ暁さんは、灯里さんにとって“初めて”のお客様だったんですね」
三人と一匹の食卓。
シチューを掬うスプーンを止めて、アイが暁に話し掛けた。
「おう。なんせ半人前もいいとこだったからな。船足はトロいわ、あちこちぶつけるわ、
 そりゃひどいもんだったぜ」
パセリソースをまぶした豚肉を口に運んで、暁が昔を思い出すように笑った。
「ちゃんと時刻に間に合わせたんだからいいじゃありませんか。大体、料金も払わなかった人に
 文句を言われる筋合いはありません」
暁の器にサラダを取り分けながら、灯里が言い返した。自分の恥ずかしい過去を暴露されている
せいだろうか、心なしか顔が赤い。
「それは料金を請求しなかったもみ子が悪い」
「だから、もみ子じゃありませんってば!」
「えーと……」

なんだろう。
ARIAカンパニーに来てから、こんなに賑やかな──というか騒がしい食事は初めてだ。
いつもの、灯里さんとアリア社長とで囲む穏やかな食卓も好きだけど、これはこれで嫌いじゃない。
何よりも、今日の灯里さんはいつもと違ういろんな表情を見せてくれる。
ただ、一つ気になるのは暁さんという人の事。
いったい、この人は灯里さんとどういう関係なんだろう。

「あの……」
全員の目が一斉に自分に向けられて、アイは言いかけた言葉を詰まらせる。
「え、えと……その、灯里さん達の昔の話……もう少し、聞きたいかなぁ、って思って……」
ストレートに二人の関係を聞く勇気は無い。だから別の切り口で尋ねてみた。
「ふふん。そうかそうか。コイツのドンくさ〜〜いエピソードをそんなに知りたいか。
 ではオレ様が、もみ子最強ドジっ子伝説の数々を──」
「暁さん」
組んだ両手の上に顎を乗せ、灯里が暁に向けて極上の笑みを浮かべた。
「ここ、明日から出入り禁止になりたいですか?」
「ぬぅっ!?」
少し首を傾げ、“たおやか”と言って差し支えないはずの仕草をしながら、灯里の言葉には
有無を言わせぬ迫力があった。
これが『水の三大妖精』の貫禄というものだろうか。

「くぅっ。人の弱みに付け込んで横暴を振るいおって。こんな奴がアリシアさんと同じ三大妖精に
数えられるとは、世間の連中は見る目が無いとしか思えん」
「当たり前みたいにタダ乗り・タダ飯していく人に、横暴とか言われたくありません」
「あはは…」
そろそろアイも今までとのギャップに驚かなくなってきている。

「あのね。私がARIAカンパニーに入ったのも、アイちゃんと同じくらいの時だったの」
そうして、灯里は自分が入社してからの物語をアイに聞かせてくれた。

お友達との出会いのこと。
先代の水の三大妖精のこと。
会社の枠を超えた合同練習の日々。
不思議な“猫妖精”の話。

それは、アイにとっても驚きと感動のいっぱい詰まった物語。
食事を終え、まったりとしたお茶の時間になっても、アイは瞳を輝かせて熱心に聞き入っていた。
0259「お姉ちゃんの彼氏」的な位置付け2008/05/06(火) 03:25:25ID:208OKXaY
 * * *

外はすっかり日が暮れていた。
微かに温かい風が吹いている。
町並みの灯を受けて揺らめく黒い水面を、暁と灯里は、二人並んで眺めていた。

「いい子じゃねぇか。客商売にしちゃ、ちょっとオドオドしてるっぽいのが気になるけどな」
両腕を上着の袂に収めて、暁が口を開いた。
「でも、とっても素直で、ゴンドラを漕ぐのが大好きなんですよ。
 最初は誰だって未熟で当たり前です。将来は、きっと素敵なプリマになれますよ」
我が事のように嬉しそうに、灯里が答える。
「しっかし、こいつは参ったな。これじゃあ流石に今夜は泊まっていく訳にもいかんか」
残念そうに溜息をついて、暁が頭を掻く。
「どうするんです? ロープウェーはもう終業時間ですけど」
「なに、いざとなったらアルの所にでも転がり込むさ」
風が、灯里の香りを運ぶ。“お預け”を食わされた今の身には辛い。

「……ったく、新入社員が居るなら先にそう言っとけ。お陰でビビらせちまったろうが」
「だって、こっちから暁さんに連絡する手段って手紙くらいしか無いじゃないですか。
 だからメール端末くらい持っておいてほしいって、前から言ってるのに」
「馬鹿者。大丈夫たるオレ様が、そんなチャラチャラした物が持てるか」

アクアの海に向かって、暁が無意味に威張る。それから、少しだけ優しく笑ってみせた。
「だけどまぁ、良かったじゃないか。アリシアさんが引退してから、ずっともみ子一人で
 頑張ってたもんな。二人なら何かと心強いだろ」
暁の横顔を見上げて、灯里がはにかむ。
「これからは、オレ様がちょくちょく様子を見に来る必要も無くなったかな?」
「…………」

 ぎゅっ。

灯里が暁の腕を抱き込んで、その肩に頭を預けてきた。
「お、おい、もみ子」
彼女からの不意打ちに、暁が慌てた。肘に当たる柔らかな膨らみを感じて、抑えたはずの血が騒ぐ。
「急に甘えるな。離れろ」
「意地悪な人の言うことなんか、聞いてあげません」
「意地悪? このオレ様が、いつ意地悪をした」
「そーゆーところが、でっかい意地悪です。アリスちゃん的に」





(──ああ。やっぱり、そういう関係だったんだ)
暁を見送りに出たまま戻らない灯里を心配して様子を見に来たアイは、テラスで仲良く寄り添う
後ろ姿を見つけて全てが腑に落ちたように独り頷いた。そのまま回れ右で戻ろうとして、
「ぷいにゅ」
「わ〜、ダメダメ社長。いま行ったら二人のお邪魔ですよぉ!」

背後で、灯里の笑い声がした。

(おしまい)
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