侍女達の明るいさざめきが段々と近づいてくるのに気づいてシャクヤは静かに体をこわばらせた。
ここへ、来るつもりだろうか。
使用頻度の低いよろずの物が保管されている、離れのこの小部屋へ。
「クワン…」
彼女は不安げに後ろを振り返ろうとする。
午後の強い日差しが扉の隙間からわずかに漏れ入る室内は、しかしひんやりと涼しい。
密会の最中だった。

所用で宮に顔を出すことの多い歳上の許婚と
人目を忍んで情事を重ねるようになってどれくらい経つのだろう。
無論シャクヤは大好きな相手に抱かれることが嬉しくてたまらなかったが
それを表に出すにはもう一人の許婚に遠慮がありすぎた。
アンバランスな関係を続けておきながら、ルシンを傷つけることを思えば胸は痛む。

ともかく密会の最中である。
二人ともかろうじて着衣。
しかし既にシャクヤは熱く掻き乱されており、立ったまま背後からクワンの侵入を許していた。
凶暴な熱のかたまりに内部は余すところなく支配され、わずかの振動にもシャクヤの声はうわずるほど。
それなのに。
侍女達は確かに近づいて来ている。

「この部屋じゃなかったかしら」

扉に手をかける音が鈍く響いた。

「だって去年使った時は3人がかりで運んで…」
「ていうか一部屋ずつ調べていけば済むってさっき決めたばっかでしょうが」

何やら探し物で賑やかに揉めている風である。
うず高く積まれた書籍やうっすらと埃をかぶったつい立ての隙間からシャクヤは扉の様子を伺う。
体重をかけている空っぽの飾り棚が小さく軋んだ。
どきりとして思わず身を起こすと
下腹が今にも動いてとおねだりしたくなるような激しい疼きに襲われて息を呑んだ。
しばらくじっと耐える。
見つかってしまうだろうか。それは非常にまずい。
「…シャクヤ様」
ふいにクワンが覆い被さって耳元に唇を寄せる。
鼻腔をくすぐる制服のストイックとも言える匂い。
シャクヤはこの匂いが以前から好きだったが、最近では背徳を感じ余計に反応してしまう。
「声を出さないでくださいね」
低い囁き。
その直後。
「───っあ!」
シャクヤの細い腰を両の掌で掴み、クワンは彼女を勢い良く突き上げた。