日差しも和らぎ、冷たい風が身に染みる午後、俺は子供の手を引いてARIAカンパニーを訪れた。
学校の宿題で水先案内人のインタビューをするらしい。俺は子供に引きずられるようにしながら、桟橋を渡った。
「あっ、いらっしゃいませ!ようこそARIAカンパニーへ!」
若々しい声と共に俺達を出迎えたのは、十四、五の少女だった。真新しい制服に青いリボンが目に眩しい。
「いらっしゃいませ。ご予約承っております、庵野波平さまですね。どうぞこちらへ」
店の奥から現れた秋乃は、あの頃と少しも変わらなかった。まるで自分の家に帰ったような気持にさせる、あの笑顔。
ぎこちない手つきでゴンドラを引き出してくる少女は見習いなのだろう。オールを受け取る秋乃の目は母親のように慈みに溢れていた。
「お客様、お手をどうぞ」
腰を屈めて子共の手を取り、ゴンドラに上げる。そして今度は俺に手を差し出した。
職業柄ゴンドラには慣れていて照れくさかったが、大人しく手を取ってゴンドラに上がる事にする。
二人の体が最も迫った瞬間、秋乃が耳元で小さく唇を開いた。
「ありがとう」
柔らかな髪を秋風になびかせながら、彼女はそう呟いたのだった。